ENOMARUAL 第5回:なぜ「隠す」と関係は崩壊するのか? 〜アッシリア・ヒッタイトの教訓と情報の経済学〜

ENOMARUAL 第5回:なぜ「隠す」と関係は崩壊するのか? 〜アッシリア・ヒッタイトの教訓と情報の経済学〜

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学び
「相手に嫌われたくないから、自分のダメな部分は隠して少し盛ったプロフィールを伝えてしまう」
「連絡の頻度や価値観のズレにモヤモヤしているのに、『まあそのうち分かってくれるだろう』と本音を飲み込んでやり過ごしてしまう」

あなたも、新しい関係のスタート地点でそんな小さな猫を被ったり、違和感を放置したりした経験はないでしょうか? 実はこの「最初のちょっとした隠し事やズレ」こそが、のちに取り返しのつかない大きなすれ違いを生む元凶になります。

1. 古代オリエントの乱立サバイバル:アッシリアとヒッタイトの教訓
前回の古代エジプト(アメンとアトンの宗教対立)の時代から、およそ時代は下り、紀元前2000年紀から前1000年頃のメソポタミアおよび周辺地域(中東から地中海東岸あたりに広がる「オリエント世界」)へ目を向けてみましょう。

この頃のオリエントは、ひとつの巨大な帝国がすべてを支配していたわけではなく、無数の小さな都市国家や民族が覇権を争い合う、まさに「国家乱立のサバイバル状態」でした。その激しい生存競争の中で、個性豊かなプレイヤーたちが次々と現れます。

ヒッタイト: 当時は門外不出の超ハイテクだった「鉄の製法」という秘密の情報を独占し、圧倒的な優位性に胡坐をかいた国家。

アッシリア: 圧倒的な暴力と恐怖政治(見せしめの力)で、周囲を無理やりねじ伏せて領土を広げようとした国家。

フェニキア: 土地の狭さを逆手に取り、「陸がダメなら海へ」と地中海で交易ネットワークを築き、のちに世界中の文字のルーツ(アルファベット)を生み出した海の商売人。

リュディア: 世界で初めて「貨幣(コイン)」を発明し、物々交換の摩擦をなくして経済的繁栄を手に入れた国家。

ペルシア(アケメネス朝): アッシリアの恐怖支配の失敗を反省し、異文化や宗教に寛容な統治とインフラ(王の道)でオリエントを初めて完全統一した大帝国。

しかし、激動の歴史において彼らはどうなったか。ヒッタイトは「鉄」という強力な優位性を持ちながらも、一度外部から深刻な環境激変(気候変動や「海の民」と呼ばれる勢力の侵攻)という強烈な負荷がかかった際、情報の隠蔽や独占による「脆い優位性」を維持できず、生存競争の波にのまれて歴史の表舞台から姿を消しました。アッシリアもまた、暴力で無理やり繋ぎ止めた関係が外部負荷に耐えきれず、反発の連鎖によって崩壊しました。

※歴史の雑学:
ヒッタイトの歴史で有名な王の一人のムルシリ2世という人物
彼は国内で大流行した疫病に直面した際、「なぜこんなに国が苦しいのか」と悩み、神々に対して「先代の王(自分の父親)が神への誓いを破ったから我が国が怒られているようです。神様、どうかお許しください…!」と、公式の記録にびっしりと神への謝罪や泣き言、許しを請う文言を書き残しています。
最先端技術と裏腹に保身まみれだったようですね。


2. なぜ「情報の非対称性」は脆いのか
ここに隠されているのは、「情報の非対称性(相手との間にある不透明な情報格差)を悪用し、虚飾や情報の囲い込みによって築いた関係は、平時は良くても、関係に負荷がかかった瞬間に脆くも崩壊する」という冷徹な歴史の鉄則です。

歴史を振り返れば、圧倒的な技術力を持ちながらも、その価値を独占・隠蔽し、対外的な「見せかけの力」に頼りすぎた国家は、信頼という基盤を失い、自滅への道を歩みました。つまり、技術や資質そのものが問題だったのではなく、その情報の扱い方と、それに依存した脆い「かじ取り」こそが敗因だったのです。

3. 現代の人間関係における「経済合理性のエラー」
では、この国家レベルの壮大なバグは、現代を生きる私たちの恋愛や人間関係において、具体的にどのような「経済合理性のエラー」として現れているのでしょうか?

私たちはつい、相手をコントロールするために情報を伏せたり、過剰な演出で自分を大きく見せようとしたりします。しかし、それは同時に、相手の中に「疑心」という名のコストを蓄積させていることに他なりません。

情報の非対称性は、やがてプレイヤーの質を劣化させ(粗悪化を招き)、長期的な信頼関係という利益を食いつぶしていきます。「はったり」や「非公開」で短期的な優位を築くことはできても、トラブルという負荷がかかった瞬間に、その関係は崩壊します。

次の章では、この歴史的エラーを経済学(情報の経済学)のレンズで完全に解剖します。なぜ「健全な透明性」こそが、現代の人間関係において最強の生存戦略となるのか。私たちが無意識にドブに捨てている「莫大な信頼のコスト」の正体をあぶり出していきます。
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