コンクールで入賞する演奏は何が違うのか

コンクールで入賞する演奏は何が違うのか

記事
音声・音楽
「音を正しく弾く」から「曲を歌わせる」演奏へ
1.同じ曲なのに、なぜ「心に残る演奏」と「そうでない演奏」があるのか
コンクールの演奏を聴いていると、音も間違っていない、テンポも安定している、難しいところもきちんと弾けている。それなのに、なぜか心に残らない演奏があります。

一方で、多少のミスがあっても「この演奏、なんだか好きだな」「曲の景色が見えるようだな」と感じる演奏もある。

この違いは、いったい何なのでしょうか。

私はコンクールに向けたレッスンで、技術的なことだけでなく、いつも一つのことを大切にしています。「曲を歌わせて弾けているか」ということです。

ピアノは鍵盤を押せば音が出ます。だからこそ、音符を間違えずに並べていくことはできる。でも、それだけでは音楽にはなりません。ピアノであっても、歌を歌うように弾く。私はこれを「うたって弾くこと」と呼んでいます。

そしてもう一つ大事にしているのが、「この演奏を聴いた人に、曲の情景が伝わっているか」という視点です。

2.入賞する演奏を作るために、私が見ていること
① 「うたって弾く」とは、声に出して歌うことではない

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「うたって弾きましょう」と言うと、ピアノを弾きながら歌うのかと思われることがありますが、実際に声を出すことではありません。ピアノの音で、歌っているようにフレーズを作ることです。

歌を歌うとき、一つ一つの音を全部同じ強さでは歌いません。言葉の中に「ここを伝えたい」という部分があり、そこへ向かって声が動いて、最後には自然に落ち着いていく。ピアノも同じで、音符を一つずつ「正しく弾く」のではなく、このフレーズはどこへ向かっているのかを考えて弾くだけで、演奏は大きく変わります。

私は生徒さんに「ここ、歌ってみて」と声をかけることがあります。実際に歌ってみると、「ここで息をしたい」「ここをもっと強く歌いたい」「ここは優しく終わりたい」ということが、自分の耳と身体で分かる。その感覚を、そのままピアノに移していく。これが「うたって弾くこと」の基本です。

② 楽譜の音符だけを追うと、曲の情景が消えてしまう

コンクールを目指す生徒さんほど、真面目に楽譜を読みます。それは大切なことです。音符、リズム、強弱、アーティキュレーション、テンポ。一つ一つを正確にすることは演奏の土台になります。

ただ、そこに集中しすぎると、楽譜に書いてあることを再現するだけになってしまうことがある。そこで私は「この曲を聴いた人に、どんな情景が伝わってほしい?」と考えてもらいます。

静かな森を歩いているような音楽なのか。明るい場所で子どもが楽しそうに走っているような音楽なのか。雨が降っていて少し寂しい気持ちなのか。遠くから何かが近づいてくるような感じなのか。

作曲家が本当にその情景を想定していたかどうかは、また別の話です。大切なのは、演奏する人自身が音楽をイメージできているかどうか。情景が頭の中にあると、音が変わります。「ここは静かに」と言われて小さく弾くのと、「夜の静かな場所を思い浮かべて弾いてみて」と言われて弾くのでは、音の質がまるで違ってきます。

③ 「大きく・小さく」だけでは、曲は歌わない

レッスンで「ここはもっと大きく」「ここは小さく」と言うことがあります。でも本当に大切なのは、その先です。なぜ大きくするのか、なぜ小さくするのか。ここが分からなければ、単なる音量操作になってしまいます。

山の頂上に向かって歩いている場面を想像してみてください。いきなり頂上で最大の力を出すのではなく、少しずつ上っていくからこそ、頂上に着いたときの大きさが生きる。音楽も同じで、一番大切な音を大きくするためには、その前の音をどう弾くかが重要になります。

つまり「大きく弾く」のではなく、「大きくなる理由を作る」。ここまで考えて初めて、曲が歌い始めます。

④ 私がレッスンでよく確認する「この曲、何が見える?」

コンクール前のレッスンでは、演奏を聴きながら「今の演奏で、曲の情景が伝わってきた?」と確認することがあります。これは単に上手に弾けているかを見るためではありません。

同じ音型が繰り返される曲でも、1回目と2回目がまったく同じ表情では物語が進みません。1回目は遠くから聞こえてきた音、2回目は少し近づいてきた音、3回目は目の前で大きく広がった音。そんなふうにイメージを変えると、同じ音符でも演奏に変化が生まれます。

こうした「音楽の変化」は、できるだけ生徒さん自身に見つけてもらうようにしています。先生が全部「ここはこう弾く」「ここはもっと大きく」と決めてしまうのではなく、「あなたには何が見える?」と聞く。そうすると、生徒さん自身の演奏になっていきます。

⑤ 入賞する演奏は「その人の音楽」が聴こえる

コンクールで大切なのは、完璧に弾くことだけではありません。ミスタッチを減らすことも、テンポを安定させることも必要ですが、それだけでは聴く人の心に残る演奏にはならない。

私はコンクールのレッスンで、「もっと練習しましょう」だけでは終わらせません。その生徒さんが今できる練習時間の中で、「今日は、このフレーズを歌わせる」「今日は、この部分の情景をもっとはっきりさせる」というふうに、課題を絞ります。

特に大人の生徒さんの場合、仕事や家庭があって毎日長時間練習することが難しいこともあります。だからこそ、ただ練習時間を増やすのではなく、何を意識して弾くのかを明確にすることが重要です。10回ただ弾くより、「この音楽を歌わせる」という目的を持って3回弾く。その方が、自分の音を聴きながら練習できます。

今日の練習で、どんな景色を見せますか?

コンクールで入賞する演奏は、音を間違えない、テンポを守る、難しい曲を弾ける、それだけではありません。私が大切にしているのは、曲をうたわせて弾けているか、そして曲の情景が伝わる演奏になっているか、ということです。

今日の練習で、まず一つだけ試してみてください。楽譜を弾く前に「この曲は、どんな景色?」と考えてみる。その景色を思い浮かべながら、一度弾いてみる。次に「このフレーズを歌うなら、どこに向かって歌う?」と考えてみる。その方向を感じながら、もう一度弾いてみる。同じ音符なのに、少し違って聞こえるはずです。

そこから先は、具体的に一つだけ決めてしまうのがおすすめです。
「このフレーズを一番きれいに歌わせる」
「ここに向かって音楽を作る」
「ここでは少し息をする」
「ミスをしても絶対に止まらない」
何でも構いません。最初から最後まで何度も弾き通すのではなく、その一つだけを意識して数回練習してみる。それだけで、いつもの練習とは違う感覚が出てくるはずです。

ピアノは鍵盤を押せば音が出ます。でも、ただ音を出すだけでは、聴く人の心に情景は浮かびません。音と音をつなぎ、フレーズを歌わせ、その曲の中にある景色を自分の音で見せていく。それが、私の考える「聴かせる演奏」です。そして聴く人の耳に残るものがあるとすれば、それは速い指でも難しい曲でもなく、「この人は、この音楽をこう感じているんだな」という演奏者の思いなのだと思います。

コンクールに挑戦している方も、普段のレッスンで演奏を磨いている方も、大人になってから挑戦する方も、これから生徒さんを送り出す先生も、次にピアノの前に座ったとき、一度だけ問いかけてみてください。「今の私の演奏から、曲の情景は伝わっている?」

もし答えが「まだ分からない」なら、そこから練習を始めればいい。音を間違えない練習だけでなく、「曲を歌わせる練習」を一つ加えてみてください。今日の練習では、そこを一つだけ見つけてみましょう。ピアノの音が、ただの音符から音楽に変わる瞬間が、きっと見つかるはずです。

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