しばらく体調を悪くして休んでいました。
もう元に戻りました。
頑張ります。
『新しい光に包まれて』第七回です。
☆
不意に霧が晴れた。そして三メートルほど先に、真っ赤な和服の着物を着た十二歳ばかりの少女の姿が見える。笛を吹きながら、こちらをじっと見ている。「あれだ!」と聖太郎は心の中で叫ぶ。
例の男から貰った木彫りの人形は、色がついていなかった。しかし目の前に立っている赤い着物を着た少女は、確かに木彫りの人形と姿形が同じである。手に持った人形を少女の見える方角に出して、見比べてみる。特に顔の表情や、全身から立ちのぼる情感といったものがそっくりである。
少女は笛を口から離し、片手で聖太郎に手招きをする。その通りに歩いて行くと、驚いた。聖太郎の足の下はいつの間にかガラス張りになっていて、その下には上空から映した街の風景が広く見える。
空中高くに浮かんでいるような錯覚を起こして、聖太郎は目がクラクラとくらむ。確かに足の下には堅いガラスの感触はあるが、下の世界があまりにも広く、スケールが大きかったので、本当は宙に浮いているのではないかと思ったのである。
「どう、驚いた?」と少女がはっきりとした物言いで、聖太郎に訊ねる。さっきの「こっちに来て」と言った声と同じである。やはり彼女が呼んでいたのだ。
何も答えられずに立ちすくむ聖太郎に向かって、少女はなお語りかける。
「下に見えるのは、あなたがいつも住んでいる下界の世界よ。大丈夫、心配しないでも下には落ちないわ。ここは下界の世界を支配している神聖な場所なの。あなたのような、新しい光に包まれている人にしか来れない場所なのよ」
「新しい光に包まれて……」と聖太郎は、この最近耳慣れた言葉を思わず小さく繰り返した。
「そうよ、あなたは今新しい光に包まれているわ。それは自分でも意識していることでしょう?」
「うん」と答えて、聖太郎は軽く首をたてに振る。
「わたしは、あなたが最近出会った出来事を全て知っているわ。あなたは、全宇宙的に有名な人なのよ。といっても、下界では普通の人よ。わたしたちが今いるこういった世界では、あなたは今期待の注目人物なの」と言って、笛を持った少女は聖太郎にほほ笑みかける。聖太郎には、少女の言っていることの意味がよく分からない。
明らかに年下と思われる少女にからかわれているのではないかと思うと、少し腹立ちもあるが、大体において心地良い。世界がキラキラ輝いて見える現象が、この場所に来て目がくらむほどの美しさをさらに倍加させている。
少女の向こうはまた霧の世界。
ふとこれは天国なのかも知れないと思うと、聖太郎は不安になってきた。そして、
「ぼくは、もう死んでしまったのだろうか?」と慌てて訊ねてみる。
「いいえ、あなたは、まだ死んではいない。それどころか、これからいつまでも下界に生きていて、大きな仕事をしてもらわなければならない。そのきっかけが、自転車であなたがぶつかったあの佐山久美子という女の人なのよ。あなたはもう一度佐山久美子に会いたいんでしょう?」
「会いたいけど……」と言葉尻を濁らせていると、少女は突然大きな声で笑う。
「そんなにはにかまなくていいの。会いたければ会いたいと言えばいいじゃない。わたしは見た目は十二、三歳くらいの女の子だけれど、本当の正体は違うの。この世界で百万歳は生きているわ。ただあなたが安心できるようにと思って、仮の姿を見せているだけ。