中小企業経営のための情報発信ブログ305:イノベーションの本質

記事
ビジネス・マーケティング
今日もブログをご覧いただきありがとうございます。
以前、名和高司著「資本主義の先を予言した史上最高の経済学者 シュンペーター」という本を紹介しました。今、「イノベーションの父」と称されるシュンペーター氏に関心が寄せられています。今から100年近く前にイノベーションという概念を初めて使ったのがシュンペーター氏です。ただ、シュンペーター氏は初期の書「経済発展の理論」の中では「新結合(New Combination)」と言う言葉を使っています。
1.いまなぜ、シュンペーターなのか?
 いま、企業経営において、「パーパス(企業の存在意義)」に基軸をおいた「パーパス経営」が注目されています。また、その流れで、マイケル・ポーター教授が提唱した「CSV(経済価値と社会価値、2つの共通価値の創造)」が再び注目を集めています。気候危機や格差拡大など深刻な課題が山積みする中、社会意識の高い世代が台頭し、経済価値を創造すると同時に、社会課題を解決して社会価値も高めるビジネスとして、このような考え方に基づく経営が共感を得ているのではないかと思えます。社会価値だけでなく、経済価値を創出しないとビジネスは持続可能ではありません。
 ビジネスは、ゴーイングコンサーンで、連綿と成長・発展しながら続いていかなければならないのです。そこで必要になるのがイノベーションです。そこでいま「イノベーションの父」と称されるシュンペーターに関心が向けられているのです。
2.イノベーションへの誤解
 持続的成長を実現するために、イノベーションが必要だと考え、懸命に努力している経営者やビジネスパーソンはいます。しかし、その多くはイノベーションの本質を誤解し、徒労に終わっています。
 日本人にはイノベーションに対する5つの誤謬があると言われています。
Ⅰ:イノベーションを外発的なものとしていること・・・イノベーションは内発的なもの。企業が自ら変革していくことで、外部経済を変えられるのです。つまり、イノベーションは自分たちで作り出す者出会って、外部の環境変化に影響されるものではありません。
Ⅱ:シュンペーターの説く「新結合」を新しいもの同士の結合と捉えている・・・シュンペーターの「新結合」は、新しいものの結合ではなく異なるもの同士の新しい結合です。異なるものは既存のものでもかまいません。イノベーションはmake(新規)でもRemake(模倣)でもなくRemix(編集)によって起きるのです。
Ⅲ:技術革新と思い込んでいる・・・イノベーションは、「技術革新」ではなく「市場革新」です。技術革新はそのための道具の1つかも知れませんが、必要条件ではありません。新しい技術をいくら生んでも、それが社会実装し、スケールして市場を革新できない限り意味はありません。
Ⅳ:イノベーションを起こす方法として「両利きの経営」を盲信していること・・・イノベーションは「創造的破壊」です。既存の構造を「破壊」し、そこに埋められている資産を取り出して、新しく「組み替える」ことによって創造が生まれます。知の深化と知の探索を別々に行う「両利きの経営」がイノベーションを起こすというのは誤解です。いまあるものをそのまま深掘りし、ないものを外に探索する「両利きの経営」では、何も破壊して折らず、新陳代謝は起きないのです。
Ⅴ:無から有を生み出す「0→1」だけをイノベーションと考えている・・・イノベーションは「1→10」「10→100」にすることです。0から1を生み出しても、1のままではゴミと同じです。1を10,更に100にして新しい市場を創造しなければ何の意味もありません。シュンペーターは「アイデアだけではゴミである」と言っています。
3.イノベーションに必要なこと
 日本は、欧米や中国に比べマネタイズスケールが苦手です。
 「1→10」は「マネタイズ(社会実装)」を表わします。これは顧客がお金を払って事業を回るようにすることで、言い換えれば「市場を作る」ということです。日本企業は「モノを作る」ことばかり考えて、「市場を作る」という認識が低いと言えます。品質のいい良いものを作っても売れなければ意味がありません。モノを作る前に、どうやって市場を作るのか、ターゲットとニーズをはっきりと捉まえて売れるモノを作らなければならないのです。
 「10→100」は「スケール(市場拡大)」を表わします。日本の中で小さな市場を作ってもイノベーションとは言えません。世の中を変えることがイノベーションなので、世界に市場を拡大しなければいけません。優れた商品やサービスであれば、周囲がそれを真似して「群生(エコシステム)」が生まれ、それによって市場が拡大され「標準化(コモディティー化)」が起こります。
 真似されることを恐れてはいけません。その中で市場のデファクトスタンダードを握ることが重要です。iPhoneも真似されて類似品だらけの巨大市場の中でデファクトスタンダードを勝ち取っています。誰にも真似されないニッチなものを作ってもイノベーションではないのです。
4.イノベーションと両利きの経営
 先ほども書きましたが、「両利きの経営」では創造的破壊を伴わないため、新陳代謝は起こりません。このことは、「両利きの経営」が間違っているということではありません。「両利きの経営」も正しく行なえばうまくいきます。
 今言われている「両利きの経営」では、「知の深化」は自分の強みをそのまま深掘りすればよく、「知の探索」は新しいものを外から持ってくれば良いと安直に考えているところに問題があります。
 「自分の強み」と「新しいもの」を右手と左手で別々に動かそうとするところに問題があるのです。「自分の強み」と「新しいもの」とをうまく組み合わせなければイノベーションには結びつかないのです。自分の強みを新しいものに応用するということです。
 いまの強みをまっすぐ深掘りしても市場がないのであれば、安直に新しいものを探してくっつけるのではなく、強みをずらしながら掘ることで自社ならではの新しい市場を作ることができるのです。
 日本には、こうした「ずらし」によってイノベーションを起こす経営モデルがいくつかあります。
Ⅰ:松下電工の丹羽正治氏が実践した「掘り抜き井戸」・・・井戸を掘って地下水脈まで到達すれば水は出続けるように、技術も深く掘り下げることで事業はより続いていく。ただ技術を深化するのではなく、掘り抜くことで他の水脈へと展開できる。
Ⅱ:日本電産の永守重信氏の「井戸掘り経営」・・・大抵のところは掘れば水が出るが、溜まった井戸水をくみ上げることができなければ新しい水は湧き出てこない。掘って水が出たら終わりではなく、くみ上げ続ける。経営の改革のためのアイデアもくみ上げ続けることが大切。強みをくみ続けることで新しい強みが湧き出てくる。
Ⅲ:日東電工の「三新活動」・・・既存の製品から「新製品開発」と「新用途開拓」の2つの方向に同時に取り組み、この2つの組み合わせから、「新需要創造」をする。自分の強みを徹底的に活かしながらイノベーションを起こすモデル。
前述のように、「イノベーションは0→1」という考え方は、シュンペーター氏が言うイノベーション、新結合ではありません。イノベーションというのは、新しい知・アイデアを生み出すことです。新しいアイデアがなければ、人も組織も変わることができません。シュンペーター氏によれば、「新しい知とは、常に『既存の知』と別の『既存の知』の『新しい組み合わせ(新結合)』で生まれる」のです。これは言われてみれば当たり前のことです。人は、全くゼロから新しいものを生み出すことは非常に難しいのです。今まで誰も尾井浮かばなかったような斬新のアイデアであっても、よく見てみれば、既にある何かと何かの組み合わせにしか過ぎないということが多いのです。
イノベーションの源泉である「新しい知」を生み出すためには、既存の知と既存の知の組み合わせ、つまり新結合が必要なのです。
シュンペーター氏の理論には、常に前を向き、停滞して折る現状を打破できる力があります。シュンペーター氏の理論が特に経営者に人気があり、現代も生き生きとしているのは、現代においての使える理論であり、単なる机上の理論ではないからです。
サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す