「このシナリオ、壊れているんですが。直していいですか?」
AIが聞いてきた。AIには、シナリオが止まっているという事実が見えていた。だから直すかどうかを確認した。それは正しい動きだった。
私は言った。「直さなくていい。畳む。」
AIは少し経ってから、こう返してきた。「なぜ直さないのか分かりません。修正すべきか、疑うべきなのか。」
その「シナリオ」について
「シナリオ」というのは、Make(メイク)というツールで設計した自動化の仕組みのことだ。
Makeとは、異なるアプリやサービスを「もし〇〇が起きたら、△△をする」というルールでつなぎ合わせ、その動きを自動で動かし続けてくれるツールだ。プログラムを書く必要はなく、画面上でブロックを組み合わせるように設定できる。たとえば「特定のメールが届いたら、自動でスプレッドシートに記録して通知を送る」といった繰り返し作業を、人が手を動かさなくても処理し続けてくれる。
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coopel.ai
私はある仕事の業務効率化のために、このMakeのシナリオをいくつか設計して使っていた。そのうちの一つが、止まった。
AIにとってそれは、修復が必要な事実だった。
AIは正しかった
AIが「直していいですか」と聞いてきたのは、正しい動きだった。壊れているなら直す。何かが機能していないなら修復する。論理としては何もおかしくない。
ただ、AIが見ていたのは「止まっている」という事実だけだった。そのシナリオが何のために設計されたのか、どれほどの意味を持っていたのか、今もその意味が生きているのかを、AIは問わなかった。問えなかった、と言った方が正確かもしれない。
事実には重さがない。壊れているシナリオも、壊れていないシナリオも、AIにとっては「直すか直さないか」の違いしかない。価値の重さはデータとして存在しないから、判断の材料にならない。
だから私が「畳む」と返したとき、AIには理由が見えなかった。
「なぜ直さないのか分かりません。修正すべきか、疑うべきなのか。」
AIの困惑は正直だった。事実の世界だけを見ているなら、この疑問は当然だ。
壊れたもの=守るべきもの、という前提
AIが「直していいですか」と聞いてきたとき、そこには一つの前提が埋まっていた。
壊れたもの=守るべきもの。
これはAIだけの前提ではない。私たちも、目の前で何かが壊れると、無意識に同じ前提を置く。だから問いは自動的に「どう直すか」になる。
しかし、壊れているかどうかと、守る価値があるかどうかは、別の問いだ。
私が最初に見たのは、シナリオが止まっているという事実ではなかった。そのシナリオが、今もその価値を提供する意味があるか、だった。数ヶ月前に設計したとき、このシナリオには明確な役割があった。しかし今の状況を見ると、シナリオが止まっていても業務に支障が出ていなかった。それどころか、シナリオが担っていた仕事そのものが、もう必要なくなっていた。
本当に守るべきものはシナリオではなく、そのシナリオが提供していた価値だ。その価値を提供する意味がもうないなら、直す理由が先になくなる。
AIにはその重さが見えなかった。事実として止まっているシナリオと、意味を失ったシナリオの違いが、データとして存在しないから。だからシナリオは、最初から論点ではなかった。
論点を決めるのは、事実ではない
AIが見ていたのは、シナリオが壊れているという事実だった。私が見ていたのは、そのシナリオが仕えていた目的だった。
目的から見れば、手段は入れ替えられる。
手段から見れば、目的は見えなくなる。
何を論点にするかは、目の前の事実では決まらない。
何を守ろうとしているかで決まる。
AIは事実を正確に見る。でも事実には重さがない。重さを与えるのは、何のためにそれがあるのかという問いだ。その問いを持っているかどうかが、論点を決める力になる。
だからAIには、なぜ直さないのかが分からなかった。
こういう「目線の違い」を意識しながら、AIを使った仕組みづくりや業務の自動化をお手伝いしています。