総合型選抜の志望理由書は、さいきんはどれも機内食みたいな味がします。
総合型選抜指導の猛者たちが、総合型選抜の攻略法をネット上に公開しました。検索すれば「志望理由書の書き方」は出てきます。あとはその要素に自分の人生を当てはめるだけで、それっぽい志望理由書はできあがります。
「①過去のきっかけ」「②現在の私」「③未来の夢」の3要素と「④その大学を志望する理由」「⑤その研究テーマ」の2要素に合わせて、5要素を満たしているものというやつです。これに加えて、「⑥社会課題」「⑦社会課題の解決策」を加えるとよりよくなります。
しかしその結果、機内食みたいな味の志望理由書が量産されました。どれも似たりよったりの模範解答的な志望理由書です。そういうのがたくさん送られてくる大学の立場に立てば、それが効果的なやり方ではないことは自明です。
相手はグルメです。しかも毎年、何百食も食べさせられているグルメです。機内食を出された瞬間に、箸を置きます。
機内食みたいな志望理由書の特徴は、要素は満たせているけど、主役がはっきりしない志望理由書です。読み手の印象に残らないんですよね。パッとしないから、その他大勢に埋没してしまいます。
総合型選抜なんて目立った者勝ちの入試なのに、なぜ目立たない方へ行こうとするのか、意味がわかりません。
なんとしても合格したいならみんなと同じことをしたって意味がありませんよね。
だからこそまずは、誰よりも目立つものをつくろうという野心が必要です。しかし、それは奇を衒ったものをつくれという意味ではありません。その試みはたいてい悪目立ちに終わり、評価されません。
そうではなく、嘘も脚色もせずに等身大の自分のままを書きましょう。機内食が不味いのは、素材の味を殺して型に流し込むからです。あなたという素材の味で勝負する。それがいちばんいい合格です。
とはいえ、素材の味で勝負するというのは、魅力的でなくてもかまわないという意味ではありません。
ありのままでいながら魅力的というのは、とても難しいことです。人によっては、そんなことは理想に過ぎないと云うかもしれません。しかし、9年間の指導経験で、私は生徒に嘘をつかせたことは一度もありません。「嘘はつくな、面接でかならずバレるから」といつも云います。
嘘をつかなくても、あなたには魅力的な部分がたくさんあります。こう云うと、たいていの生徒は、「え?ぼくは成績が悪くて……偏差値が高くなくて……」みたいな話を始めてしまいます。
そこがズレています。たしかにそういうものさしで測る入試はあります。一般入試はそういう基準です。しかし総合型選抜は、あなたが受験できているならばその時点でもう、一定認められているということになります。なぜなら、それぞれの大学には〈出願資格〉なるものを設けているからです。
出願資格を満たしているならば、大学に提出しないどっかの塾の模試で測られた数値とは全く別の軸で合否を測られると考えるべきです。
測られてもいない基準で戦おうとしないことが大切です。頭のよさで測られているわけじゃないんだから、難しい言葉をわざわざ使おうとしなくていいし、聞かれてもいない得意科目をアピールする必要もありません。
そういう小手先の気に入られようとするテクニックでは、人の心は動きません。ありのままであることが重要です。
例えば、楽器を演奏できるというのはとても知的なことです。楽器は、毎日演奏の練習をしなければ上達しないし、一日でも練習を怠ると元の感覚を取り戻すのに3日もかかってしまうと言われています。ひとつの楽器の音の出し方と毎日徹底的に向き合って、そこに魂を込めるというのは、誰にでもできることではありません。そこには、弛まぬ努力と鍛錬と技術が必要です。とても知的です。
あるいは、誰かが落ち込んでいると元気づけたり励ましたりする人がいます。優しい人です。顔色をみるだけじゃなく、トラブルを想像したり、相手の立場に立ったり、気持ちを慮ったりするのは、とても知的です。
もしくは、本が読めると云うのも知的なことです。SNSやショート動画全盛の時代に自分から能動的に文章を探して読める人というのは、それだけほかの人が持たない好奇心を持っています。そして、長い時間集中して、ひとつの概念を面白がることができるのは、とても知的です。
他にも、自分の失敗や弱点や苦手を克服した人も知的です。自分の至らなさを知るためには、メタ認知能力が必要ですし、メタ認知ができても、自分の弱点を受け入れる精神的な強さも必要です。客観的に自分をとらえて、それを真摯に受け入れるというのは大人でもできるものではありません。とても知的です。
このようにあなたや私が考えている以上に、この世界には、多様で多彩な知的さのものさしがあります。
だからこそ、ふだん測られている視線を取っ払って自然になってみてください。ありのままのあなたの中から、志望理由を考えます。これが本質的な志望理由書の書き方です。
あなたらしく、あなたが大学で学びたい理由を伝える。正解はひとつじゃありません。どんなカタチであったってそれを読んで教授の心を動かせるならそれは正解です。
というわけで、志望理由書を型通りに書いても機内食みたいな味しかしないのです。それは型に囚われているからです。たしかに、型は大切です。最初につくる段階ではむしろ型通りにやった方がいい。しかし、型通りのものができたら、そこからイイタイコトを目立たせるための引き算が必要です。なぜなら、志望理由書にはたいてい字数制限があるからです。
指定字数が2000字も3000字も書けるなら、全部の要素を入れてもゆとりがありますが、400字の場合、一文一文に魂をかけて言葉を選ばなければなりません。
言葉選びの美学が必要です。言葉選びの美学とは、よりわかりやすく、より伝わりやすく、より本質的に、より心に届きやすく、より印象に残りやすい言葉選びの基準のことです。
そのためには、あなたのなかで言葉の良し悪しの基準がなければなりません。例えば、「興味」よりも「関心」という言葉にした方が学術機関に送る文章として相応しい、とか。
こういうことは、日頃から本を読んだり、たくさんのセンスのいい言葉に触れるしかありません。
リズム的に読みやすい言葉の順番だったり、視認性が高くデザイン的に読みやすかったり、言葉選びがカッコよかったり、こういうことについて意識を向けます。
逆に「創る」「夢」「熱望」など、ありきたりでセンスがない言葉選びになっていないか。それらを踏まえてその上で、大学の設問にしっかり答えられていることが求められます。
因みに聞かれてないことを答えるのは、それがどんなにスゴくても受験では絶対NGです。
大学、学部や学科の数だけ、あなたの知的さを測る基準があります。
日本には大学が約800校あります。全国の学部総数は2800あって、学科専攻などの募集単位に分解すると5500あります。言い換えると、5500通りの正解があることになります。
これが、総合型選抜はマッチング入試と云われる所以です。
あなたらしくありのまま、大学ごとに異なる志望理由を考える。なかなかむずかしいけど、こういう能力は、就活はもちろん、銀行や金融公庫からお金を借りるとき(起業や資金調達をするとき)にも求められます。
まずは偏差値という基準の外側で、自分を客観的に分析してみてください。あなたという素材は、どんな味がしますか?
これを考えるのが、志望理由書の第一歩です。