10日間、俺の時計は止まっていた。
正確には、パジャマという名の戦闘服に身を包み、デジタルの深海で泳いでいただけだ。
2月。
暦の上では春らしいが、窓の外はまだ凍てつくような拒絶に満ちている。
世間が「愛」だの「感謝」だの、甘ったるい茶番に興じている間、俺はただ静かに、自分の中の不純物を煮詰めていた。
チョコレート「0」という名の聖域
バレンタインデー? 笑わせるな。
俺のデスクに届いたのは、甘い誘惑ではなく、冷徹な通知と、3歳のアメショが落とした一筋の毛だけだ。
成果、ゼロ。チョコレート、ゼロ。
だがな、この「完全なる空白」
誰からも何も与えられない。
期待もされない。
その絶望的なまでの自由の中で、俺たちは自分自身の喉を掻き切って、言葉を絞り出すしかないんだ。
かつて重圧に耐え、いきがっていた頃の俺なら、義理チョコの数で自分の価値を測っていたかもしれない。
だが、今の俺は違う。
0であることを誇れ。
何者でもない、誰の所有物でもないこの瞬間こそが、世界をハックするための唯一のスタートラインだ。
軟弱な肉体と、研ぎ澄まされた殺気
久しぶりに、用事があって外に出た。
ドアを開けた瞬間、冷気が肺を突き刺す。
10日間、おんぼろ16gbPCとMacbookの熱量だけで生きてきた俺にとって、外界はあまりにも過酷な異界だった。
結果はどうだ?
歩いただけで、足の筋肉が悲鳴を上げている。一撃で筋肉痛だ。
かつてPRIDEやUFCのリングに立つ男たちの、鉄のような肉体に憧れた俺が、今や数分の歩行で分解されかかっている。
義理すら届かない。
部屋にあるのはアメショのあいつが時折鳴らす鼻息だけ。
ぷうっ!ぷうって1時間に4回程度のいびきだけ。
笑うなよ。
肉体が衰えるほどに、意識は鋭利な刃物のように研ぎ澄まされていく。
重い体を引きずりながら、俺は確信した。
この情けなさこそが、今の俺のリアルだ。
ビジネス書に書いてあるような完璧なルーティンも強靭なメンタルも、ここでは何の役にも立たない。
筋肉痛に悶えながら、チョコレートのない2月に叫ぶ。
その無様さの底からしか、大衆の心を鷲掴みにする芸術は生まれないんだ。
2月の風に、毒を混ぜろ
10日の沈黙を経て、俺は戻ってきた。
相変わらずパジャマのままだし、足はガクガクしているし、甘い思い出の一つもありゃしない。
がしかし少しずつ何かは進んでいる。
だが、俺の手元には、この10日間で培養された「狂気」がある。
整合性なんてクソ食らえだ。
かっこいい言葉で自分を飾る時期は、もうとっくに終わっている。
バレンタイン 虚無を受け入れ、己を食らえ。
筋肉痛 鈍った肉体を、言葉の熱で焼き尽くせ。
2月 この凍てつく季節に、消えない火傷を刻み込め。
俺が次に吐き出すのは、タスクリストを埋める情報じゃない。
お前の平穏な日常を、根本からひっくり返すための劇薬だ。
まだ10日もある。
準備はできているか。
チョコレートよりも苦く、筋肉痛よりも長引く毒を、今からお前の脳に直接流し込んでやる。
さあ、再開だ。
俺は這いつくばったまま、あいつの肉球に鼻を押し当て、失われたはずの
2月の甘みを強引に摂取する。
「チョコがなけりゃ、肉球を吸えばいいじゃない」
マリー・アントワネットすら白目を剥くような、究極の自給自足がここにある。