私は編集者として20年以上、出版業界の内側を見続けてきました。
その中で、どうしても疑問を感じざるを得ない存在があります。
それは「出版塾」です。
出版コンサルティング会社や、一冊売れた本を出した著者などが主催しているケースが多いのですが、塾生からよく聞くのはこうした声です。
「半年間で出版の夢を叶えられると聞いて参加した」
「プロの編集者に企画を見てもらえると期待した」
「50万円近い費用を払ったから、必ずチャンスがあると思った」
しかし、現実はどうでしょうか。
私は出版塾の最終プレゼン大会の審査員として、これまで何度も参加してきました。塾生40人ほどが6カ月学び、最後に出版社の編集者に向けて企画を発表する。そこで出版社から「もう少し詳しく聞かせてください」と声がかかれば次の段階へ進む──この流れ自体はどの塾もほぼ同じです。
けれども、実際に出版が実現するのは40人中1人、多くて2人。これが長年の私の経験から言える率直な数字です。
出版社の「投資対象」という現実
なぜそれほど狭き門なのか。
理由は今の出版業界の構造にあります。
一冊の本を出すには、印刷・流通・宣伝などで350万円から400万円ほどのコストがかかります。かつては、複数の新刊を出してその中のヒット作で利益を回収するモデルがありました。しかし今は違います。
本の売れ行きは以前よりもずっと厳しく、返品されるスピードも早い。出版社も書店も「売れる保証のある著者」でないと、リスクを取れなくなっているのです。
つまり、一冊の本は「投資対象」として扱われています。
昔なら「売れなかったね」で済んだものが、今は「なぜ出したのか」と厳しく問われる。これが出版の現在地です。
※ほとんどの出版社は月次決算を徹底しているため新刊の出荷額が足りないという月にどうしても追加企画が必要となることがごくまれにあります。その際は若干企画が通るハードルが低くなることがあります
出版塾の主催者が知らないこと
問題は、出版塾を主催する人の多くが、この現実を知らないという点です。
例えば、売れた本を書いた著者。
彼らは自分のジャンルでは経験がありますが、他分野の企画をどう導けばいいのかまでは分かりません。
あるいは出版コンサルティング会社。
編集現場の最新事情を知らないまま、「企画さえ面白ければ通る」と塾生に期待を抱かせてしまう。
しかし実際には、出版社から「著者が1,000部買い取るなら出してもいい」という条件が提示されることも珍しくありません。これはベテラン著者でも起こる現実です。
塾生からすれば、高額な費用を払ったうえに、自費出版に近い条件を突きつけられることもある。そんな理不尽さに直面して、夢を諦めざるを得ない人がほとんどなのです。
「出版したいあなた」に伝えたいこと
もしあなたが「いつかは商業出版を」と思っているなら、ぜひ冷静になって考えてください。
出版塾に通えば本が出せる──そんな簡単な話ではありません。
9割以上の塾生は本を出せずに終わる。それが現実です。
本当に出版を目指すなら、業界の実情を知り、経験豊富な編集者から直接学ぶ方がはるかに確実です。厳しい現実も含めて正直に伝えてくれる人に相談すべきです。
私はこれまで何百冊もの本を世に出してきましたが、共通して言えるのは「著者本人の覚悟」と「市場に届く必然性」があるかどうか。そこを見極めなければ、企画は動きません。
50万円を払って夢を買うよりも、そのお金と時間を、確実に前進できる準備に使ったほうがいいのではないでしょうか。
最後に、あなたに問いかけたいと思います。
――それでも、あなたは出版塾に飛び込みますか?