ちび愚者のカードめぐり旅|女帝の庭でひと休み

ちび愚者のカードめぐり旅|女帝の庭でひと休み

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占い
その香りの先へ誘われるように
ちび愚者は、小さな本を胸に抱えながら歩いていました。
女教皇の部屋を出たあとも
あの静かな月明かりが、まだ心の奥に残っています。

『わからない時は、静かに心の奥に聞いてみる』


白紙の本に書いた言葉を思い出すと、
ページのすみに浮かんだ小さな月のしるしが、
ほんのり光ったような気がしました。


けれど、しばらく歩いているうちに
ちび愚者のおなかが小さく鳴りました。
足も少し疲れています。
小さな犬も、いつもよりゆっくり歩いていました。


「ねえ、ちょっと休まない?」
犬がそう言って、ふかふかのしっぽを揺らします。
「でも、まだ始まったばかりだよ」
ちび愚者はそう答えましたが、
声には少しだけ元気がありませんでした。

そのとき、風に乗って、
甘い花の香りがふわりと流れてきました。
前を見ると、木々のあいだに
やわらかな金色の光が見えます。

近づいていくと、そこには小さな門がありました。
門の向こうには、花がいっぱいに咲いた庭が広がっています。
赤い花。
黄色い花。
白い花。
そして、枝いっぱいに実った果実。
草の上には、陽だまりのような光が落ちていて、
どこからか小鳥の声も聞こえてきました。
「わあ……」
ちび愚者は思わず立ち止まりました。

庭の奥には、冠をつけた人が座っていました。
その人は、ちび愚者を見るとあたたかく微笑みました。
「よく来ましたね。
ずいぶん歩いてきたのでしょう」
「あなたはだれ?」
ちび愚者がたずねると、その人は答えました。
「私は女帝。
育つものを見守り、疲れた心を休ませる者です」

女帝は、そばに置いてあったかごから
丸く熟した果実をひとつ取り、ちび愚者に差し出しました。
「まずは、少し食べなさい」
ちび愚者は、少し戸惑いました。
「でも、ぼく、まだ何もしていないよ。
もらっていいの?」
女帝はやさしく首をふりました。
「何かをしたから受け取っていいのではありません。
疲れているなら休む。
おなかがすいたなら食べる。
それも、旅を続けるために大切なことです」

ちび愚者は、果実を両手で受け取りました。
ひと口かじると、
甘いしずくが口の中に広がりました。
胸の奥まで、あたたかくなるような味でした。
小さな犬にも、小さく切った果実が渡されました。
犬はうれしそうに食べると、
ふかふかの草の上にころんと寝転がりました。
「ここ、気持ちいい……」
そう言って、目を細めます。

ちび愚者も、草の上に腰を下ろしました。
空は明るく、風はやわらかく、
庭の花たちは、誰かを急かすこともなく咲いています。
「休んでいると、進んでいない気がする」
ちび愚者がぽつりと言うと、
女帝は花に水をやりながら言いました。
「種は、土の中にいるあいだも育っています。
目に見えない時間にも、ちゃんと意味があります」
「見えなくても?」
「ええ。
休んでいる心の中でも、
次に進む力は少しずつ戻ってくるのです」

ちび愚者は、自分の胸に手を当てました。
さっきまで重かった足も、
不思議と少し軽くなっています。
何かを頑張っている時だけが、
旅ではないのかもしれない。
何もしていないように見える時間にも、
心はちゃんと息をしているのかもしれない。

ちび愚者は、小さな本を開きました。
白いペンが、そっとページの上に浮かびます。
少し考えてから
ちび愚者はこう書きました。

『休むことも
旅を続ける力になる』

すると、ページのすみに小さな花のしるしが浮かびました。
女帝は、それを見て静かにうなずきました。
「よく書けましたね」
小さな犬は、もうすっかり眠っています。
ちび愚者も草の上に寝転びました。

花の香り。
果実の甘さ。
あたたかな光。
近くで眠る犬の小さな寝息。
その全部に包まれているうちに
ちび愚者の心は、はじめて深くほっとしました。
安心って、こういう感じなのかな。
そう思いながら
ちび愚者は少しだけ目を閉じました。

風が花びらを一枚運んでいきます。
その花びらが飛んでいく先には、
遠く大きな石の影がありました。
ちび愚者は、まだそれに気づいていません。
けれど庭の向こうでは、
次の道が静かに待っていました。



今日の小さな道しるべ4.png

女帝のカードは、育つこと、受け取ること、
自分を大切にすることを教えてくれるカードです。

頑張り続けるだけでなく、休むこと、満たされること、
安心できる場所に身を置くことも、次へ進むための大切な力になります。



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