【栗山和暉】消しゴムがなくなってから、デザインが上手くなった気がする
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昔はよく消しゴムを使っていた。間違えるたびに消して、また描き直して、また消して。デザインのラフを描くときもそうだった。線が気に入らなければ消して、完璧な形を探そうとする。でもあるとき、デスクに消しゴムを置かないで作業してみた。すると、不思議と線が生き生きして見えた。
間違いを「消せない」と思うだけで、線を引くときの覚悟が変わる。一本の線に「これが自分の選択だ」という意思が宿る。結果として、修正よりも構成全体を見ながら描くようになった。失敗を前提にしていない線の方が、なぜか伸びやかに見えるのだ。
その体験をきっかけに、僕はWebデザインの進め方も少し変えた。以前は完璧なレイアウトや色使いを目指して、何度も修正していた。でも、クライアントの課題解決において、本当に大事なのは「美しさ」よりも「機能すること」だと改めて気づいた。完璧主義を手放してみたら、結果的にデザインの精度が上がった。なぜなら、迷わなくなったからだ。
デザインって、間違いをなくす作業じゃない。仮説を形にして検証して、改善していく。まるで日々の生き方そのものに近い。僕らの仕事は「消す」ことより「活かす」ことに価値がある。失敗を恐れて何も描けなくなるより、線を引き続けることの方がはるかに意味があると思う。
最近、仕事でも「最初の案を出すスピードが速いですね」と言われることが増えた。もちろん最初から完璧を狙っているわけじゃない。最初の線は、ただの出発点。そこからクライアントと一緒にブラッシュアップしていくプロセスこそがデザインの醍醐味だ。消しゴムを置かなくなったあの日から、僕のデザインは“会話”になった気がする。
人間関係でも同じかもしれない。間違えた言葉をすぐに「消したい」と思うことがあるけれど、実際にはその不完全さの中に人らしさがある。完璧な言葉よりも、少し不器用な本音の方が伝わる。だからこそ、デザインにも“揺らぎ”が必要なんだと思う。
デザインに「間違い」は存在しない。あるのは、仮説と検証の連続だけ。線を消すより、次の線を引く。その積み重ねが、いつか本当に美しい一枚になる。だから僕は今日も、消しゴムを使わない。