はじめに
介護施設・医療機関・学校の防災について書いています。今回は、防災用品をつくる側・売る側の方に向けた内容です。
私は元消防職員で、現場に40年おりました。火災と救助の現場で、消火資機材を扱ってきました。その後、市役所の危機管理監として5年間、施設の防災計画を審査する側に立ってきました。現在も自治体の危機管理部門で訓練指導などに携わっています。
防災の書類づくりは、正解が分かりにくく、相談できる相手も少ない仕事です。できるだけ公的な資料の根拠を示しながら、実務でそのまま使える形でお伝えしていきます。
海外の工場から防災用品を仕入れると、英文の試験報告書が一緒に届きます。表紙には規格名が並び、結論の欄には「Pass」と書かれています。
では、その商品ページに「安全性が証明されています」と書いてよいでしょうか。
結論から申し上げます。多くの場合、書けません。「Pass」と書かれていることと、「安全性が証明されている」ことのあいだには、かなりの距離があります。
この記事では、①試験報告書と製品認証書の違い、②報告書から確認すべき5つのこと、③書ける表現と書けない表現、④なぜここまで慎重になる必要があるのか、という順で整理していきます。
■ 1. 試験報告書は、製品認証書ではありません
ここが最大の分かれ目です。
試験報告書(Test Report)は、提出されたサンプルについて、その試験を実施した日に、こういう結果が出たことを示す文書です。
製品認証書(Certificate)は、製造の体制まで含めて、第三者機関が継続的に品質を保証する文書です。工場監査や定期的な抜き取り試験が前提になります。
つまり試験報告書は、その1点のサンプルが、その条件下でどう振る舞ったかを記録したものであって、量産品全体の品質を保証するものではありません。
海外製の消火シートについて、米国ASTM規格・欧州EN規格の試験報告書を確認したことがありますが、いずれも表題は「Test Report」でした。結論は「Pass(合格)」です。しかしこれは、提出されたサンプルが、その試験の判定基準を満たしたという意味にとどまります。
この違いを押さえないまま「認証取得」「基準適合品」と書いてしまうと、根拠を尋ねられたときに答えられなくなります。
■ 2. 報告書から確認する、5つのこと
英語が読めるかどうかより、どこを見るかを知っているかどうかのほうが効きます。次の5点です。
① どの規格か(米国/欧州/国内/国際)
ASTMは米国、ENは欧州、JISは日本、ISOは国際規格です。報告書が示しているのは「その規格の試験を行った」ということであり、日本の法令に適合することを意味しません。ここを混同すると、「国際規格に適合」と書いたものの、国内の基準とは無関係だった、ということが起こります。
② どんな条件で試験したか
油の量、加熱の時間、かぶせ方——条件が変われば結果は変わります。商品ページに載せている使い方の写真が、試験の条件と食い違っていないかを見てください。ここはよく見落とされます。
③ 対象は何点か
「3体で実施」といった記載があります。サンプル数です。この数字こそが、1で述べた「量産品全体の品質」との距離を表しています。
④ 発行機関は、どこの誰か
第三者の検査機関なのか、製造者自身の社内試験なのか。社内試験が悪いわけではありませんが、その場合「第三者機関の試験で」とは書けません。あわせて、国際相互承認(ilac-MRA)の認定マークが記載されているかも確認します。
⑤ 判定基準は何か
「Pass」が、何に対する合格なのか。「1MΩ以上」といった基準値が書かれているか。基準が書かれていない報告書の「合格」は、何と比べての合格かが分かりません。
■ 3. 書ける表現と、書けない表現
同じ報告書をもとにしても、表現によって根拠の有無が変わります。
◯ 米国・欧州の規格に基づく第三者機関の試験で、調理油火災の消火性能が確認されています
◯ 試験報告書(ASTM/EN)を保有しています
✕ あらゆる火災に対応します
✕ 全製品が基準をクリアしています
✕ 国が認めた安全性です
✕の3つは、いずれも試験の範囲を超えています。「あらゆる火災」は試験していない火災を含み、「全製品」はサンプル数を超え、「国が認めた」は誰も認めていません。
○の書き方は地味に見えるかもしれません。ただ、地味な表現は、根拠を尋ねられたときに崩れません。
■ 4. なぜ、ここまで慎重になる必要があるのか
景品表示法には「不実証広告規制」という仕組みがあります。
消費者庁は、その表示が優良誤認にあたるかを判断するため、事業者に対して表示の裏づけとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができます(景品表示法第7条第2項)。提出期限は原則15日です。期限までに提出できなければ、その表示は優良誤認表示とみなされます。
ここで重要なのは、「資料を持っている」ことと、「その資料が表示を裏づけている」ことは別だという点です。分厚い英文報告書があっても、それが商品ページの一文を裏づけていなければ、根拠を示したことにはなりません。
なお、法令に照らして適法か違法かの判断は、弁護士など法務の専門家の領域です。私が申し上げているのは、その前段階——その資料が技術的に何を証明していて、何を証明していないのかという点です。ここが定まっていないと、法務に相談しても議論が進みません。
■ 5. 社内でできる、確認の手順
外部に頼まなくても、次の手順である程度は整理できます。
1. 報告書の表題を見る。「Test Report」か「Certificate」か。
2. 試験条件の項を、日本語で書き出す。対象・数量・条件・判定基準の4つです。
3. 商品ページの表現を、1文ずつ分解する。
4. 各文について、報告書のどこが裏づけているかを対応させる。
5. 対応づけられなかった文に、印をつける。
5で印が残った文が、根拠を求められたときに答えられない文です。まずはそこだけでも把握しておくと、次の一手が決めやすくなります。
■ まとめ
- 試験報告書は、提出されたサンプルについての記録であり、製品認証書ではありません
- 見るべきは、規格・条件・対象数・発行機関・判定基準の5点です
- 「あらゆる」「全製品」「国が認めた」は、多くの場合、試験の範囲を超えます
- 根拠資料の提出を求められたとき、原則15日で答えられる状態にしておくことが大切です
防災用品は、いざというときに人の命に関わるものです。だからこそ、書けることだけを、正確に書く。それが結果として、商品への信頼につながるのだと考えています。
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【この記事を書いた人】
消防吏員として40年、火災と救助の最前線に。
消火資機材を、現場で扱ってきました。
その後、自治体の危機管理監として5年、
計画を審査・指導する側を務めました。
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英文の試験報告書、規格適合資料——
「Pass」が何の合格なのか、
商品ページにどこまで書いてよいのか。
資料をお送りいただければ、
・その資料が証明していること/していないこと
・根拠が確認できない表示の箇所
を整理し、監修レポートとしてご報告します。
ただし、監修をせずに推薦コメントだけをお出しすることはいたしません。
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■ 参考文献・出典
- 消費者庁「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針——不実証広告規制に関する指針」
(消費者庁ウェブサイト「景品表示法関係ガイドライン等」に掲載。閲覧日:2026年9月26日)