第2話|もう一度だけ、あの子に ― 鑑定室の物語

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占い
※「鑑定室の物語」は、月夜の鑑定室を訪れる方々の物語を綴る連作です。

十五年、いっしょに生きた家族を喪った方の、お話です。

その方は、戸を開けるのをためらっていらっしゃいました。入ろうか、帰ろうか。迷っていらっしゃるのが、影の揺れだけで伝わってまいりました。

やがて、そっと戸が開きました。入ってこられたのは、三十代半ばの女性。目の下にうっすらと隆がある、眠れていない方の顔でした。

「あの……うまく言えないんですけど。相談したいことが、自分でもよく分からなくて」

「ええ。それで、構いませんのよ」

その方は、湯呑みを両手で包んだまま、ぽつりと。

「先月、うちの子が、亡くなったんです」

その方が「うちの子」と呼んだのは、十五年いっしょに暮らした、一匹の猫のことでした。

「ひと月も経つのに、立ち直れなくて。からっぽのお皿を、片付けられなくて。たかがペットで、って思われるかもしれませんけど」

「たかが、ではありませんわ。十五年。あなたの人生の半分近くを共に歩んだ歳月でしょう。悲しくて当たり前。立ち直れなくて、当たり前なのよ」

その方の目から、ようやく、涙がこぼれました。

「占っていただきたいのは……あの子が今、幸せなのか。私を、恨んでいないか。もっと、してあげられたことがあったんじゃないかって」

わたくしは、カードを引きました。現れたのは「星」のカード。

「この星はね、もう昇ってしまった星なのですわ。夜空の星の光は、何年もかけてわたくしたちの目に届く。今あなたが見ている光は、ずっと前に放たれたもの。その星自身はもうそこにいなくても、光だけは、こうしてあなたを照らし続けているのよ」

「あなたのその子も、同じ。姿はもうそばにいない。けれど、十五年かけてあなたに注いだ光は、今もあなたの中で、ちゃんと光っているのよ。十五年あなたのそばを選び続けた子が、あなたを恨むはずがないでしょう。その子は、最期にあなたの腕の中を選んだ。それが、答えですわ」

その方は、声を上げて泣かれました。ひと月、ひとりで抱えてきたものを、ようやく外に出せたように。

「お皿、片付けてみます。捨てるんじゃなくて、ちゃんと洗って、しまってあげます。ありがとうって言いながら」

「ええ。それが、よろしいわ」

手放すことは、忘れることではありません。きちんと想いを込めて手放したものは、形を変えて、ずっと心に残るのですから。

その方は、来たときよりやわらかな背中で、夜の街へ帰っていかれました。見上げると、雲の切れ間に、星がひとつ、静かに光っておりました。

愛した時間は、消えません。その子が遗していった光は、これからもずっと、あなたの夜空を照らし続けます。

もし、その光が見えなくなる夜があったなら——どうか、ひとりで抱えこまないでくださいね。

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