「ウチは普通の車だから大丈夫」が落とし穴に…!?
自動車窃盗団のヤバすぎる手口を解剖する
ある朝起きてみると、車庫から愛車が忽然と消えている――日本に暮らしていると、「車の盗難」はどこか別の世界の話のように聞こえるかもしれない。
警察庁の発表によれば、2021年の自動車盗難認知件数は5182件。
年々減少傾向にあるとはいえ、1日あたり14台もの車両が盗まれていることになる。
車を盗まれるリスクは、思いのほか身近に潜んでいるものなのだ。
そうは言っても、無数に車が存在するなか、自分の車が狙われることなどあるのだろうか。
自動車盗難の実態や、適切な盗難対策について情報を発信する「日本カーセキュリティ協会」の代表であり、自らカーセキュリティショップ「A2M」を経営する攪上智久(かくあげともひさ)氏に話を聞いた。
※本記事は自動車盗難の実情を紹介し、防犯意識の向上に寄与することを目的とするものであり、犯罪の助長を意図するものではありません。
「普通の車」も盗難のターゲットに
まず、盗難被害に遭いやすい車とはどのようなものだろうか。
日本損害保険協会が毎年発表している「自動車盗難事故実態調査結果」 においては、例年「ランドクルーザー」や「アルファード」、「ハイエース」といった車種が上位に並び、その傾向は今年も変わらない。
「高級車かどうか、というよりも、海外で高値で取り引きされる車が狙われますね。
ランクルやレクサスといった車種のほかにも、価格が急騰している90年代のスポーツカーは被害に遭いやすいです」
さらに、90年代に限らず、近年は生産が終了したスポーツカーがことごとく高値をつけている。
軽自動車であっても、たとえばオープンカーのS660などは中古市場で300万円をつけることもあり、セキュリティ対策を行うオーナーも増えているという。
一方で、普及価格帯の「普通の車」であれば盗まれる心配はないのかといえば、必ずしもそうではない。
先の調査において「プリウス」は上位の常連だし、2019年には「アクア」や「ヴェゼル」など200万円~300万円クラスの車種もトップ10にランクインしていた。
「プリウスはとにかくたくさん走っているので、何か悪いことしようと思ったらプリウスに乗っておけば目立たないですからね。あとは、ハイブリッドで音が出ないのもメリットになっているんだと思います」
犯行用の車両として、流通量の多い車種も狙われているわけである。
さらに、盗まれる車種には地域による傾向もあるらしい。
盗難件数トップの県は……
「盗難件数はここ数年茨城がずっとトップでした。やはり海が近くて輸出しやすく、『ヤード』と呼ばれる窃盗団の基地が多いのが要因だと考えられます。
そうした地域ではランクルやスポーツカーのような車のほか、ヴェゼルやCH-Rといった車種も被害に遭っています」
都道府県別の盗難認知件数を見ると、2016年から2020年までは5年連続で茨城県がトップ。2021年には千葉県が1位 になっており、愛知県や大阪府も上位の常連となっている。
なお、日本損害保険協会の資料によれば、2021年中の自動車盗難被害に対して支払われた保険金額の平均は236.9万円。
保険金額は新車価格よりも下がることが多いとはいえ、必ずしも高級車ばかりが盗まれていないことを示している。
狙われやすい車種はもちろんあるが、「ウチは普通の車だから大丈夫」というわけにもいかないのである。
盗難完了までの時間はわずか「2分」
時代が進むにつれ、車に搭載されるセキュリティの技術は向上しているが、それに合わせて盗難の手口も巧妙化し、盗むまでの時間も大幅に短縮されているという。
「もうずっと純正セキュリティと盗難の手口はイタチごっこを繰り返しています。
4、5年前はリレーアタックっていうのが主流だったんですけど、今はCANインベーダーというのが主流になってきていますね」
リレーアタックとは、「スマートキー」の登場から間もなく生まれた手口であり、キーから発される微弱な電波を中継器により増幅し、ある程度離れた場所でもロックを解除してしまう。
ちなみにこの手口に対しては、キーをスチール缶やアルミホイルに包むなどして電波を遮断することで対策が可能だ。
最近の主流とされるCANインベーダーは、簡単にいえば「車両の制御システムへのハッキング」だ。フロントバンパーなどにわずかな隙間をつくり、電子回路に専用の装置をつないでロック制御を乗っ取ってしまう。
「CANインベーダーは鍵がどこにあろうと関係なく、フロントバンパーの片側だけ軽く外せば装置をつなげるので、2分かからず盗めてしまいます。
5年くらい前はノートパソコンをつないで作業する姿が監視カメラに残されていましたが、今はモバイルバッテリーのような形状のツールにプログラムが組み込まれていて、配線をつないだ途端にロックが解除されるようになっています」
バンバーを外して配線をつなぐ、と聞くと大がかりな作業に思えるが、窃盗グループは高値で取り引きされる車種の構造を知り尽くしており、ほとんどルーティンワークのように盗めてしまうようだ。
「完全に弱点を知られちゃってますよね。構造を調べるために、もしかすると一度購入して、バラしているのかもしれません。
昔聞いた話だと、レンタカーを借りてきて、一度バラして調べて、それから元に戻して返す、といったこともあったみたいです」
その車種の構造を把握し、最短の盗み方を形式化してしまえば、同じ方法を使い回していけることになる。
「近くのエリアで同じ車種が3台くらいずつ盗まれる、ということも多いですね。
こういう傾向を見ると、最近は窃盗犯のなかでも『自分はランクルしかやらない』といった専門化が進んでいるような印象があります」
大金を得られる車種に絞って手口を効率化・高度化させているのだとしたら、オーナーにとって恐ろしい話である。
盗まれた車は戻ってくるのか?
盗難された車両は、やはり海外に密輸されるケースがほとんどであり、オーナーの元に返ってくる望みは極めて薄い。
攪上氏は「自動車盗難情報局」というサイトやTwitter上で、盗難被害に遭った車両の情報を拡散し、目撃情報などを募っているが、発見された例は稀だという。
「今まで見つかった車は10台ないかもしれません。
足に使う車を含めればもうちょっと見つかってますけど、ランクルとかスポーツカーなんかは5台見つかったかどうか、っていうところですね。
やはり一度盗まれると、見つかる確率は非常に少ないです」
これまで見つかった車両は、盗難車両がコインパーキングなどに放置されているのを発見されるパターンが多いようだ。
「車両にGPSが付いている場合、ヤードまで行って追跡されると一網打尽になるっていうことで、それを避けるために何日かコインパーキングに置いておくこともあるらしいですね。
あとは、コロナ禍になってからはとくに、船が予定通り来ないなどの理由で車がヤードに入りきらず、コインパーキングなどに停めておくこともあるのかもしれません」
現在ではTwitterなどの情報拡散ツールが普及したことで、被害に遭った車両が手の届かなくなる前に発見できる可能性は多少なり増えているのかもしれない。
しかしそれでも、確率としてはかなり低いことに変わりはない。
「盗難に遭って急いで警察を呼んだら、自転車で警察が来たことにショックを受けたという人もいます。
被害者としては一大事ですが、その警察側はおそらく見つからないという前提で、緊急性がないと判断したんでしょう。
そういう温度差に愕然として、『盗難対策は自分でやらなければ』と考える方も多いですね」
盗難車両が国内で流通している可能性も
上述のように、盗難車両は基本的に海外へと行方を眩ませてしまう。
しかしなかには、日本でそのまま別の車検証を取得し、流通させているケースもあるのだという。なぜそのようなことが可能なのか。
「一昨年くらいに、一度盗難に遭ったレクサスのLX570が車体番号を打ち替えて日本で普通に売られていた、という事件がありました。
もちろん、すでに国内で登録されている番号は使えないわけですが、その車を盗んだグループは以前マレーシアに輸出されたLXの車体番号を使ったんです。
国外に出ている番号を打ち込んで、『この車は1回マレーシアから戻したんですよ』と日本の政府に申告すると、ちゃんと日本の車検証が出てきてしまったんですね」
窃盗グループはあらかじめ国外に出ているLXの車体番号を把握しており、それを盗んだ車に打ち込み、虚偽の再輸入申請を行ったのだ。
「なぜそれが発覚したのかといえば、一般の個人からそのLXを買い取った中古車ディーラーが、たまたまそれをマレーシアに送ろうとしたんですね。
その際マレーシア政府から『その車体番号のLXはすでにマレーシアにある』と言われて、そこでようやくおかしいことに気がついたんです」
つまり、たまたま中古車ディーラーがマレーシアに輸出しようとしたために盗難車であることが発覚したが、日本でそのまま流通している分にはバレることがなかったのだ。
車は「盗まれたら戻ってこない」と言われるが、そこには窃盗グループの間で流通ルートや偽装工作の手法が確立されていることが背景にあると考えられる。
窃盗グループのヤバすぎる手口
窃盗グループが犯行に及ぶ際には、やはり入念な下調べが行われる。
高額車種ほど、狙いを定めた車両への執着も強くなるようだ。
「何時から何時までこの駐車場にあるとか、家族は何時頃出かけて何時頃帰ってくるかまで全部調べているでしょうね。
シャッター付きの車庫から盗まれるケースもあります。
彼らからすると、車の鍵を開けるよりもシャッターを開ける方がよほど簡単なのだと思います。
あとは、内側に入ってしまえば誰からも見られないので、作業がしやすいのもあるんでしょうね」
窃盗グループによる下調べの方法もさまざまだ。
以前には「受注方式」で盗難に及ぶグループの例もあったらしい。
「10年以上前ですけど、窃盗団が千葉のビジネスホテルに入って、近所で目立たない車を1台盗んで、それで近隣を回りながら車のナビに『ここに何の車種がある』っていうのを地点登録していくんです。
それで注文が入る度に、車でそこに向かって盗んでいく、というのを繰り返していた事件がありました」
さらに、しばしば目にする「ある光景」も盗難の前兆である可能性があるようだ。
「この車を売ってくださいという形で、名刺なんかをワイパーやドアの隙間に挟んでいったり、なかには自宅に直接訪問したりというのもあります。
そうやって車への注意の向け方とか、在宅状況とかを見ているわけです。
盗むヤツが直接来るわけない、と思っちゃうんですけど、そういう『いかにも』っていうケースは実際にありますね」
もちろん、なかにはまともな業者もいるというが、車両に名刺やチラシが挟まれていたらすぐに回収し、注意を向けておくことが必要だ。
「自分はこの車にいつも注目しているんだ、というのをアピールすることが大切です。この車はまずいかな、と思わせることができるかもしれませんね」
盗難を防止するうえでは、窃盗犯に対してなるべく多くの「障壁」を作ることが重要だ。とはいえもちろん、精神面でのアピールだけでは対策として心許ない。
それでは、十全な盗難対策のためにはどのような方法が有効なのだろう。後編では引き続き、攪上氏の解説をもとに具体的な対策方法を紹介していく。
ハンドル・タイヤロックでも安心はできない!? カーセキュリティショップが伝えたい本当に意味のある“自動車盗難対策”とは