~そっと開かれたカードたち~
しとしとと降り続いていた雨がようやく上がり、もふ庵の庭先には、雨粒をまとった紫陽花が静かに揺れていた。
ぽんず王子は、まかない番として台所で湯気を見守り中。
ゆず姫は、窓辺でしっとり毛づくろい中。時折ガラス越しに、通りすがる小鳥たちを目で追っている。
そして、もふにゃんは……
朝の光を背に受けながら、カードをそっとひと束、清めの香に包んでいた。
「今日は……もふ庵にとって、大切な一日になるにゃ」
昨日、フクロウのココさんが静かに語ってくれたあの言葉が、まだ胸の奥に残っていた。
──誰かが来るにゃ。
そのカードは、運命を映す鏡になるにゃ。
と、そのとき。
「……こんにちは。あの……こちらで、占いを……」
ふわりと扉が開き、
ひとりの女性が、緊張した面持ちでもふ庵に足を踏み入れた。
もふにゃんは、にこやかにうなずくと、静かに座布団をすすめ、お茶を差し出した。
ゆず姫は、お客様のスカートの裾に興味津々で、こっそり顔を突っ込もうとしたが、ぽんず王子に「だめにゃ」と前足でそっと制され、しぶしぶ隣に座り込んだ。
ぽんずは、なぜか真剣な表情でカードの箱を見つめている。まかないの湯気チェックは、いつのまにか忘れていた。
「お名前は……ティナさん、にゃ? ようこそ、もふ庵へ」
彼女の相談は、「これから、私はどこへ向かえばいいのか、わからなくなってしまって……」というものだった。
静かにうなずいたもふにゃんは、カードを一枚、ゆっくりと引き、そっとテーブルの上に置いた。
──現れたのは、“正義”のカード。
その瞬間、もふ庵に、すうっと風が吹き込んだ気がした。
紫陽花が、小さく揺れた。
ティナさんは、カードを見つめたまま、しばらく黙っていた。
その目に、少しだけ光が差していた。
ゆず姫は、そのカードの絵柄に何かを感じたのか、ぴとっとティナさんの隣に寄り添い、そっと尻尾を巻いて丸くなった。
ティナさんは驚いたように微笑み、「なんだか……安心する」とぽつりと言った。
もふにゃんは微笑みながら、ゆっくりと言った。
「このカードが語ることは、次回のもふにゃん日誌にて、お届けするにゃ。楽しみにしていてにゃんね」
──静かに、カードのメッセージは届いていく。
あなたのもとにも、いつか──。