この連載では、がんにまつわる誤解を10のテーマで取り上げます。
集団の数字を、個人の原因にしない
誤解が訂正されても残る理由は、知識不足だけでは説明しきれません。情報が伝わる過程で、一部の事実が単純化されることがあります。たとえば国立がん研究センターの推計では、2015年の日本のがん罹患の35.9%が、喫煙、飲酒、感染など研究で対象とした予防可能な要因に起因すると推計されています。これは集団全体についての推計です。職業上の曝露や紫外線、放射線などデータ不足で対象外の要因もあり、個人の原因や責任を示す数字ではありません。集団の数字を個人にそのまま当てはめると、「がんは本人の生活習慣のせい」と受け取られかねません。
「怖い」という印象と、がんの経過の知識は別
内閣府の2023年調査(有効回答1,626人)では、がんに「怖い印象がある」と答えた人は90.2%でした。これは怖さについての回答で、「がんになれば必ず亡くなる」と信じている人の割合ではありません。怖さと、がんの経過についての知識は分けて考える必要があります。
誤情報の訂正と、SNS調査の範囲
誤情報一般を扱ったレビューでは、誤りを訂正したあとも、その情報が考え方に影響する場合があると整理されています。ただし、これはがんに関する個々の誤解で確かめられた仕組みではありません。
SNS上の情報にも、調査対象の範囲があります。2022年8〜9月に集めた日本語X(旧Twitter)の投稿を調べた研究では、選定条件を満たした「いいね」上位100件のうち44件に誤情報が含まれていました。全投稿の44%という意味ではありません。この選ばれた100件では誤情報を含む投稿のほうが多くリポストされていましたが、拡散の理由を証明する結果ではありません。
人を責めず、情報を確かめる
誤解が残る理由は一つではなく、ここで挙げたことがすべての誤解に当てはまるわけでもありません。誤解を持っていた人も、患者さんやご家族も、責められる理由はありません。次回から、がんにまつわるテーマを一つずつ、確かな情報と照らし合わせて見ていきます。
出典
・国立がん研究センター がん対策研究所「日本人におけるがんの原因の寄与度推計:2015年時点のがん罹患・死亡に対する推計」
・内閣府「がん対策に関する世論調査(令和5年7月調査)」
・Ecker UKH, et al. The psychological drivers of misinformation belief and its resistance to correction. Nature Reviews Psychology. 2022;1:13–29.
・Kureyama N, et al. Fact-Checking Cancer Information on Social Media in Japan: Retrospective Study Using Twitter. JMIR Formative Research. 2023;7:e49452.
※一般向けの情報提供を目的とした記事です。個別の診断や治療の判断を示すものではありません。