「レンガを積む職人」
ある日、3人の職人がいる工房に、塀を作る仕事がきました。
その仕事は、ある大きな屋敷の周りにレンガで塀を作ってほしい、という内容でした。
「私のこの家にぴったりな素敵な塀を作ってくれたら、たっぷりお礼はするよ」
そう依頼主に言われて、工房の親方は仕事を受けることにしました。
親方は、2人の職人に仕事の説明をしました。
「ちょっと工期が厳しいんだが、その分、報酬が多いんだ。
王国でも有名な賢者の魔法使いに計画を作ってもらった。
あの方の計画なら間違いないだろうから、二人とも頼む。」
赤色の帽子の職人は深く考えることなく、明るく
「わかりました!」
と答えました。
青色の帽子の職人は天気を確かめ、3日後から雨になるため、晴天が続く前提で作られた計画に無理があることを親方に伝えました。
しかし親方は、賢者の魔法使いが作った計画を信じ、話を聞いてくれませんでした。
次の日から、2人の職人は塀づくりのため、レンガを積み始めました。
1日目は2人とも順調に仕事が進み、膝くらいまでレンガを積むことができました。
それを見た親方は言いました。
「よしよし。計画通りに進んでるな。明日もこの調子で行こう。」
2日目も、2人の職人はレンガを積みました。
腰の高さくらいまで積んだところで、その日の仕事が終わりました。
「やっぱり、賢者の魔法使いが作った計画は完璧だ。明日もこの調子で行こう。」
日が暮れかけた空は、たくさんのグレー色の雲に覆われていました。
それを見た青色の帽子の職人は、親方に言いました。
「親方、明日から雨になります。天気予報でも数日は続きそうですから、
壁が固まる前に積み上げるのは危険です。」
それを聞いた親方は、
「あの賢者の魔法使いが作った計画に間違いはない。雨だろうが関係ないさ。」
と笑い飛ばしました。
青色の帽子の職人が心配した通り、3日目は雨になりました。
赤色の帽子の職人は、
「言われた通りにやっていれば間違いない。」
と言って、雨の中、レンガを積み始めました。
青色の帽子の職人は考えた結果、レンガを積むのは止め、自分が積んだレンガが濡れないように布をかけて回りました。
その日の仕事が終わってみると、赤色の帽子の職人のところのレンガは肩くらいまで積みあがっていましたが、青色の帽子の職人のところは昨日の高さのまま止まっていました。
それを見た親方は、計画を守らなかったことに怒り、
「塀が間に合わなかったら報酬は無しだからな!」
と青色の帽子の職人に言いました。
次の日も雨でしたが、赤色の帽子の職人は何も考えずにレンガを積みました。
とうとう赤色の帽子の職人のところは、計画の高さまで積み上がろうとしていましたが、雨で弱った積みたての壁は少しずつ傾いていました。
その時、雨に濡れた手がすべり、赤色の帽子の職人はレンガを落としてバランスを崩してしまいました。高く積みあがったレンガの塀は崩れ、赤色の帽子の職人は下敷きになってしまいました。
青色の帽子の職人は、赤色の帽子の職人を助け、病院へ連れて行きました。
「なんてことだ!計画は完璧だったはずだ!
あの賢者の魔法使いが間違えるなんて!」
親方はそう叫びながら、職人の警告を無視して危険な作業を続けさせたとして衛兵に連れていかれました。
次の日、雨はあがり、とても良い天気になりました。
青色の帽子の職人は、腰の高さまでしかないレンガを積み始めました。
眼の高さくらいまで仕事が進んだ頃、依頼主が青色の帽子の職人に声をかけました。
「君はなぜ、親方の計画を守らなかったかね?」
「私は自分の頭で考え、良い塀を作るために最善と思う答えに従ったまでです。」
「ふむ、なるほど。だから、君の塀だけが残ったということか」
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実は、私の会社でも似たようなことはよく起こっている。
「AIが正しい」と思い込み、判断そのものをAIに預けたり、
「〇〇さんに言われたから」と、自分で考えることをやめてしまったり。
考えた結果、そうすると決めるならいい。
でも、何も考えずに
「そういうルールだから」と従うことは、思考したとは言えない。
ルール通りに動くだけなら、それは仕事ではなく作業だ。
そして作業なら、人間でなければならない理由はどんどん減っていく。
AIを恐れる前に、
自分は人間として何を考え、何を判断できるのか。
考えることを手放さないこと。
それが、これから人間に求められることなのだと思う。