中小企業経営のための情報発信ブログ:306:こうして、社員はやる気を失っていく

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今日もブログをご覧いただきありがとうございます。
今日は、松岡保昌著「こうして社員は、やる気を失っていく」(日本実業出版社)という本を紹介します。著者の松岡氏は、モチベーションジャパンの代表取締役で、人の木元や心の動きを重視し心理面からアプローチする経営コンサルタントです。モチベーションややる気については過去にも書いています。社員のやる気やモチベーションは経営にとって重要な課題で、多くのモチベーション理論が展開されています。今日は、モチベーション理論については触れません。
1.社員のやる気は「職場の問題」
 仕事となると、やる気が湧かないという人も多いと思います。満員電車に揺られて出社するだけで疲れてしまいます。デレワークになっても、他のことに気を取られ、仕事に実が入らず、ついサボってしまいます。仕事は苦痛、楽しいなんて思えないというのが普通でしょう。やる気スイッチが入らないのは個人が悪いわけではありません。「やる気を出せ」と言っている上司が悪いわけでもありません。やる気が出ないのは個人の問題ではなく、組織の問題なのです。上司や周囲との関わり、会社の制度や処遇といった職場の問題でモチベーションが下がり、やる気が出なくなっているのです。
 松岡氏は、「生産性の高い仕事をする上で、社員の『やる気』が重要なことは誰の目からも明らかです。そのため、いかにして社員の『やる気』を高めるか、モチベーションを上げるための研究や試作は数多くの本でも語られています。しかし、その前に重要なのは、まずモチベーションを下げないということです」と言います。
 モチベーションを上げようとする前に、下げないようにすることが重要なのです。
 「やる気が出ないのは自分のせい」ではなく、やる気を下げる要因が組織や周りにあるのなら、自分で無理に上げようとするよりは、下げないようにする(下げる要因を排除する)方が気分的にも楽ですし、その方がやりやすいと思います。
2.モチベーションに関する会社の4つのステージ
 やる気が職場の問題なら、多くの人は、できることなら「やる気のある職場で働きたい」はずです。また、社員のやる気やモチベーションを上げたいと考えている経営者も多いはずです。しかし、それがなかなか難しく、手をこまねいているというのが現状でしょう。
 会社や組織は、モチベーションに関して、次の4つのステージのどれかにあります。
 Ⅰ:モチベーションを下げる要因ばかりの「明らかにマイナスの状態の会社
 Ⅱ:モチベーションを下げる要因を取り除こうとしている「マイナスからゼロに向かっている会社
 Ⅲ:モチベーションを上げるべく取り組んでいる「ゼロからプラスに向かっている会社
 Ⅳ:モチベーションが高い状態を維持するために工夫を重ねる「恒常的にプラスの状態の会社
 1や2、3の会社であれば、いかにマイナスの状態から脱し、ゼロ、更にゼロからマイナスに戻さずプラスへと進めていけるか、が大切です。この本では、モチベーションを下げてしまう要因とその改善策が丁寧にわかりやすく説明されています。
3.いつもピリピリしている会社に必要なのは「心理的安定性」
 心理的安定性については、何度か書いています。心理的安定性というのは、ハーバード大学の組織行動学者のエイミー・エドモンドソンが提唱した概念で「このチームは、他のメンバーが、自分が発言することを恥じたり、拒絶したり、罰を与えるようなことをしない確信が持て、退陣リスクを取るのに安全な場所であるとの信念がメンバー感で共有されw他状態」を指します。簡単に言えば、上司や同僚の反応を恥ずかしがったり怖がったりすることなく、自然体で自分を隠すことなくオープンにできる状態のことで、そのような穏やかな雰囲気がある職場は「心理的安定性」が高いと言えるのです。
 常に上司がピリピリして不機嫌で、言いたいことも言えないような職場、内緒の話が別の部署や上司にすぐに伝わってしまうような職場では、不安や不信感が募り、心理的安定性があるとは言えません。こうした職場ではモチベーションが上がるはずもなく、やる気が湧くことはありません。
4.社員がやる気を失っていく上司に共通する10の問題
 松岡氏は、「部下を信頼せずにすべて決めるのも、逆にすべて丸投げするのもダメ。重要なのは部下としっかり対話をすること。対話がなければ、部下のやる気を引き出すことはできない」と言います。ビジネスは人と人との関係、上司と部下との間にもより良い人間関係・信頼関係の構築が必要なことはいうまでもありません。そして、より良い人間関係・信頼関係の構築に欠かせないのがコミュニケーションです
 部下が仕事をしやすいように、つい手や口を出しすぎる上司がいます。失敗しないようにと事細かく指導し「この通りにやれば大丈夫」と部下に考える隙を与えない上司もいます。それでは、部下が成長することはできませんし、その前に部下がやる気を失ってしまいます。
 松岡氏が社員がやる気を失っていく上司に共通する問題として挙げるのは、次の10個です。その改善策も書かれています。
① 目を見て話さない。目を見て話せない(メンバーとまともに向き合わない上司)・・・改善策:コミュニケーションの基本、傾聴のスキルで信頼を築く
② 理由や背景を説明しない(「意味のない、無駄な仕事」と思わせる上司)・・・改善策:「ゼロベースシンキング(本質追求)」で仕事の本質を共有する
③ 一方通行の指示(双方向のコミュニケーションがとれない上司)・・・改善策:対話を重ね、信頼感や一体感を醸成する
④ コントロールできる部分を与えない(1~10まで指示する上司)・・・改善策:「内発的動機付け」を意識して、関わり方を変える
⑤ 話を聞かず結論を出す(頭ごなしに決めつける思い込み上司)・・・改善策:相手と自分、両方を尊重するコミュニケーションを取る
⑥ 意見も提案も受け付けない(「自分が絶対」のお山の大将上司)・・・改善策:1人の力の限界を知り、自分より優秀なメンバーを育てる
⑦ 言うことに一貫性がない(行き当たりばったり上司)・・・改善策:「シナリオ力」を身につけ、ブレない指示を出す
⑧ 感覚だけで評価する(結果を出しても評価されないと思わせる上司)・・・改善策:評価軸を明確にして、不合理な判断を極力排除する
⑨ 失敗を部下のせいにする(責任転嫁し、自己保身に走る上司)・・・改善策:プロセスを重視した「目標管理制度」メンバーをしっかり育成する
⑩ 部下の仕事を横取りする(いつまで経っても「自分が主役」上司)・・・改善策:部下の成熟度に応じたリーダーシップが必要
5.「組織が疲弊していく会社」に共通する15の問題
 松岡氏が、「組織が疲弊していく会社」に共通する問題として挙げるのが、つぎの15です。それぞれの改善策についても書いておきます。
① 個人が仕事を抱えすぎている(不平等で不満ばかりの組織)・・・改善策:情報・仕事の共有ができる「仕組み」をつくる
② 仕事を押しつけ合う(全社的視点、協働の意識がない組織)・・・改善策:当事者意識を高めるため、「関係の質」に注目する
③ 物事が決められない(コミュニケーション機能が不全の組織)・・・改善策:「当事者意識」を阻害するものを取り除く
④ 前例と成功体験から抜けられない(新しいものを生み出せない組織)・・・改善策:残すべきもの、変えるべきものを、徹底的に議論する
⑤ 「理念」が言葉だけ(細部に魂が入っていない組織)・・・改善策:「企業理念」を実現する「人事の仕組み」を導入する
⑥ 「挑戦」「改革」から手形の言葉ばかり(言葉と中身が一致推していない組織)・・・改善策:ダブルバインドをなくし、言行一致を徹底する
⑦ 社長がめちゃくちゃ忙しい(社員を導くリーダーが不在の組織)・・・改善策:社長の「視野」「視座」を共有する「フォロワー」を育てる
⑧ 管理職が逆ロールモデル(目指すべき人物が不在で不幸な組織)・・・改善策:ロールモデルとしての役職者を育成する仕組みをつくる
⑨ いつもピリピリしている(不機嫌、不安、不快がはびこっている組織)・・・改善策:脱・上位下達。「心理的安定性」を高める仕組みをつくる
⑩ マイナス要因の犯人捜しに執心(「性悪説」による不信感と不寛容な組織)・・・改善策:プラスに目を向ける文化の醸成で、健全な組織を取り戻す
⑪ よくわからない人事異動がある(「え、なんで?」不透明、不可解、不当な組織)・・・改善策:社員が主体的にキャリアを考える仕組みをつくる
⑫ 未だに長時間労働が美徳(時代の変化について行けない組織)・・・改善策:仕事の「付加価値」を評価して、「同調圧力」を排除する
⑬ 女性が出世しない(価値観が偏った不条理な組織)・・・改善策・多様性を受け入れ、変化しなければ、時代に取り残されると心得る
⑭ 子育て・介護で働きにくい(働きやすい制度の不足・不備がある組織)・・・;改善策:「事(タスク)」と「人(マインド)」の両輪のマネジメントを行なう
⑮ 長期的な展望を描けない(キャリア設計は不安・不明な組織)・・・改善策:「個人のキャリア」を支援する視点を持つ
これまでモチベーションややる気については、個人の問題と捉えられていたように思いますが、個人の問題ではなく組織の問題と捉えることができれば、組織改革を行ないながら社員のモチベーションややる気を高める仕組みを考えることができます。自社に、会社が疲弊する15の問題がないか、また、部下のやる気を妨げている上司の10の問題がないかをチェックしてみてください。
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