【有料老人ホーム登録制・前編】「囲い込み」に国がメス!令和9年12月スタート――新設は“登録しないと開設不可”、既存ホームの猶予は1年

【有料老人ホーム登録制・前編】「囲い込み」に国がメス!令和9年12月スタート――新設は“登録しないと開設不可”、既存ホームの猶予は1年

記事
コラム

■はじめに


「入居したら、併設の訪問介護とケアマネを使うのが条件です」
「系列の事業所を使ってくれたら、家賃を下げますよ」

住宅型有料老人ホームを中心に、こうしたいわゆる「囲い込み」が長年問題視されてきました。入居者が必要以上の介護サービスを受ける構造になり、介護保険財政の面でも、入居者の選択の自由の面でも、看過できない状況になっていたのです。

この問題に対し、国はついに制度そのものを変えました。
令和8年に成立した「社会福祉法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第51号)により、これまで「届出制」だった有料老人ホームに「登録制」が導入されます。

本シリーズは2回構成です。

・前編(本記事):登録制とは何か/いつから・どのホームが対象か/新設と既存でどう違うか
・後編:既存ホームが経過措置の1年間で整備しなければならないこと(チェックリスト付き)

※本記事は、厚生労働省「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」(第10回・令和8年10月9日)の資料「登録制の施行に向けた対応について(まとめ)」および同検討会で報告された改正法の資料をもとに作成しています。政省令・解釈通知は今後公布される予定のため、細部は変更される可能性があります。

■1. そもそも「登録制」で何が変わるのか


これまでの有料老人ホームは、都道府県(指定都市・中核市を含む)への「届出」だけで事業を始めることができました。行政が事前に中身をチェックする仕組みは弱く、問題が起きてから指導する「事後規制」が中心でした。

登録制では、これが大きく変わります。

・都道府県知事の「登録」を受けなければ事業ができない(事前規制)
・登録には、契約・人員・設備・運営に関する「登録基準」への適合が必要
・登録の有効期間は5年。更新を受けなければ効力を失う(更新拒否の仕組みもあり)
・登録が必要なのに未登録で事業を行った場合は、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金

つまり、「届け出れば始められる」時代から、「基準を満たしていると認められて、はじめて運営できる」時代へ移るということです。

■2. いつから始まるのか(スケジュール)


厚生労働省の資料で示されているスケジュールは次のとおりです。

・令和8年6月:改正法 公布
・令和8年秋〜年内(予定):政令・省令の公布
・令和9年12月(予定):登録制 施行
・令和10年12月:既存ホームの移行経過措置(1年間)終了

施行日は法律上「公布から2年を超えない範囲で政令で定める日」とされており、資料では令和9年12月が予定されています。

なお、7月時点の報道では経過措置を「1年6か月」とする案も伝えられていましたが、10月9日の第10回検討会で示された取りまとめでは「1年間(令和10年12月終了)」とされています。最終的には政省令で確定しますので、引き続き注視が必要です。

■3. どのホームが登録の対象になるのか


登録の対象は、すべての有料老人ホームではなく、「中重度の要介護者などを入居対象とするホーム」です。第10回検討会の取りまとめでは、次のように整理されています。

・要介護者であって、認知症高齢者の日常生活自立度がⅢ以上の方を入居対象とするホーム
・要介護者であって、一定の医療ニーズを有する方を入居対象とするホーム
(医療ニーズの具体的な範囲は、今後、解釈通知で示される予定)

ポイントは次の3つです。

・「住宅型」だけでなく「介護付き(特定施設)」も対象
・判断の基準は「入居対象者(入居要件)」。国は「現存するホームの大半が該当する」と想定
・特定施設の指定やサ高住の登録をすでに受けているホームは、提出書類が簡素化される

「うちは自立の方も受け入れているから関係ない」と考えるのは危険です。認知症の方や医療ニーズのある方を受け入れる前提で運営しているなら、対象になる可能性が高いと考えておくべきでしょう。

また、登録対象外の「届出ホーム」についても、尊厳の保持や適切な処遇は全ホームに求められるとして、登録基準とおおむね同様の遵守事項が定められる予定です。

■4. 【新設の場合】登録を受けなければ開設できない


施行(令和9年12月予定)以降に登録対象となるホームを新しく開設する場合は、事業開始前に都道府県知事の登録を受けることが必要になります。

申請時には、主に次の書類が求められる予定です。

申請書の記載事項
・施設名など基本情報
・入居対象者
・提供する介護等の内容
・提携する介護サービス事業者の情報
・入居者紹介事業者を使う場合、その手数料設定の考え方

添付書類
・誓約書(登録拒否事由に該当しないこと)
・入居契約約款
・重要事項説明書
・入居契約とケアマネジメント契約の独立性を担保するための書類
・決算書・財務諸表

注目すべきは、「提携事業者の情報」や「ケアマネジメント契約との独立性を担保する書類」が申請段階から求められる点です。開設の時点で「囲い込みをしない仕組み」を書面で示さなければならない、ということです。

これから開設を計画している法人は、施行時期をまたぐかどうかで手続きが変わる可能性があります。開設スケジュールと書類準備は、早めに逆算しておくことをおすすめします。

■5. 【既存ホームの場合】経過措置は1年。ただし「何もしなくてよい」わけではない


すでに運営している有料老人ホームについては、円滑な移行のための経過措置が設けられます。第10回検討会の取りまとめでは、

・既存ホームの移行に係る経過措置期間:1年間(令和10年12月に終了)
・新たに義務となる事項(夜間のオンコール体制など)についても一定の経過措置を設ける
・既存の建物で設備基準を満たせない場合は、代替措置を講じ入居者に説明することを条件に、当面の間の特例を設ける

とされています。

ただし、ここで誤解してはいけないのが、「経過措置=猶予期間=今は何もしなくてよい」ではないということです。

1年間で、既存ホームは登録申請を行い、登録基準に適合していることを示さなければなりません。契約書・重要事項説明書の作り直し、ケアマネジメントの独立性を担保する手順書の策定、人員体制や運営規程の見直しなど、やるべきことは多岐にわたります。

施行前の準備として、国自身も「入居説明・契約書類の見直し」を挙げています。施行を待ってから動き出すのでは、1年はあっという間です。

■6. 登録制の“本丸”は「囲い込み」対策


今回の登録基準の中で、最も大きなインパクトがあるのが「囲い込み」対策です。取りまとめでは、次のような契約条件が「不当な条件」として禁止される方向です。

・併設・隣接・関連法人・提携先の介護事業所、居宅介護支援事業所、医療機関、訪問看護、薬局の利用を入居の条件にすること
・かかりつけ医や担当ケアマネジャーの変更を強要すること
・上記の事業所を利用するかどうかで、家賃の軽減などの優遇を行うこと
・入院や心身の状態変化を理由に、合意なく居室変更や契約解除を行うこと

(地方部などで利用できる事業所が限られ、事実上やむを得ない場合は、それ自体が不当とはされません)

さらに運営面でも、

・ケアマネジャーの独立性を担保する手順書・ガイドラインの策定
・近隣の介護サービス事業所の情報を入居者に提供すること
・有料老人ホーム事業と介護サービス事業の会計の区分

などが求められます。

これまで“グレー”で済まされてきた運営は、登録の段階で通らなくなる、あるいは更新時に問題になる――そういう制度設計になっているのです。

■前編のまとめ


・有料老人ホームは「届出制」から「登録制」へ。施行は令和9年12月予定
・対象は認知症(自立度Ⅲ以上)や医療ニーズのある要介護者を受け入れるホーム。住宅型・介護付きとも対象で、既存ホームの大半が該当見込み
・新設ホームは、施行後は登録を受けなければ開設できない
・既存ホームには1年間(令和10年12月まで)の経過措置。ただし、その間に登録基準への適合が必要
・最大の焦点は「囲い込み」対策。契約条件・ケアマネの独立性・会計区分まで問われる

後編では、既存ホームがこの1年間で具体的に「何を」「どこまで」整備しなければならないのかを、チェックリスト形式で整理します。

■書類整備のご相談について


登録制への移行にあたっては、入居契約書・重要事項説明書・各種指針や手順書など、多くの書類を見直す必要があります。
介護・福祉事業所向けのコンプライアンス支援として、書類の点検・作成のご相談を承っています。お気軽にメッセージでお問い合わせください。

【参考資料】
・厚生労働省「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会(第10回)」資料1「登録制の施行に向けた対応について(まとめ)」(令和8年10月9日)
・厚生労働省 同検討会 報告資料「社会福祉法等の一部を改正する法律について」
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