セリフの裏に本音を仕込む 二重構造のセリフの作り方

セリフの裏に本音を仕込む 二重構造のセリフの作り方

記事
小説
対立シーンや別れの場面を書いていて、セリフは感情的に書けているはずなのに、なぜか読者の心に届かない。そんなときは、セリフが「言いたいことをそのまま言っている」状態になっていることが多いようです。キャラクターが胸の内をそのまま口にしてしまうと、読者はセリフを読んだ時点で意味を受け取り終えてしまい、その先を想像する余地がなくなります。

読者の心に残るセリフは、口に出された言葉と、その裏にある言葉にならなかった本音が、同時に存在しています。これを私は二重構造のセリフと呼んでいます。表の意味と裏の本音が重なっていて、読者がその二つの間に気づいたとき、セリフが急に深くなるのです。

たとえば、規律を重んじる騎士が、規則を破って進んでいく幼馴染に向かって「あなたのそのやり方が、いつか誰かを壊す。……私はそれを、許せない」と言ったとします。表の意味は、相手のやり方への批判です。けれど裏には、「本当は自分も、そんなふうに自由に生きてみたかった」という、ずっと押し殺してきた羨望が隠れているかもしれません。許せないと言いながら、実際に許せていないのは、自由になれなかった自分自身なのです。この二つが同時に響くことで、短いセリフが、そのキャラクターの人生ごと伝えてくるようになります。

二重構造を作るために、最初にやるべきことは、セリフを書く前に本音を決めることです。キャラクターが本当は何を感じていて、何を言いたいのかを、先に言語化しておきます。そのうえで、その本音を「そのまま言えない理由」を考えます。この理由こそが、キャラクターの性格の核にあたる部分です。

ここでエニアグラムが役に立ちます。タイプごとに、根源的な欲求と恐れが決まっているので、本音がなぜ言えないのかを、一貫した理由で説明できるのです。たとえばタイプ1なら、「感情的になるのは正しくない」という内なる規範が、本音の言葉をせき止めます。タイプ3なら、「弱みを見せれば価値を失う」という恐れが、素直な言葉を飲み込ませます。タイプ9なら、「波風を立てたくない」という思いが、本当に言いたいことを曖昧な言葉に変えてしまいます。本音が言えない理由が、そのキャラクターの根っこにつながっていると、言えなかったことそのものが、人物像を語り始めます。

次に、本音を直接言わせない代わりに、別の言葉に置き換えます。置き換えの方法には、いくつかの型があると私は考えています。

ひとつは、感情を行動や事柄に言い換える型です。「寂しい」と言えないキャラクターが、「ちゃんと食べているのか」と相手の食事を気にかける。心配や愛情を、実務的な質問に変えて伝える形です。

もうひとつは、攻撃に変える型です。「置いていかれるのが怖い」というタイプのキャラクターが、「どうせ、あなたには私の気持ちなんて分からない」と突き放す。本当は分かってほしいのに、先に相手を遠ざけてしまう形です。

三つめは、話題をずらす型です。核心に触れそうになった瞬間に、「それより、明日の準備は済んだの」と別の話に切り替える。逃げることで、触れたくない本音の存在を逆に浮かび上がらせます。

四つめは、沈黙や言いかけてやめる型です。「本当は私も……いえ、何でもない」のように、言葉が途中で途切れる形です。言わなかったことが、言ったことよりも雄弁になる瞬間です。

こうした置き換えを使うとき、気をつけたいのは、裏の本音を地の文で説明しすぎないことです。セリフの直後に「彼女は本当は寂しかったのだ」と書いてしまうと、二重構造の面白さが一気に消えてしまいます。読者が自分で気づく余白を残しておくほうが、本音は強く届きます。その代わり、視線を逸らす、手が止まる、声がわずかに震えるといった、小さな仕草や間を添えておくと、読者が本音に気づくための手がかりになります。

また、二重構造は、全部のセリフに使う必要はありません。すべてのセリフが裏を持っていると、読者は疲れてしまいますし、キャラクターが何を考えているのか分からなくなってしまいます。普段は素直に話すキャラクターが、決定的な場面でだけ本音を隠す。あるいは、いつも本音を隠してきたキャラクターが、一度だけ裏のない言葉を口にする。そうした落差があって初めて、二重構造のセリフは強い効果を持つと私は感じています。

最後に、書き上げたセリフを読み返すとき、表の意味だけを読んでも成立するか、裏の本音を知ってから読み直すとまったく違って聞こえるか、という二つの視点で確認してみてください。二度目に読んだときに、セリフの印象が変わるなら、そのセリフは二重構造として機能しています。

セリフは、言葉にしたことだけでできているわけではありません。言葉にできなかったことが、その輪郭をそっと決めています。次にセリフを書くときは、キャラクターが何を言うかの前に、何を言えないのかを、先に聞いてみてください。


サービス数100万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す