体育館にボールの音が響く。
エースがスリーポイントを沈めるたび、
仲間が「さすがだ」と声を漏らす。
僕はその横で、
外れても外れてもシュートを繰り返していた。
「いつか、あいつに追いつく」
そうつぶやきながら、黙々とリングを見つめていた。
地区大会の準決勝。
エースが足を押さえて倒れ込む。
笛が鳴り、会場がざわついた。
顧問の先生はしばらくその姿を見つめ、
やがて視線をこちらに向けた。
「健太、いけ!」
胸が跳ねた。
夢に見た瞬間が、ついに訪れた。
センターラインに立つと、ベンチから仲間の声が飛んだ。
「健太、頼むぞ!」
観客席の友人たちも立ち上がる。
「健太ー!」
肩を貸されながら下がっていく
エースの背中を見送り、深く息を吸う。
光と視線のすべてが、自分に注がれていた。
コートに立つと、相手のディフェンスが迫る。
最初のパスを落とし、ため息が広がった。
だが「ドンマイ!」という声に背を押され、
もう一度前へ出る。
補欠として積み上げた時間が、
少しずつ体を動かしていった。
残り数秒、同点。
ボールが健太に回る。
「健太!」
ベンチ、仲間、観客席。
名前を呼ぶ声が重なる。
リングを睨む。
あの日々が蘇る。
何度外しても諦めなかった練習。
顧問の先生の頷き。
「今しかない」──心が叫んだ。
放ったボールは弧を描き、ネットを揺らした。
歓声が爆発し、仲間が駆け寄って肩を叩いた。
年月が経ち、大人になった今。
迷うとき、あの日の光景が心に浮かぶ。
「補欠でも、必ず出番は来る。
その日のために積み重ねた時間が、未来を支えてくれる」
運命とは、人との出会いと積み重ねの結晶。
あの日の一投が、今も僕を立たせている。