「AIには、具体的に指示しましょう」
プロンプトの書き方を調べると、だいたいそう書いてある。
確かに正しい。でも私は、そこで止まった。
何を具体的にすればいいのかが、具体的に分からなかったからだ。
正しい型を学んでも、まだ足りなかった
私は今、あるプロンプトエンジニアリングの講義を受けている。
プロンプトエンジニアリングとは、AIから意図した回答を引き出すために、指示を設計する技術のことだ。
講義では、プロンプトを考える基本として、次の3つを学んだ。
コンテキスト:依頼の背景や前提
インストラクション:AIにしてほしいこと
フォーマット:どのような形で出力してほしいか
SMARTの原理にも触れた。目標を具体的で、測定でき、実現可能な形へ落とし込む考え方だ。
そして何度も出てきたのが、「具体性と明瞭性が重要」という話だった。
内容には納得した。曖昧な指示をすれば、曖昧な回答が返ってくる。当然である。
ただし、ここで別の疑問が出てきた。
具体性は、どこから生み出せばいいのだろう。
具体的にするには、視点が必要になる
一つの依頼を具体化しようとすると、考えることが一気に増える。
目的は何か。誰に向けたものか。成功したと言える状態は何か。守るべき条件は何か。どんな失敗があり得るか。例外はないか。
さらに、今決めるべきことと、後から決めればよいことも分けなければならない。
私は考えているうちに、これはプロンプトを書く技術というより、一流ビジネスマンが仕事を整理するときの視点そのものではないかと思った。
ここでいう一流とは、肩書や年収が高い人ではない。
目的と手段を分け、結果を左右する条件に気づき、リスクや例外を先に考えられる人のことだ。
でも、その視点を最初から持っているなら、そもそも「具体的に指示できない」と悩んでいない。
長いプロンプトと、良いプロンプトは同じではない
そこで私は、思いつく条件をできるだけ多く書こうとした。
背景を加える。目的を書く。対象者を決める。禁止事項を並べる。出力形式を細かく指定する。
ところが、プロンプトを具体化しようとするほど、今度はプロンプトを作ること自体が仕事になっていった。
本当はAIに仕事を手伝ってほしかったはずなのに、そのAIへ渡す文章を完成させるために、人間が疲れている。
これでは順番が逆だ。
長いプロンプトと、良いプロンプトは同じではない。
必要なのは、条件をたくさん書くことではなく、結果を左右する重要事項を未定義のまま残さないことだ。
「ブログ記事を書いて。テーマはAI」
たとえば、AIへこう頼んだとする。
ブログ記事を書いて。テーマはAI。
短くて分かりやすい依頼に見える。しかし、この一文だけでは多くのことが決まっていない。
・何のための記事なのか
・誰に読んでほしいのか
・AIの何を扱うのか
・どの立場から書くのか
・読後に何をしてほしいのか
・どれくらいの長さにするのか
AI初心者向けのChatGPT解説を書くこともできる。経営者向けの業務活用記事にすることも、AIへの警告を込めた評論にすることもできる。
どれも「AIをテーマにしたブログ記事」ではある。ただ、依頼した人が欲しかった記事とは限らない。
決まっていない部分が多ければ、AIはその空白を推測で埋める。
推測が自分の意図と一致すれば、良い回答に見える。外れれば、「AIは期待どおりに答えてくれない」と感じる。
かといって、必要な項目を人間が毎回ゼロから思いつくのも面倒だ。
そこで、発想を逆にする。
答えの前に、AIへ質問させる
いきなり仕事を実行させるのではなく、まずAIにこう聞く。
この依頼で、まだ決まっていない重要事項を挙げてください。
人間が自力ですべての視点を用意するのではなく、AIに解釈の分岐や確認すべき論点を洗い出してもらうのだ。
進め方は3段階になる。
1.AIが、未定義になっている重要事項を挙げる
2.人間が、提示された論点を見て選択・判断する
3.AIが、その回答をもとに実行用プロンプトを作る
AIに判断を丸投げするわけではない。
AIには視野を広げてもらい、最終的に何を選ぶかは人間が決める。
そのまま使えるプロンプト
次の文章を、普段の依頼の前に付けて使える。
次の依頼は、まだ実行しないでください。よりよい結果を出すために、まだ決まっていない重要事項や、解釈が分かれそうな点を洗い出してください。目的、対象者、成功条件、必要な情報、出力形式、制約、リスク、実行後の行動という観点から、重要度の高い質問を最大7問まで提示してください。各質問には「なぜ確認が必要か」と短い回答例を添えてください。私が回答した後、その内容をもとに実行用プロンプトを作ってください。
これなら、自分に多角的な視点が足りなくても、必要な論点を見つけるところからAIと一緒に始められる。
一流の正体は、ただ視点の数が多いことではない。
結果を左右する未定義事項に、実行前に気づけることだ。
プロンプトエンジニアリングの極意
プロンプトエンジニアリングの極意は、細かな指示をすべて自力で書き切ることではない。
具体性とは、文章の長さではなく、結果を左右する重要事項を未定義のまま残さないことだ。
そして、人間が見落としている論点を探す作業は、AIにも手伝ってもらえる。
AIに答えを書かせる前に、まず問いを完成させる。
次にAIへ何か頼むときは、いきなり実行させず、「この依頼で、まだ決まっていない重要事項を挙げて」と一度聞いてみてほしい。
そのうえで、普段AIに頼んでいるけれど、なぜかうまくいかない依頼があれば、コメント欄に一文で書いてみてほしい。
そこにどんな未定義事項が隠れているのか、一緒に考える。
こうしたAI活用の「つまり」を、今後も書いていく。