焼きいものように
ほくほく温かい
小さな幸せ。
その真ん中には――
今日も、君の笑顔があった。
全体構成
第1節「秋風と、焼きいもの香り」🍠🍁
学校帰り、いつもの道。少し冷たくなった秋風。
どこからともなく漂ってくる――
焼きいもの香り。
るなが即座に反応。「……先輩」
「ん?」
「焼きいもです」
「分かるの?」
「分かります!」
🍓の時とは違う意味で、食べ物センサー発動🤣
二人で香りを追っていくと、焼きいもの屋台を発見。
るなの目がキラキラ。「秋ですねぇ……」
ここでは恋より先に焼きいもです🤣
第2節「ほくほく、半分こ」🍠💕
焼きたての焼きいもを購入。
熱くてすぐには食べられない。
「熱っ!」
「だから言ったのに」
二人で笑う。
ようやく割ってみると、中は黄金色。「わぁ……」
るなが嬉しそうにする。
そして――
「先輩、半分どうぞ」
🍓外伝1とは違って、今回はファーストバイトではなく“半分こ”。
第3節「焼きいもより、あったかい」🍠💕🍁
ベンチに座って焼きいもを食べる二人。
「おいしいですね」
「うん」
「なんか……あったかい」
焼きいもの温かさ。秋の日差し。隣にいる先輩。
第4節「笑顔は、焼きいも色」😊🍠✨
帰り道。るなが焼きいもの袋を抱えている。
「今日、ずっと笑ってましたね」
先輩に言われる。
「そうですか?」
「うん」
るなは少し考える。
「……先輩といると、自然に笑っちゃうんです」
『好きだから安心する』へ。
第5節「焼きいも色のスマイル!」🍠🍁💕
帰り道の夕焼け。
るなが最後に小さく言う。
「また来年も食べたいですね」
先輩が、「じゃあ、また一緒に買おう」
と答える。「約束です」
また一つ、来年への約束。
焼きいものように
ほくほく温かい
小さな幸せ。
その真ん中には――
今日も、君の笑顔があった。
曲紹介『焼きいも色の帰り道』
第2部・秋🍠 外伝3『焼きいも色のスマイル!』
第1節「秋風と、焼きいもの香り」🍠🍁
夏が終わってから、少しずつ日が短くなっていた。
放課後の校舎に差し込む夕方の光も、夏の頃よりどこか柔らかい。
窓を開けると、ひんやりとした風が教室の中へ入り込んできた。
カーテンがふわりと揺れる。
黒板に残った文字が、夕日に照らされて淡く輝いていた。
「……秋ですねぇ」
窓辺に立っていたるなが、ぽつりと呟いた。
「急にどうしたの?」
鞄を肩にかけながら、ひかりが振り返る。
「だって、風が変わった気がする」
「風?」
るなは、もう一度窓の外を見る。
校庭の木々の葉が、風に揺れている。
まだ緑色の葉も多いけれど、その中には少しだけ黄色く色づいたものもあった。
「なんていうか……ちょっと冷たくて。でも、気持ちいい」
「確かに」
「それに……」
るなが目を細めた。
「夕焼けも、ちょっと秋っぽいです」
窓の向こう。
空はオレンジ色から、少しずつ赤紫色へ変わり始めている。
夏の夕焼けよりも、どこか落ち着いた色だった。
ひかりは予定があり昇降口で分かれた。
るなは、スマートフォンを確認した。
『今、学校の近くにいる』
先輩からのメッセージだった。
「……え?」
思わず顔がほころぶ。
美大に進学してから、先輩とは以前のように毎日会えるわけではなくなった。
だからこそ――。
「会いに来てくれたんだ……」
そう思うだけで、胸の奥がほんのり温かくなる。
校門の向こう。
少し離れた場所に、見慣れた姿があった。
「先輩!」
「お、るな」
「どうしたんですか?」
「今日は大学が早く終わったから。……ちょっと会いたくなって」
「…………」
るなの頬が、ほんのり赤くなる。
「……そういうの、ずるいです」
「何が?」
「なんでもないです」
そう言いながら、るなは嬉しそうに笑った。
校門を出ると、さっきより少し強い風が吹いた。
「わっ……」
るなの髪が風に揺れる。
「寒くなってきましたね」
「もうすぐ冬だからな」
「冬……」
その言葉に、るなが少しだけ反応した。
冬。
まだ少し先なのに。
その季節には、二人で見ると約束したものがある。
――冬のイルミネーション。
るなは、ふっと笑った。
「……楽しみですね」
「何が?」
「冬です」
「気が早いな」
「だって……」
るなが言いかけた、その時だった。
「…………ん?」
突然、るなが足を止めた。
「どうした?」
「……先輩」
「ん?」
「何か……匂いません?」
「匂い?」
先輩も立ち止まる。
風に乗って、どこからか甘く香ばしい匂いが漂ってきた。
少し焦げたような香り。
でも、嫌な匂いではない。
むしろ――。
秋になると、なぜか恋しくなるような。
「……焼きいも?」
先輩が呟いた。
その瞬間。
るなの目が、ぱっと輝いた。
「…………!」
「……るな?」
「焼きいもです」
「うん。たぶんそうだな」
「焼きいもです!!🍠✨」
「分かった分かった」
「秋です!!」
「それも分かった」
「焼きいもの季節です!!」
「そこまで強調しなくても……」
先輩が笑う。
しかし、るなはもう笑っていなかった。
真剣だった。
風に乗ってくる香りを、じっと追っている。
そして――。
くるり。
るなが振り返った。
「……先輩」
「今度は何?」
「行きましょう」
「どこへ?」
「焼きいものところです」
「……やっぱりそうなるよな」
「はい!」
るなは満面の笑顔だった。
「だって、焼きいもですよ?🍠」
「それは分かったけど」
「秋の焼きいもです」
「うん」
「ほくほくです」
「うん」
「あったかいです」
「うん」
「甘いです」
「……うん」
「最高です」
「……まだ食べてないだろ」
「でも、もう分かります」
るなが自信満々に言った。
「焼きいもは、絶対においしいです!」
「その自信はどこから来るんだ……」
「経験です!」
るなが胸を張る。
先輩は思わず吹き出した。
「じゃあ、行ってみるか」
「はいっ!」
るなの足取りが、一気に軽くなった。
さっきまで秋の風に少し寒そうにしていたのに。
今はもう、寒さなんて気にならないらしい。
二人は香りのする方へ歩き始めた。
駅とは反対方向。
小さな商店街を抜けた先に、赤い暖簾を出した屋台が見えてくる。
その横には、大きな焼きいもの窯。
白い湯気が、夕暮れの空へゆっくりと昇っていた。
「……見つけました」
るなが小さく呟く。
その声には、喜びがいっぱい詰まっていた。
先輩が隣を見る。
そこには、夕焼けの光を受けながら、嬉しそうに笑っているるながいた。
「……何?」
「いや」
「?」
「嬉しそうだなと思って」
「だって……」
るなは焼きいもの屋台を見つめたまま、にっこり笑った。
「秋ですから」
その笑顔は、夕焼けよりも柔らかかった。
まだ焼きいもを食べていないのに。
もう、心の中まで少しだけ温かくなっている。
秋の風が、二人の間を通り抜ける。
その風に乗って、甘く香ばしい焼きいもの香りが漂っていた。
そして――。
この日から始まる小さな幸せを、るなはまだ知らなかった。
焼きいものように、ほくほくと温かい時間。
その時間は、きっと二人の距離を、また少しだけ近づけてくれる。
夕暮れの街に、焼きいもの香りが広がっていた。🍠🍁
第2節「ほくほく、半分こ」🍠💕
焼きいもの屋台に近づくにつれて、香ばしい香りがどんどん強くなっていった。
大きな窯の中では、焼きいもがじっくりと焼かれている。
ぱちぱち、と小さな音が聞こえる。
その横から、白い湯気がふわりと立ちのぼっていた。
「わぁ……」
るなの目が輝く。
「大きいですね……」
「何が?」
「全部です」
「全部?」
「焼きいもも、窯も……あと、るなの期待も」
「最後のは自分で言うなよ」
「だって、すごく楽しみです」
るなは屋台を眺めながら、嬉しそうに笑った。
店先には、いくつかの焼きいもが並んでいる。
皮はこんがりと焼けていて、ところどころに蜜がにじんでいた。
「どれにする?」
「……難しい質問です」
「そんなに?」
「はい」
るなは真剣な顔で焼きいもを見比べ始めた。
「大きいのもいいですし……」
「うん」
「少し細めで、甘そうなのも……」
「うん」
「でも、焼き目がきれいなのも捨てがたい……」
「焼きいも選びでそんなに悩む人、初めて見た」
「好きなものには、全力です」
「前にも聞いたな、それ」
先輩が笑う。
るなも笑った。
結局、二人は店員におすすめを聞いて、一番大きな焼きいもを一本買うことにした。
「熱いから気をつけて」
手渡された焼きいもから、ほかほかの湯気が立ち上る。
「ありがとうございます」
るなが両手で包むように持つ。
「……あったかい」
「本当だな」
「手袋みたいです」
「焼きいもを手袋にするなよ」
「でも、ずっと持っていたいです」
「食べないの?」
「食べます」
即答だった。
「じゃあ、どこか座れるところ探そうか」
「はい!」
二人は商店街の少し先にある小さな公園へ向かった。
ベンチに腰を下ろす。
夕方の空は、オレンジ色から少しずつ淡い紫色へ変わっていた。
木々の葉が風に揺れ、何枚かの黄色い葉が足元へ落ちてくる。
「秋ですねぇ……」
るなが、焼きいもを眺めながら呟いた。
「さっきも言ってたな」
「何度言ってもいいんです」
「そうなの?」
「はい。秋は一回しか来ませんから」
「毎年来るけどな」
「……先輩」
「ん?」
「そういう細かいところは気にしないでください」
「はいはい」
二人で笑った。
るなは焼きいもの両端を持つ。
「じゃあ……」
「うん」
「割ります」
「割れるかな」
「大丈夫です」
るなは少し力を込めた。
ぱきっ。
焼きいもの皮が割れた。
中から、鮮やかな黄金色の果肉が現れる。
「……!」
るなの顔が明るくなる。
「きれい……」
「本当に黄金色だな」
「絶対おいしいです」
「まだ食べてないだろ」
「見れば分かります」
「またそれ言ってる」
焼きいもの中から、甘い香りがさらに広がった。
るなは半分になった焼きいもを見つめる。
そして――。
「先輩」
「ん?」
「こっち、どうぞ」
るなが片方を差し出した。
「俺に?」
「はい」
「いいの?」
「もちろんです」
「るなが食べたかったんじゃないの?」
「だから半分です」
るなは当たり前のように答えた。
「一人で食べるより、二人で食べた方がおいしいですよ」
「……そうだな」
先輩は、差し出された焼きいもを受け取った。
「じゃあ、いただきます」
「いただきます」
二人で同時に一口。
「……!」
ほくっ。
柔らかな果肉が口の中でほどける。
自然な甘さが広がった。
「おいしい……」
るなが思わず目を細める。
「うん。甘いな」
「ですよね!」
「これは当たりだな」
「大当たりです!」
るなは嬉しそうに笑った。
その笑顔を見ながら、先輩も笑う。
「何ですか?」
「いや」
「?」
「るながそんなに嬉しそうだと、こっちまで嬉しくなるなって」
「…………」
るなの動きが止まった。
「……先輩」
「ん?」
「今の……」
「何?」
「ずるいです」
「また?」
「はい」
るなの頬が、ほんのり赤くなる。
けれど、🍓の時のように慌てて視線を逸らすことはなかった。
少しだけ恥ずかしそうに笑って――。
「……でも、嬉しいです」
そう言った。
「そっか」
「はい」
秋の風が、二人の間をそっと通り抜ける。
焼きいもの湯気が、夕暮れの空へ消えていく。
るなは残りの焼きいもを一口食べた。
「……あったかいですね」
「焼きいもだからな」
「それだけじゃないです」
「?」
るなは少しだけ考える。
「こうして先輩と一緒に食べてるから……」
その言葉の続きを、るなはすぐには言わなかった。
代わりに、小さく笑う。
「なんだか、あったかいです」
「……俺も」
二人はそれ以上、何も言わなかった。
ただ、並んで焼きいもを食べる。
特別な場所でもない。
特別な料理でもない。
豪華なデートでもない。
それなのに。
るなには、この時間がとても大切に思えた。
以前なら、先輩と二人きりになるだけで胸が高鳴った。
何を話そう。
変なことを言わないようにしよう。
嫌われないようにしよう。
そんなことばかり考えていた。
けれど、最近は少し違う。
先輩の隣にいると――。
自然に笑える。
自然に話せる。
沈黙さえ、嫌じゃない。
るなはそんな自分の変化に気づいていた。
「……先輩」
「ん?」
「こういう時間、好きです」
「こういう時間?」
「はい」
るなは焼きいもを見つめながら続ける。
「特別なことをしなくても……」
一度、言葉を止める。
「一緒にいるだけで楽しい時間です」
先輩は少し驚いたようにるなを見る。
そして、柔らかく笑った。
「俺も好きだよ」
「……本当ですか?」
「うん」
「……よかった」
るなが、ほっとしたように笑う。
その笑顔は、夏の花火のように大きく弾けるものではなかった。
秋の夕焼けのように、静かで。
焼きいもの黄金色のように、温かく。
見ているだけで、心がほぐれていくような笑顔だった。
「るな」
「はい?」
「また来年も食べような」
「……!」
るなの目が、また輝いた。
「はい!」
即答だった。
「絶対ですよ?」
「約束」
「約束です」
二人は笑った。
半分こした焼きいもは、もう残り少ない。
けれど――。
その温かさは、二人の心の中に残っていた。
秋風が吹くたびに、木の葉が一枚、また一枚と舞い落ちる。
夕暮れの公園。
並んで座る二人の手には、焼きいもの温もり。
そして、その真ん中には――。
「一緒にいるだけで楽しい」という、小さな幸せがあった。 🍠💕🍁
第3節「焼きいもより、あったかい」🍠💕🍁
焼きいもを半分こしてから、しばらく。
二人はベンチに並んだまま、夕暮れの街を眺めていた。
さっきまで黄金色だった空は、少しずつ赤みを増している。
遠くの建物の窓に、夕日が反射していた。
公園の木々から、葉が一枚。
ひらり。
るなの足元へ落ちる。
「……きれい」
るなが呟いた。
「何が?」
「葉っぱです」
るなは足元の葉を拾い上げた。
黄色とオレンジの間のような色。
「夏の葉っぱとは、色が全然違いますね」
「そうだな」
「同じ木なのに、不思議です」
るなは葉っぱを手のひらに乗せる。
「季節が変わると、景色も変わるんですね」
「うん」
「……人も変わるのかな」
先輩がるなを見る。
「人?」
「はい」
るなは葉っぱを見つめながら話した。
「夏の頃の私と、今の私は……ちょっと違う気がします」
「そう?」
「はい」
るなは小さく笑った。
「夏は……先輩といるだけで、ずっと緊張してました」
「そうだった?」
「そうですよ」
「全然そんなふうには見えなかったけど」
「見せないようにしてたんです」
「なるほど」
「……でも、たぶん、すごく分かりやすかったと思います」
「まあ……少し?」
「やっぱり!」
二人で笑った。
るなは少し恥ずかしそうに頬をかく。
「今は……」
「今は?」
「前より、自然にいられる気がします」
先輩は黙って聞いていた。
「先輩が美大に行ってから、毎日会えなくなったじゃないですか」
「うん」
「最初は、ちょっと寂しかったです」
「……俺も」
その言葉に、るなが先輩を見る。
「本当ですか?」
「うん」
「……そっか」
るなの表情が柔らかくなる。
「でも」
先輩が続けた。
「だからこそ、こうやって会える日が楽しみになった」
「……!」
るなは、また少し照れた。
「私もです」
風が吹いた。
るなの髪がふわりと揺れる。
「今日も……先輩が来てくれて、嬉しかったです」
「会いたかったから」
「……はい」
「それだけ」
「……それだけって言わないでください」
「なんで?」
「それ、すごく嬉しいことなので」
るなは笑った。
そして、膝の上に置いた手を少し握る。
「先輩が美大から会いに来てくれるって……なんだか不思議です」
「何が?」
「前は同じ学校だったのに」
「そうだな」
「今は、先輩の方が少し遠いところにいる」
「大学だからな」
「でも……」
るなは隣を見る。
「会えたときは、前より嬉しいです」
先輩も笑った。
「それなら、よかった」
その瞬間。
また風が吹いた。
「……寒っ」
先輩が肩をすくめる。
「大丈夫ですか?」
「ちょっと寒いな」
「秋ですから」
「それ、今日何回目?」
「分かりません」
るなは笑った。
「じゃあ……」
るなは自分の手を見た。
「焼きいも、まだ温かいですよ」
「もう食べ終わったけど」
「あ……」
二人は同時に、手元を見る。
そこには、もう何もない。
「……」
「……」
そして。
「ふふっ」
るなが笑い出した。
「何?」
「なんだか、面白いですね」
「何が?」
「さっきまで、焼きいもがあったかいって言ってたのに」
「うん」
「もうなくなっちゃいました」
「食べたからな」
「でも……」
るなは、ふっと笑う。
「まだ、あったかいです」
先輩がるなを見る。
「何が?」
「……ここです」
るなが胸元に手を当てた。
「心が」
「……」
「焼きいもがなくなっても、まだ温かいです」
先輩は何も言わなかった。
ただ、優しく笑った。
「じゃあ、焼きいもよりあったかいものがあるんだな」
「……あります」
「何?」
るなは少しだけ迷った。
そして――。
「先輩と一緒にいる時間です」
「……」
「……言っちゃいました」
るなの頬が赤くなる。
「今の、忘れてください」
「無理」
「なんでですか!」
「嬉しかったから」
「……もう」
るなは恥ずかしそうに俯いた。
でも、その口元は笑っている。
しばらく二人は黙っていた。
けれど、その沈黙は気まずくなかった。
むしろ心地よかった。
遠くから、車の走る音が聞こえる。
公園の木々が風に揺れる。
夕暮れの空が、ゆっくりと夜へ変わっていく。
「……先輩」
「ん?」
「こういうのも、いいですね」
「こういうの?」
「何も話さなくても、一緒にいられること」
「うん」
「前は、何か話さなきゃって思ってました」
「そうだったんだ」
「はい」
るなは笑う。
「今は……隣にいるだけでも、ちゃんと楽しいです」
「俺も」
二人の肩が、ほんの少し近づいた。
触れそうで触れない距離。
でも、それ以上近づかなくてもよかった。
今は、この距離が心地よかった。
るなは夕焼けを見上げた。
夏の空とは違う。
花火が上がることもない。
大きな音もしない。
ただ静かに、秋の空が二人を包んでいる。
「夏って……すごく眩しかったですよね」
「花火とか?」
「はい」
「秋は?」
るなは少し考えた。
「……あったかいです」
「そっか」
「夏の恋は、花火みたいでした」
「秋は?」
るなは隣を見る。
そして、微笑んだ。
「イルミネーションみたいです」
「イルミネーション?」
「はい」
小さな光が、暗くなった街のあちこちに灯り始めている。
「派手じゃなくても……ずっと見ていたくなる光」
「……」
「一緒にいると、心の中にも灯るんです」
先輩は、その言葉を静かに受け止めた。
夕暮れは、もうすぐ終わろうとしていた。
けれど。
二人の間に流れる時間は、まだ終わらない。
焼きいもの温かさは、もう手のひらには残っていなかった。
それでも――。
心の中には、まだ温もりが残っていた。
焼きいもよりも。
夕焼けよりも。
秋風よりも。
もっと温かいもの。
それはきっと――。
大切な人と、一緒に過ごした時間だった。 🍠💕🍁
第4節「笑顔は、焼きいも色」😊🍠✨
空は、すっかり夕暮れ色になっていた。
公園の木々の向こうに沈みかけた太陽が、街全体をやわらかなオレンジ色に染めている。
さっきまでベンチに座っていた二人は、ゆっくりと立ち上がった。
「そろそろ帰るか」
「はい」
るなは鞄を持ち直した。
先輩と並んで、公園の出口へ向かう。
歩き始めても、るなの顔には笑顔が残っていた。
「……るな」
「はい?」
「今日、ずっと笑ってるな」
「え?」
るなが足を止める。
「そうですか?」
「うん」
「……そんなに?」
「そんなに」
先輩は笑った。
「焼きいも食べてるときも」
「はい」
「半分こしたときも」
「はい」
「俺が『また来年も食べよう』って言ったときも」
「……はい」
「今も」
るなは、自分の頬にそっと触れた。
「……本当だ」
自分では気づいていなかった。
でも、言われてみれば。
今日はずっと笑っている。
「なんでだろう……」
るなが少し不思議そうに呟く。
「焼きいもがおいしかったから?」
「それもあると思う」
「ですよね!」
るなが嬉しそうに笑う。
「じゃあ、それだ」
「……でも」
るなは歩きながら、少しだけ考えた。
「それだけじゃない気がします」
「うん」
「先輩が来てくれたから」
「……」
「一緒に焼きいも食べたから」
「うん」
「いっぱい話せたから」
「うん」
「それに……」
るなが隣を見る。
「楽しかったから」
先輩は何も言わずに笑った。
「……先輩も笑ってますよ」
「そう?」
「はい」
「じゃあ、るなのせいだな」
「私?」
「うん」
「なんでですか?」
「るなが笑ってるから」
「……」
るなの足が、また止まった。
「それ……」
「ん?」
「さっきから、ずるいです」
「何が?」
「そういうこと、普通に言うところです」
「普通のことだから」
「普通じゃないです……」
るなは恥ずかしそうに俯いた。
けれど――。
やっぱり笑っていた。
「ほら」
「……?」
「また笑った」
「……もう!」
るなが小さく頬を膨らませる。
それを見て、先輩も笑う。
二人の笑い声が、夕暮れの道に響いた。
しばらく歩くと、商店街の街灯が一つ、また一つと灯り始めた。
昼間とは違う景色。
秋の夕暮れは、少しずつ夜へ向かっている。
「……きれい」
るなが空を見上げる。
「夕焼け?」
「はい」
空の色は、焼きいもの中身みたいな黄金色から、少しずつ赤みを帯びていた。
「今日の夕焼け、焼きいも色ですね」
「焼きいも色?」
「はい」
るなは楽しそうに空を見つめる。
「ほくほくしてて、あったかそうな色です」
「空にまで焼きいもを感じるのか」
「秋ですから」
「またそれか」
「秋は焼きいもの季節です」
「それは否定できないな」
二人はまた笑った。
そのとき、先輩がるなの横顔を見た。
夕焼けの光が、るなの髪を柔らかく照らしている。
頬にも、淡いオレンジ色の光が差していた。
その笑顔も、夕焼け色に染まっている。
「……焼きいも色だな」
「え?」
「るなの笑顔」
「……!」
るなが目を丸くする。
「私の……?」
「うん」
「焼きいも色……」
「なんか、温かい感じがする」
「……」
るなはしばらく黙っていた。
そして――。
ふわっと笑った。
「じゃあ……」
「ん?」
「今日から、焼きいも色のスマイルです」
「名前つけたの?」
「はい」
「急だな」
「いいじゃないですか」
るなが笑う。
「笑顔は、温かい方がいいですから」
「そうだな」
「見た人まで、ちょっとだけ幸せになるような」
「うん」
「そんな笑顔になりたいです」
先輩は少しだけ驚いた。
「……もうなってると思うけど」
「え?」
「るなの笑顔を見ると、俺も笑いたくなるから」
「…………」
るなの顔が赤くなる。
「……またです」
「何が?」
「ずるいです」
「また言ってる」
「だって……」
るなは恥ずかしそうに笑った。
「嬉しいんです」
その言葉は、とても素直だった。
以前のるななら、きっともっと慌てていた。
顔を真っ赤にして。
何か別の話題を探して。
「忘れてください!」と言っていたかもしれない。
でも今は違う。
恥ずかしくても。
嬉しいときは、嬉しいと言える。
好きな人と一緒にいる時間を、素直に幸せだと思える。
そんな自分になっていた。
「……先輩」
「ん?」
「私、最近ちょっと分かったことがあります」
「何?」
「好きって……ドキドキするだけじゃないんですね」
「……」
「一緒にいると安心したり」
るなはゆっくり歩きながら続ける。
「自然に笑えたり」
「うん」
「何でもないことが、すごく楽しかったり」
「うん」
「そういうのも……好きってことなんですね」
先輩は少し考えてから答えた。
「たぶん、そうなんじゃないかな」
「……そっか」
るなが笑う。
その笑顔は、夕焼けの中でますます柔らかく見えた。
秋の風が二人の間を通り抜ける。
少し冷たい。
けれど、もう寒くなかった。
心の中が温かかったから。
「来年も……」
るながぽつりと言う。
「ん?」
「来年も、焼きいも食べたいです」
「もちろん」
「再来年も」
「うん」
「その次も」
「そんなに?」
「はい」
るなが笑う。
「だって……」
少しだけ間を置いて。
「先輩と食べる焼きいもが、好きなので」
「……」
「焼きいもだけじゃないですよ?」
「うん」
「こういう秋の時間が、好きなんです」
先輩も笑った。
「じゃあ、毎年秋になったら思い出すな」
「何を?」
「焼きいも色の笑顔」
「……ふふっ」
るなは嬉しそうに笑った。
夕焼けの街を歩く二人。
その足元には、黄色い葉が何枚も舞い落ちていた。
夏の花火のような激しい恋ではない。
月明かりのような静かな夜でもない。
今日の恋は――。
焼きいものように、ほくほくしていた。
温かくて。
甘くて。
自然と笑顔になれる。
そんな小さな幸せ。
そして夕暮れの光に照らされたるなの笑顔は、まるで焼きいもの黄金色。
見ているだけで、心まで温かくなる笑顔だった。 😊🍠✨
第5節「焼きいも色のスマイル!」
夕方の街は、すっかり秋の色になっていた。
公園を出て、駅へ向かう道。
さっきまで二人で食べていた焼きいもの香りが、まだどこかに残っているような気がする。
るなは先輩の隣を歩きながら、何度も小さく笑っていた。
「……ふふっ」
「どうした?」
「いえ……」
「さっきから、よく笑ってるな」
「えっ?」
るなは少し驚いた顔をして、自分の頬に触れた。
「私、そんなに笑ってました?」
「うん」
「……いつからですか?」
「焼きいも買ったあたりから」
「そんな前から!?」
「もっと前かも」
「えぇ……」
るなは少し考えてから、くすっと笑った。
「……たぶん、先輩に会ったときからです」
「俺に?」
「はい」
「なんで?」
「だって……」
るなは歩きながら、少しだけ前を向いた。
「大学からわざわざ会いに来てくれたんですよね」
「うん」
「それだけで……嬉しかったから」
「そっか」
先輩も、少し照れたように笑った。
「俺も、会いたかったから来た」
「……」
その言葉に、るなの足がほんの少しだけ止まりかける。
夏なら。
きっと、ここで心臓が大騒ぎしていた。
顔が熱くなって、何を言えばいいのかわからなくなって。
でも――今は違った。
もちろん嬉しい。
少し照れる。
でも、それ以上に。
胸の奥が、ぽっと温かくなる。
「……なんだか」
「ん?」
「最近、先輩といると……安心します」
「安心?」
「はい」
るなは笑った。
「前は、先輩と一緒にいるだけで、ずっとドキドキしてました」
「今もじゃない?」
「……ちょっとは」
「ちょっとなんだ」
「ちょっとです!」
二人で笑う。
「でも……」
るなは、ゆっくり言葉を続けた。
「今は、ドキドキするだけじゃなくて」
「うん」
「一緒にいると、自然に笑えるんです」
先輩は黙って、るなの横顔を見る。
夕焼けが、二人の歩く道をオレンジ色に染めていた。
「それって、いいことだと思う」
「……はい」
「俺も、るなといると自然に笑ってる気がする」
「本当ですか?」
「うん」
「じゃあ……」
るなは少し考えてから、いたずらっぽく笑った。
「今日の先輩も、焼きいも色のスマイルですね」
「俺も?」
「もちろんです!」
「じゃあ、二人とも焼きいも色か」
「はい!」
るなは嬉しそうに頷いた。
「ホクホクです!」
「何が?」
「気持ちがです!」
「焼きいもみたいだな」
「焼きいもですから!」
「それ、理由になってないだろ」
「いいんです!」
るなは笑いながら、少しだけ先輩との距離を縮めた。
肩が触れそうで、触れないくらい。
それでも以前より、ずっと自然だった。
駅が近づいてくる。
楽しかった時間が、少しずつ終わりに近づいている。
るなは、ふと空を見上げた。
夕焼けの向こうには、薄い秋の空。
「……今日、あっという間でしたね」
「そうだな」
「焼きいも食べて」
「うん」
「いっぱい話して」
「うん」
「いっぱい笑って」
「それも、うん」
るなは微笑んだ。
「……こういう日、好きです」
「俺も」
「特別な場所じゃなくても」
「うん」
「すごいことをしなくても」
「うん」
「一緒に焼きいも食べて、笑って……」
るなは胸元にそっと手を置く。
「それだけで、幸せなんだなって思いました」
先輩は少しだけ笑った。
「じゃあ、また食べよう」
「え?」
「来年も」
るなの目が、ぱっと輝いた。
「……はい!」
「その次も」
「もちろんです!」
「じゃあ、毎年だな」
「毎年です!」
るなは嬉しそうに笑った。
「秋になったら、焼きいもです!」
「恒例行事になったな」
「焼きいも記念日です!」
「そんな記念日あるの?」
「今日できました!」
「じゃあ、毎年忘れないようにしないとな」
「はい!」
二人は顔を見合わせる。
そして、また笑った。
駅前で、先輩が足を止める。
「じゃあ、俺はこっちだから」
「はい」
「今日はありがとう」
「こちらこそです」
「また連絡する」
「待ってます」
ほんの少しの沈黙。
るなは何か言おうとして――やめた。
代わりに、にっこり笑う。
「先輩」
「ん?」
「今日は……会いに来てくれて、ありがとうございました」
「うん」
「すごく嬉しかったです」
「俺も、会えてよかった」
「……はい!」
先輩が歩き出す。
るなも手を振る。
「またね!」
「またな」
少しずつ離れていく背中。
るなは、その姿が見えなくなるまで手を振っていた。
そして――小さく呟く。
「……またね」
家へ帰る道。
るなは一人になっても、ずっと笑っていた。
今日食べた焼きいもの甘さ。
半分こした温かさ。
くだらないことで笑った時間。
そして――大学からわざわざ会いに来てくれた先輩。
全部が、胸の中に残っている。
「……焼きいも色のスマイル、かぁ」
るなは自分の頬を指でつついた。
「本当に、今日ずっと笑ってたな……私」
でも、不思議じゃなかった。
好きな人と一緒にいる。
それだけで、心が自然に笑ってしまう。
それは、夏の花火みたいな激しい光とは違う。
一瞬で夜空を染める光ではなくて。
秋の夕暮れみたいに、ゆっくりと。
じんわりと。
心の奥まで温めてくれる光。
「……恋って」
るなは空を見上げた。
「ドキドキするだけじゃないんですね」
そして、微笑む。
「一緒にいると、笑顔になれるんだ」
その笑顔は、夕焼けに照らされて――
ほんのり金色に輝いていた。
焼きいもの皮のような、あたたかな色。
そして、その中には。
今日一日の幸せが、ぎゅっと詰まっていた。
その夜。
るなはベッドの上で、今日のことを思い出していた。
焼きいもを半分こしたこと。
「おいしい」と笑ったこと。
先輩が「また来年も食べよう」と言ってくれたこと。
「……来年も」
るなは枕を抱きしめる。
「来年も、一緒に食べられますように」
そして――
「その次の秋も」
小さく付け加える。
「……その次も」
まだ未来のことは、わからない。
高校を卒業する。
先輩は大学で夢を追いかける。
二人の距離は、これからも変わっていくかもしれない。
それでも。
今日みたいに。
会えた日に、一緒に笑えたら。
それだけでいい。
「……約束です」
るなはそう呟いて、目を閉じた。
窓の外では、秋の夜風が静かに吹いている。
夏の花火は、もう遠い季節の記憶。
代わりに今、るなの心に灯っているのは――
静かで。
優しくて。
ずっと消えない、小さな光。
焼きいも色のスマイル。
それは、好きな人と一緒にいる幸せを知った少女の笑顔。
そしてその笑顔は――
次の季節へ向かう、恋の光になっていった。
🍠🍁✨
恋は、花火のように弾けるだけじゃない。
秋の焼きいものように、ほくほくと。
一緒にいるだけで、心を温めてくれる。
そして――
また来年も。
その次の秋も。
二人の「またね」が続いていく限り、
その笑顔はきっと、何度でも灯る。
――焼きいも色のスマイル! 🍠😊💕