■はじめに
前編では、有料老人ホームが「届出制」から「登録制」へ移行すること、施行が令和9年12月予定であること、そして既存ホームには1年間(令和10年12月まで)の経過措置が設けられることを解説しました。
後編では、既存ホームがこの経過措置期間中に「何を整備しなければならないのか」を具体的に整理します。
※本記事は、厚生労働省「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」(第10回・令和8年10月9日)資料「登録制の施行に向けた対応について(まとめ)」をもとにしています。政省令・解釈通知で細部が変わる可能性がありますので、最新情報をご確認ください。
■まず全体像:整備すべき8つの領域
1. 入居契約書の見直し(不当な契約条件の排除)
2. 重要事項説明書の作り直し
3. ケアマネジメントの独立性を担保する仕組み
4. 入居者の「サービス選択の自由」を守る運用
5. 会計の区分
6. 人員体制(特に夜間・緊急時)
7. 運営に関する指針・計画・研修
8. 設備の確認と、登録申請書類の準備
以下、順に見ていきます。
■整備1:入居契約書の見直し(不当な契約条件の排除)
登録基準では、次のような契約条件が「不当な条件」として禁止される方向です。まずは現行の契約書・入居案内・パンフレットに、これらに当たる記載や運用がないかを確認してください。
・併設・隣接・関連法人・提携先の介護事業所、居宅介護支援事業所、医療機関、訪問看護、薬局の利用を入居条件にしていないか
・かかりつけ医や担当ケアマネジャーの変更を求めていないか
・系列事業所を利用するかどうかで、家賃や管理費の優遇・割引をしていないか
・入院や心身の状態変化を理由に、本人・家族の合意なく居室変更や契約解除ができる条項になっていないか
書面に書いていなくても、口頭の説明や実際の運用で事実上強制していれば問題になります。契約書と“現場の説明”の両方を点検することが大切です。
■整備2:重要事項説明書の作り直し
入居契約の締結前に、重要事項を書面で説明することが義務付けられます。少なくとも次の項目を、具体的に記載できるよう準備が必要です。
・入居対象者(要介護度、認知症、医療ニーズ、看取り対応の可否など)
・提供する介護・家事・健康管理などの内容
・提携している介護サービス事業者などの情報
・職員配置(日中・夜間)
・夜間・緊急時の対応方式(職員配置かオンコールか)
検討会では、事故時の責任の所在、具体的なサービス内容や提供回数なども明記すべきとの意見が出ています。また、「住宅型」と「介護付き」の違いを、入居検討の早い段階で分かるようにすることも求められています。
あわせて、誇大広告の禁止も明確化されます。ホームページやパンフレットの表現もこの機会に見直しましょう。
■整備3:ケアマネジメントの独立性を担保する仕組み
今回の「囲い込み」対策の中核です。次のような措置が求められます。
・入居契約とケアマネジメント契約が別物であることを明確にする「手順書・ガイドライン」の策定
・その内容を重要事項説明で入居者に明示すること
・ケアマネジメントの独立性確保に関する方針の策定・公表
・施設長・管理者への研修
・相談担当者の設置
・ケアマネ事業者(新設される「登録施設介護支援事業者」を含む)から求めがあった場合に、ケアプラン作成に必要な情報を適切に提供すること
登録申請の際にも、「入居契約とケアマネジメント契約等の独立性を担保するための書類」の添付が求められる予定です。“仕組みとして書面で示せるか”が問われます。
■整備4:入居者の「サービス選択の自由」を守る運用
・近隣の介護サービス事業所の情報を入居者に提供する
・ホームの設置者や関係事業者などの特定事業者からのサービス提供に限定・誘導しない
・入居者が希望するサービスの利用・選択を妨げない
具体的には、近隣事業所の一覧(事業所名・サービス種別・連絡先など)を作成し、入居時の説明資料に組み込むといった対応が考えられます。
入居者紹介事業者を利用している場合は、介護度や医療の必要度などに応じた紹介手数料の設定をしないことも求められます。紹介事業者との契約内容も確認しておきましょう。
■整備5:会計の区分
有料老人ホーム事業の会計と、介護サービスなど関連事業の会計を明確に区分することが求められます。
・ホーム事業と介護事業の収支を分けて管理できているか
・共通経費(人件費、水道光熱費など)の按分ルールが決まっているか
同一法人で住宅と介護サービスを一体的に運営しているホームほど、早めの整理が必要です。登録申請では決算書・財務諸表の添付も予定されています。
■整備6:人員体制(特に夜間・緊急時)
人員に関する基準は「従うべき基準」とされ、自治体の裁量で緩めることはできない方向です。
・管理者:1名以上(支障がなければ兼務可)
・生活相談員:1名以上(支障がなければ兼務可)
・介護職員・看護職員:介護等を安定的に提供できる体制。原則、夜間を除きホームの職員が常駐
・夜間・緊急時:職員配置、またはオンコールで対応できる体制
・食事を提供する場合:栄養士または管理栄養士の関与のもとで献立作成などを行う体制
・機能訓練を行う場合:内容に応じて機能訓練指導員を確保
オンコールで対応する場合は、入居者からの連絡や通報装置で状況を把握し、必要なときに職員(連携先を含む)が駆けつけられる体制であること、そしてホームが責任をもって速やかに対応できることが条件です。新たに義務となる部分には経過措置が設けられる予定ですが、連携先との取り決めや手順の文書化は時間がかかります。
■整備7:運営に関する指針・計画・研修
運営基準として、次のような整備が求められます。介護保険サービス事業所では既におなじみの項目ですが、住宅型ホーム単体では未整備のケースも少なくありません。
・虐待防止の体制と指針
・身体的拘束等の適正化
・事故発生時の対応(事故防止)
・業務継続計画(BCP):災害・感染症の双方を想定
・衛生管理・感染症対策
・個人情報の取扱い
・協力医療機関を定めること
・看取りまで行う場合は看取り指針の整備
・職員への定期的な研修(高齢者の尊厳、虐待防止、介護技術など)
・ハラスメント防止
・利用料の設定、事業収支計画、適正な広告
・地域住民や地域の活動との連携・交流
すでに介護事業所として整備している指針がある場合でも、「有料老人ホームとしての運営」に合わせた内容になっているか確認が必要です。
■整備8:設備の確認と、登録申請書類の準備
【設備基準(参酌する基準)】
・建築基準法・消防法への適合
・居室は原則個室、入居者1人当たり13㎡以上
・廊下は車いすなどで安全・円滑に移動できる幅
・浴室・便所・食堂などは入居者の利用に適したものとし、緊急通報装置などを設置
既存の建物で基準を満たせない場合は、代替措置を講じ入居者に説明することを条件に、当面の間の特例が設けられる予定です。「満たせない項目」と「代替措置」を整理し、説明できる状態にしておきましょう。
【登録申請書類】
・誓約書
・入居契約約款
・重要事項説明書
・入居契約とケアマネジメント契約等の独立性担保に関する書類
・決算書・財務諸表
なお、特定施設の指定やサ高住の登録をすでに受けているホームは、事業所番号・登録番号と最低限の情報、既存の申請で求めていない内容を提出すれば足りる簡素な手続が予定されています。
■今日から使える!登録制 対応チェックリスト
□ 自ホームが登録対象(認知症自立度Ⅲ以上・医療ニーズのある要介護者を入居対象)に当たるか確認した
□ 入居契約書・パンフレットに、提携事業所の利用を条件とする記載がない
□ 系列事業所の利用と家賃・管理費の優遇を結び付けていない
□ 入院・状態変化時の居室変更・解約が「合意」を前提とした条項になっている
□ 重要事項説明書に、入居対象者・サービス内容・提携事業者・職員配置・夜間体制を記載している
□ 入居契約とケアマネジメント契約の独立性を担保する手順書がある
□ ケアマネジメントの独立性確保に関する方針を策定・公表している
□ 施設長・管理者向けの研修を実施し、相談担当者を決めている
□ 近隣の介護サービス事業所の情報を入居者に提供している
□ ホーム事業と介護サービス事業の会計を区分している
□ 夜間・緊急時の体制(職員配置またはオンコール)を文書で定めている
□ 虐待防止・身体拘束適正化・事故対応・BCP・感染症対策の指針がそろっている
□ 看取りを行う場合、看取り指針を整備している
□ 職員研修の年間計画がある
□ 紹介事業者の手数料が介護度・医療度に連動していない
□ 設備基準を満たせない項目と代替措置を整理している
□ 登録申請に必要な書類(誓約書・約款・重説・独立性担保書類・財務諸表)の準備に着手した
■おすすめの進め方(スケジュール)
・今〜政省令の公布まで:現状の契約書・重説・運用の棚卸し。「囲い込み」に当たる要素の洗い出し
・政省令・解釈通知の公布後(令和8年度末〜令和9年度):基準に沿って書類・規程を改訂。研修や体制の整備
・施行(令和9年12月予定)〜令和10年12月:登録申請。新しい契約書・重説での説明に切り替え
経過措置の1年間は、「準備を始める期間」ではなく「申請を終える期間」です。施行前の今から棚卸しを始めておくことが、もっとも確実な対策になります。
■後編のまとめ
登録制は、単なる規制強化ではありません。検討会の座長も、利用者が実質的にサービスを選べる環境を整える「良質な市場の発展に向けた条件整備」と位置付けています。
裏を返せば、契約の透明性やケアマネジメントの独立性をきちんと示せるホームほど、入居者・家族・ケアマネジャーから選ばれやすくなるということです。「囲い込み」と言われない運営を書面で示すことが、これからのホーム経営の土台になります。
■書類整備のご相談について
入居契約書・重要事項説明書の点検、ケアマネジメント独立性の手順書、虐待防止・BCPなど各種指針の整備について、介護・福祉事業所向けのコンプライアンス支援としてご相談を承っています。
「何から手を付ければよいか分からない」という段階でも構いません。お気軽にメッセージでお問い合わせください。
【参考資料】
・厚生労働省「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会(第10回)」資料1「登録制の施行に向けた対応について(まとめ)」(令和8年10月9日)
・厚生労働省 同検討会 報告資料「社会福祉法等の一部を改正する法律について」