「何でもいいです」の奥にある本音。高齢者看護25年と、今のAI相談

「何でもいいです」の奥にある本音。高齢者看護25年と、今のAI相談

記事
コラム
「何でもいいです」
「もうお任せします」

高齢者看護の現場で、私はこの言葉を何度も聞いてきました。

けれども、本当に何でもいいと思っている方は、ほとんどいなかったように思います。

本当は家に帰りたい。

家族と一緒に食事をしたい。

不安だから、誰かにそばにいてほしい。

それでも、家族や職員に迷惑をかけたくなくて、自分の希望を口にできない方がいました。

「家族に任せているから」

「私はもう大丈夫」

「皆さんが決めたとおりでいいです」

そう話す言葉の奥に、本当は別の思いが隠れていることがあります。

私は看護師として約25年間、主に高齢者看護に関わってきました。

その中で大切にしてきたのは、本音を無理に聞き出すことではありません。

すぐに答えを決めつけず、ゆっくり話を聞くことでした。

人は、本当に困っていることを最初から話せるとは限らない


高齢者の方が、自分の希望を言えない理由は一つではありません。

家族に迷惑をかけたくない。

職員を困らせたくない。

自分だけわがままを言ってはいけない。

周囲の顔色を見ながら、自分の思いを飲み込んでいる方もいました。

また、自分自身でも、何を望んでいるのかを整理できていないことがあります。

そんなときに、こちらが急いで答えを求めても、本当の思いはなかなか出てきません。

何気ない会話を重ねる。

その人がどのような人生を送ってきたのかを知る。

好きだったことや、家族との思い出を聞く。

目の前の問題だけではなく、その人が何を大切にしてきたのかに目を向ける。

そうすることで、少しずつ言葉が変わってくることがありました。

「何でもいい」と話していた方が、やがて「本当はこうしたい」と話してくれる。

すべての希望をかなえられるわけではありません。

病気や身体の状態、家族の事情、病院や施設の環境など、変えられない条件もあります。

それでも、限られた状況の中で、その人や家族が大切にしたい時間を探すことはできます。

少しでも笑顔になれること。

家族と一緒にできること。

その人らしく過ごせること。

私は、そんな一つを見つけるために話を聞いてきました。

今、AI相談でも同じことが起きている

看護の現場を離れた現在、私は仕事や発信、AI活用についての相談を受けています。

相談の入り口では、次のような話を聞くことがあります。

「ChatGPTを使えるようになりたい」

「SNSを伸ばしたい」

「AIで動画を作りたい」

「仕事にAIを導入したい」

もちろん、その言葉どおり、AIの使い方やSNSの発信方法を知りたい場合もあります。

けれども、詳しく話を聞いていくと、本当に困っていることが別のところにある場合も少なくありません。

「SNSを伸ばしたい」と言いながら、実は何を発信すればいいか分からない。

「AIを使いたい」と言いながら、実はどの仕事に時間を取られているのかを整理できていない。

「動画を作りたい」と言いながら、本当は誰に何を伝えたいのかが決まっていない。

「売上を上げたい」と言いながら、自分の商品や強みをうまく説明できない。

表面に出ている言葉だけを受け取り、すぐにツールや方法を提案しても、問題が解決しないことがあります。

例えば、「SNSを伸ばしたい」という相談に対して、投稿回数を増やす方法を伝えることはできます。

しかし、本当の問題が「誰に何を提供するのかが決まっていないこと」であれば、投稿数を増やしても苦しくなるだけです。

「AIを導入したい」という相談でも、最初に必要なのは、新しいAIツールの紹介ではないかもしれません。

毎日の仕事の中で、何に時間がかかっているのか。

繰り返している作業は何か。

人が判断すべき部分と、AIに任せられる部分はどこか。

まずは、そこを整理する必要があります。

整理してみると、最新のAIや高価なシステムが必要ではない場合もあります。

人は、自分の本当の悩みを、最初から分かりやすく話せるとは限りません。

これは、看護の現場でも、現在の相談でも同じです。

看護師とは違う仕事を始めたつもりだった

私は身体の制約によって、以前と同じように医療現場で働き続けることが難しくなりました。

そこから約3年間、新しい働き方を探してきました。

動画編集、SNS発信、文章作成、生成AI、AIを活用したWeb制作。

自分にできることを増やそうと、さまざまなことを学び、試してきました。

新しい情報に触れるたびに、これも覚えなければいけないと思いました。

SNSで成果を出している人を見れば、自分ももっと発信しなければいけないと思いました。

AIの新機能が出れば、早く使って発信しなければいけないと焦りました。

SNSを伸ばさなければならない。

毎日発信しなければならない。

人の役に立つ情報を出し続けなければならない。

実績を作り、自分を良く見せなければならない。

いつの間にか、たくさんの「しなければならない」にとらわれていました。

情報を集めるほど、自分に足りないものが増えていく。

できることを増やしているはずなのに、自分が何をしたいのかは、逆に分からなくなっていきました。

けれども、最近になって気づいたことがあります。

私は、看護師とはまったく違う仕事を始めたつもりでした。

しかし、本当にそうだったのでしょうか。

道具が看護からAIに変わっただけだった

高齢者看護の現場で、私がしてきたこと。

目の前の人の話を聞く。

最初に出てきた言葉だけで判断しない。

本人もまだ言葉にできていない思いを、一緒に整理する。

変えられない条件がある中で、今できることを考える。

そして、その人や家族にとって大切なものを一つ探す。

今、仕事やAI、発信に悩む人に対して、私がしていることも、実はよく似ています。

話を聞きながら、頭の中にあることを整理する。

今、本当に困っていることを見つける。

できることと、今はやらなくていいことを分ける。

AIを使うなら、どこに使うのかを決める。

最初に変えることを一つに絞る。

使っている道具は、看護からAIやSNS、動画に変わりました。

けれども、私が大切にしていることは、あまり変わっていなかったのです。

私は、AIの専門用語をたくさん教えたいわけではありません。

新しいツールを次々に導入してもらいたいわけでもありません。

その人が本当に困っていることを一緒に見つけ、今必要なものを一つ決めたい。

AIを使うことで、仕事が少し楽になる。

発信したいことが整理される。

止まっていたことを始められる。

自分の経験や強みを、伝わる形にできる。

そのための手段として、AIを使いたいと考えています。

AIは誰でも使える。だからこそ、使う前の整理が必要になる

AIは、これからさらに身近になります。

文章、画像、動画、資料など、これまで専門的な技術が必要だったものも、以前より簡単に作れるようになっています。

AIを使える人自体は、これから珍しくなくなるでしょう。

しかし、AIに何を任せるのか。

何のために使うのか。

作ったものを誰に届けるのか。

相手にどう動いてほしいのか。

ここは、AIが勝手に決めてくれるわけではありません。

目的が曖昧なままAIを使うと、たくさんの答えは出てきます。

けれども、選べなくなります。

できることが増えるほど、何から始めればいいか分からなくなることもあります。

だから私は、AIの操作を教える前に、その人の話を聞きます。

新しいツールを増やす前に、今の仕事を整理します。

すべてを一度に変えようとせず、最初に取り組むことを一つ決めます。

これは、私が高齢者看護の中で身につけてきた関わり方ともつながっています。

多くの人によく見られるより、目の前の一人に向き合う

SNSの数字は、仕事を知ってもらうために必要です。

私もこれから、FacebookやInstagram、Xなどを使って、自分がしていることを発信していきます。

ただ、数字を伸ばすことだけを目的にはしたくありません。

今の私にできることを、正直に伝える。

実際に試したことを話す。

できることと、できないことを分ける。

そして、相談してくれた一人の話に、きちんと向き合う。

たくさんの人に届く前に、まず目の前の一人に、何か一つ変わるものを持ち帰ってもらう。

それが、25年間の看護師経験を通して身につけた私の仕事の仕方であり、これからも大切にしたいことです。

3年間迷って、ようやく自分の仕事が見え始めた
ここまで書いてきましたが、私自身は成功者でも何でもありません。

今も、新しい働き方を作っている途中です。

身体の制約がある中で、何ができるのか。

看護師として積み重ねてきた経験を、別の形でどう生かせるのか。

AIや動画、SNSを学ぶことが、どう仕事につながるのか。

約3年間、迷いながら試してきました。

遠回りもしました。

目先の数字にとらわれ、自分が本当に大切にしたかったことを見失っていた時期もあります。

それでも最近になって、看護師として培ってきた「話を聞くこと」と、現在のAI相談が、ようやく一本につながり始めました。

医療とAIは、まったく別のものに見えるかもしれません。

けれども、どちらも最後は、人のために使うものです。

AIの時代だからこそ、その人が何に困り、何を大切にしているのかを聞くことが、これまで以上に必要になる。

私は、そう考えています。

私は、AIを教える人である前に、まず人の話を聞く人でありたいと思っています。

その人が本当に変えたいことを一緒に見つけ、頭の中を整理し、今できる一歩を形にする。

必要であれば、そこにAIや動画、SNSを使う。

看護の現場で25年間続けてきたことを、今度は別の場所で、別の道具を使って続けていく。

それが、今の私が取り組みたい仕事です。

AIの時代だからこそ、私は一人ひとりの話を聞き、その人に必要な一つを一緒に見つけていきたいと思っています。
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