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コラム
「また今度」は、もう来なかった
記事
コラム
スピリチュアルree
2026/09/21 13:53
「マスターが亡くなったよ」
一昨日、そんな連絡がきた。
高校生の頃、
私がアルバイトをしていた喫茶店のマスター。
最後に会ったのは5年前。
父が亡くなって、
久しぶりに地元へ帰ったときだった。
それから何度も、
私はその店の前を通っている。
今年のお盆にも通った。
「マスター元気かな」
「もういい歳だし、久しぶりに顔でも出そうかな」
そう思った。
でも、お盆の昼時。
駐車場は車でいっぱいだった。
忙しいよね。
今日はやめておこう。
また今度。
そう思って、私は帰った。
その「また今度」は、
もう来なかった。
昨日、
私はマスターの葬儀に参列した。
私は、とても小さな田舎町で育った。
家庭環境は、
正直、かなり複雑だった。
そんな高校生の頃、
姉に誘われて、町で唯一の喫茶店でアルバイトを始めた。
姉の妹ということもあって、
最初からみんなによくしてもらった。
その後、姉はその店のチーフと結婚した。
家族経営のお店だったから、
マスターも、奥様も、チーフも、
いつもそこにいた。
仕事中だから、
楽しいことばかりじゃない。
厳しく言われることもあったし、
つらいこともあった。
それでも私は、
家にいるより、店にいる時間のほうが長かった。
「りょーちゃん」
「りょーちゃん」
みんな、そう呼んでくれた。
マスターも。
奥様も。
チーフも。
一従業員だった私を、
本当によく可愛がってくれた。
昨日、葬儀に参列して、
その頃のことが、昨日のことみたいによみがえった。
何十年も前のことなのに。
思い出したら、
目頭が熱くなった。
たぶん私が思っていた以上に、
あの店は、高校生だった私の居場所だったんだと思う。
奥様の顔を見た瞬間だった。
言葉より先に、
お互い涙が止まらなくなった。
抱きしめ合って泣いた。
私は、
「今日は最後までいるから。
最後まで見送らせて」
そう伝えた。
すると奥様も、
「りょーちゃん、最後までいてね。
一緒にいてね」
そう言ってくれた。
また抱きしめ合って、
二人で泣いた。
高校を卒業して、
地元を離れて、
会うこともほとんどなくなって。
それでも私は、
今でも「りょーちゃん」だった。
それが嬉しくて。
でも、悲しかった。
今でも思う。
今年のお盆、
駐車場に車がたくさん停まっていても、
店に入ればよかった。
食事なんてしなくてもよかった。
ほんの少しだけ顔を出して、
「お久しぶりです。
お元気そうで」
って。
それだけでよかった。
マスターの顔を見て、
少し話して、
「じゃあ、またね」
って帰れたらよかった。
でも私は、
「また今度」
を選んだ。
また会えると思っていたから。
いつか別れがくることくらい、
分かっているはずなのに。
それでも私たちは、
今日と同じ明日がくる気がしてしまう。
また今度。
また時間があるとき。
また落ち着いたら。
そうやって先延ばしにしているうちに、
本当に会えなくなる日がくる。
私は今回、
それを知った。
だからといって、
この後悔がなくなったわけじゃない。
でも、
みんなに会えたことは嬉しかった。
懐かしかった。
高校生だった頃の自分にも、
少しだけ会えた気がした。
マスター、
会いに行かなくて、ごめんね。
たくさん可愛がってくれて、
本当にありがとう。
ありがとう、マスター。
#お別れ
#葬儀
#喫茶店
#マスター
「あの日、私は16歳だった。」
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