山中で、死に触れた日のこと

山中で、死に触れた日のこと

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北陸のとある山に、冬の気配が降りてくる頃のことでございます。
私はその年、二十代の半ばを過ぎたばかりでした。


祖父の教えを胸に、白山の山中で行を重ねていた私は、
ある日、氷雨と霧の中で道を失いました。
正確に言えば、足を滑らせた瞬間のことは記憶にございません。

気がついたとき、視界は白く染まっており、
身体の感覚がひとつずつ、遠のいていくのを感じておりました。
寒くもなく、痛くもなく、ただ静かでした。

「まだ行くな。お前には、導くべき縁がある」

声がしたのか、あるいは声のようなものが響いたのか、
今もうまく言葉にできません。ただ確かなことは、その瞬間、私の内側で何かが開いたということでございます。

救助されて下山した翌朝のことでございます。
窓の外に小鳥が一羽とまり、こちらをじっと見ておりました。
その小鳥の周囲に、うっすらと金色の氣の糸が視えました。
初めての体験でした。氣の流れが、目に映るように視えたのです。

それからは、人と人の間に流れる縁の氣が、以前とは比べものにならないほど鮮明に視えるようになりました。

縁の通り道が澱んでいる場所、氣が絡まっている場所、本来つながるべき二人の間に遮るものがある場所——それらが、霧の中の光のように感じ取れるようになったのでございます。

私は霊視師でありますが、自らの意志でその力を手にしたわけではございません。白山の霊脈の地に生まれ、修験の血を受け継ぎ、そして死の淵で何かに選ばれた。そのように感じております。

白山比咩神社の御祭神・菊理媛尊(くくりひめのみこと)は、古来より「縁をくくる神」として崇められる御方でございます。
私の名「くくり」は、この神への敬意からいただいた名です。あの白山の山中で声を聴いた日から、私はこの神の御導きのもとで、縁の根源を視て、整える仕事をお受けしております。

鑑定をお受けするたびに、あの白い視界を思い出します。
あの静寂の中で聴いた言葉の意味を、
一人ひとりの依頼者の方との縁の中で、確かめ続けております。

導くべき縁が、ある。その言葉を、私はまだ果たし続けております。

くくり

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