立川市の事件にみる、親と子の境界線のゆらぎ

立川市の事件にみる、親と子の境界線のゆらぎ

記事
コラム
子どもを守りたい。
その気持ちは本物なのに、なぜか行動がすれ違ってしまう。
境界線が揺らぐとき、親の感情はどこへ向かうのか──


2025年5月、東京都立川市で、
小学校に外部の大人が押し入り教職員に暴力を振るうという
衝撃的な事件が起こりました。

詳細はまだ明らかになっていない部分もありますが、
報道を通して私の目に見えてきたのは、
これは単なる暴力事件ではなく
「親と子の間にある境界線の問題」が崩れたことで
起きた出来事ではないかと感じました。

小学校で起きた事件

2025年5月8日、
立川市立第三小学校で、教職員が負傷する暴行事件が発生しました。
きっかけは、児童同士のトラブル。
子どもの母親が学校側との話し合いに不満を感じ
知人の男性2人を呼び寄せて校内に侵入。
そのまま教室近くで教職員とトラブルになり複数名の職員が負傷しました。

児童にケガはなかったものの、
教室では図工の授業中だったこともあり、
現場は混乱と恐怖に包まれたといいます。

警察はその場で男性2人を逮捕。
一部は容疑を認めており、
今後は母親との関係性や学校側の対応も含め
事件の全容解明が求められています。

報道されているのは表面的な事実だけですが
この背景にあったものは何だったのか。
私は日々のカウンセリング現場で感じる、
ある共通点を思い出しました。

境界線が揺らぐ瞬間

私は日々のカウンセリングのなかで、
子どもの問題に強く感情を揺さぶられる親御さんと出会うことがあります。

中には、子どもを思う気持ちの裏に「守りたい」以上の
強い怒りやフラストレーションが見えることもあります。

たとえば、先生や他の保護者への苛立ち、
あるいは「なんでうちの子がこんな目に」という怒り。
その怒りは本当に「子どもの出来事」だけに向けられているのでしょうか?

丁寧に話を聞いていくと、その感情の奥には、
過去に自分が我慢してきたことや報われなかった思い、
自分が助けてもらえなかった経験などが眠っていることがあります。

そしてその未消化の怒りが、
「投影」となって目の前の子どもを通して再燃するのです。

親としての怒りや不安を持つことは自然なことです。
でもそれを"子どもの問題"に重ねてしまうと、
親と子の境界線は簡単に曖昧になります。

子どもを守るつもりが、
実は親自身の感情を処理する手段として子どもを巻き込んでしまう──
そんなケースに、私はこれまで何度も立ち会ってきました。

なぜ境界が崩れるのか

親と子の境界線が揺らぐ背景には、
親自身の生きづらさが隠れていることもあります。

たとえば、子どもの頃に怒ることを許されなかった経験や、
「いい母でいなければ」と努力しすぎて自分の感情を押し込めてきた歴史。

正しくありたい、子どもを守りたい、失敗したくない──
そうやって必死にやってきた結果、
自分の怒りを見て見ぬふりし、代わりに“正しさ”という名の
仮面をかぶって感情をぶつけてしまう。

その結果起きるのが「投影」です。

投影とは、自分が気づいていない感情や未処理の体験を、
他人に重ねて見てしまう心理の働きです。

親が無自覚のまま自分の怒りや悲しみ、寂しさを子どもに映し出し、
「この子が可哀想だから」「この子を守らなければ」と
感情的に介入してしまうことで、子どもと自分とのあいだの境界が崩れていきます。

投影が続くと、親は
自分の感情を整理しないまま、子どもに背負わせている状態になります。
子どもが本来持っている問題以上の荷物を抱えることになり、
自分の課題として向き合う機会を奪われてしまうんです。

境界線を保つことは、自分の感情は自分のものとして扱うということ。
親自身がそのスキルを持つことが、
子どもの安心感と健全な自立を支える土台になるのです。

子どもを守るとは?

子どもを守るということは、
「怒りを爆発させて相手をやり込めること」ではなく、
子どもが安心して「自分の人生を生きられる環境を整えること」です。

そのためには、まず
「これは誰の感情か?」と立ち止まる必要があります。
自分が感じている怒りは、“子どもの出来事に対して”なのか、
それとも“自分の過去や不安”に触れたからなのか。

親が自分の感情を自覚し、整理し、
必要なら言葉で伝えられるようになること。
それが境界線を守るということであり、
子どもが安心して自分の課題に向き合える力にもつながっていきます。

まとめ

━━ ゆらいでも戻れるように
私たちは皆、親であっても完璧ではありません。
怒りもするし、不安にもなる。
そして、境界線は時に揺らぐものです。

でも、そのことに気づき直せるかどうか。
そこに、子どもを巻き込まずに済むかどうかの分かれ道があります。

「子どもを守るために怒っている」と思ったときほど、
ひと呼吸おいて、
「その怒りは誰のものか」を見つめてみてほしいと思います。

境界線を守ることは、冷たいことではなく、
本当の意味での“信頼”と“愛”を育てることなのです。

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