【令和9年度介護報酬改定】国が示した「5つの基本的な視点(案)」を事業所目線で読み解く

【令和9年度介護報酬改定】国が示した「5つの基本的な視点(案)」を事業所目線で読み解く

記事
コラム

はじめに

令和8年9月30日に開催された第268回社会保障審議会介護給付費分科会で、「令和9年度介護報酬改定に向けた基本的な視点(案)」が示されました。

これは、今年4月以降に計9回行われた分科会での議論と、関係団体との3回の意見交換会を踏まえて、次の改定で「何を重視するのか」という方向性をまとめたものです。個々の加算や単位数はこれから議論されますが、この「基本的な視点」が改定全体の骨格になります。

本記事では、資料1(本文)と資料2(概要)の内容を整理し、介護事業所の経営者・管理者の方が「今から何を意識しておくべきか」という目線で解説します。

改定の背景:国が認識している3つの環境変化

資料ではまず、改定にあたっての基本認識が示されています。大きく分けると次の3つです。

① 経済状況の変化(物価・賃金の上昇)

日本経済が「デフレではない状況」へ移行し、物価や賃金の上昇が続いています。令和7年度介護事業経営概況調査では、全サービスにおける赤字事業者の割合が約4割に上ると明記されました。

介護サービスは公定価格のため、事業者が自らコスト増をサービス価格に反映することができません。そのため、経営の安定と人材確保に向けた更なる処遇改善が必要だとしています。

一方で、保険料・公費・利用者負担で支えられる制度の持続可能性も求められており、特に現役世代から保険料負担の増加への懸念が示されていることにも触れられています。

② 人口構造の変化(2040年を見据えて)

令和9年度から始まる第10期介護保険事業計画期間は、65歳以上人口がピークを迎える一方、医療と介護の複合ニーズを抱える85歳以上人口が増加する2040年を見据えた取組を本格化させる時期と位置づけられています。

介護サービスの需要は、増える地域もあれば、すでに減少局面に入る地域もあり、地域差が一層大きくなる見込みです。

こうした中、令和8年6月に成立した社会福祉法等の一部を改正する法律により、中山間・人口減少地域で柔軟なサービス提供を可能にする「特定地域サービス」等が創設されました。また同法により、人材確保・生産性向上の取組の推進が国・都道府県の責務とされ、生産性向上推進のための協議会の設置が都道府県の義務となっています。

③ 地域共生社会の実現と高齢者の安心の確保

医療・介護の複合ニーズを持つ方、認知症の方、独居の方の増加により、介護ニーズは複雑化・多様化しています。資料では、認知症や軽度認知障害の高齢者が65歳以上の約3割を占めることにも言及しています。

また、同じ法改正で有料老人ホームに登録制が導入されるなど、高齢者の住まいをめぐる制度対応も進んでいます。

令和9年度改定に向けた「5つの基本的な視点」

こうした現状認識を踏まえ、今回の改定の基本的な視点は次の5点に整理されています。

視点1 物価・賃金の上昇等への対応と処遇改善

事業者の経営状況や介護分野の賃上げ状況を把握したうえで、物価・賃金の上昇等を介護報酬に適切に反映し、経営の安定を図るとともに、「他職種と遜色のない処遇改善」を実現するという方針です。

事業所目線のポイント
・今回の改定で最も重要な柱の一つです。処遇改善の評価がどのような形になるかは今後の議論ですが、「賃上げの状況を適切に把握した上で」とある以上、各事業所の賃金改善の実績や配分の考え方を説明できる状態にしておくことが大切です。
・処遇改善加算の計画書・実績報告、賃金規程やキャリアパスの整備状況を、改定前に一度点検しておくことをおすすめします。

視点2 人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築

地域ごとに高齢化や人口減少、サービス需要の状況が異なる中で、地域の実情に応じて必要なサービスを持続的に提供できる体制をつくるという視点です。

具体的には次のような方向性が示されています。
・新設された「特定地域サービス」等が確実に機能するよう、サービス提供のあり方・人員配置基準・報酬を検討する
・中山間地域の加算のあり方を見直す
・地域における協働化を図り、タスクシフト/シェアを推進する

事業所目線のポイント
・中山間地域等の加算を算定している事業所は、見直しの動向を注視する必要があります。
・都市部の事業所にとっても、「地域の他事業所との協働化」や「タスクシフト/シェア」は今後のキーワードになりそうです。

視点3 地域包括ケアシステムの深化

医療・介護の複合ニーズ、認知症、独居の高齢者の増加を踏まえ、次の取組を推進するとしています。
・医療ニーズが高い方や看取りへの対応を含めた医療と介護の連携
・生活期における自立支援に向けたリハビリテーション
・災害や感染症発生時の業務継続、高齢者虐待防止等の取組
・認知症の方が役割を持ち、地域とのつながりや社会参加を続けられる環境整備
・生活支援・権利擁護・地域活動・民間サービスなど、多様な主体との連携
・有料老人ホームのサービスの質と運営の透明性確保

あわせて、状態の維持・改善や生活の質の向上につながる質の高い介護を推進し、その成果を適切に評価すること、LIFEの一層の活用等を通じた科学的介護の推進も掲げられています。

事業所目線のポイント
・業務継続計画(BCP)や高齢者虐待防止の取組は、「計画があるか」だけでなく「実効性があるか」が問われる流れです。研修・訓練の実施記録や見直しの記録を整えておきましょう。
・「成果を適切に評価」「LIFEの一層の活用」という表現からは、アウトカム評価の方向性がうかがえます。LIFEへのデータ提出とフィードバック活用の体制を確認しておくと安心です。

視点4 職場環境の改善と生産性の向上を通じたサービスの質の向上及び介護人材の確保

多様な人材の確保・定着を進め、職員が専門性を発揮して働き続けられる環境づくりを進めるという視点です。

注目したいのは、「施設系サービスのみならず居宅系サービスも含め」AI等の介護テクノロジーの活用や、いわゆる介護助手等へのタスクシフト/シェアを推進すると明記されている点です。業務の効率化で生まれた時間を、利用者への直接的なケアに充てることで、サービスの質の向上につなげるとしています。

事業所目線のポイント
・これまで施設中心だった生産性向上の議論が、訪問介護などの居宅系サービスにも広がることが明確になりました。
・記録・請求・シフト管理などの業務で、ICTやAIをどう使っているかを整理し、職員の負担軽減につながった実績を残しておくことが、今後の評価への備えになります。

視点5 制度の安定性・持続可能性の確保

現役世代を中心に保険料負担の増加への懸念が示される中、限られた財源を有効に活用するという視点です。必要なサービスを確保しつつ、サービス提供の実態を把握したうえで、介護報酬の評価の適正化・重点化と報酬体系の整理・簡素化を進めるとしています。

事業所目線のポイント
・「適正化・重点化」は、評価が手厚くなる部分と見直される部分が出てくることを意味します。自事業所が算定している加算が、どのような目的で評価されているのかを改めて確認しておきましょう。
・「整理・簡素化」により、加算の統合や要件の変更が行われる可能性もあります。改定内容が固まった段階で、算定要件と書類の総点検が必要になると考えられます。

今から準備しておきたい4つのこと

5つの視点を踏まえると、令和9年度改定に向けて事業所が今から取り組めることは次のとおりです。

1.処遇改善の実績と仕組みを「見える化」しておく
賃金改善の実績、配分ルール、キャリアパスを説明できる状態に。

2.BCP・虐待防止など運営基準の取組の実効性を点検する
計画・研修・訓練・見直しの記録が揃っているかを確認。

3.ICT・AIの活用状況と業務改善の成果を整理する
居宅系サービスも対象になることを前提に、取組を記録として残す。

4.算定中の加算の目的と要件を棚卸しする
適正化・重点化、整理・簡素化に備え、改定後すぐに対応できる準備を。

まとめ

今回示された「基本的な視点(案)」は、
・物価・賃金上昇への対応と処遇改善
・地域の実情に応じたサービス提供体制
・地域包括ケアシステムの深化
・生産性向上と人材確保
・制度の持続可能性

という5つの柱で構成されています。「処遇改善」と「適正化・重点化」という、一見すると相反する方向性が同時に示されている点が今回の特徴です。

具体的な加算・基準の見直しは、今後の分科会で議論されていきます。今の段階で自事業所の体制や書類を整えておくことが、改定後の円滑な対応につながります。

本ブログでは、今後も改定の議論の動向を事業所目線でお伝えしていきます。

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※本記事は、第268回社会保障審議会介護給付費分科会(令和8年9月30日)資料1「令和9年度介護報酬改定に向けた基本的な視点(案)」および資料2「同 概要」をもとに作成しています。内容は「案」の段階であり、今後の議論により変更される可能性があります。
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