資格の参考書を、また1冊買ってしまった夜はありませんか。
行政書士、簿記、ファイナンシャルプランナー。書店の資格コーナーに立つと、不安を埋めてくれそうな言葉が並んでいます。「今から始めても遅くない」「定年後も食いっぱぐれない」。そう書かれた帯を見て、つい手に取ってしまう。
読み終えるかどうかも分からないまま、本棚に積む。それでも「何かしている」という感覚だけは、たしかに残る。だから、また次の1冊を買ってしまう。
僕は資格ではなく、講座やツールでこれをやっていました。アフィリエイト、せどり、転売。稼げそうなものを見つけては買い、少し試して、うまくいかないとまた次を探す。10年以上、この繰り返しでした。買った講座の数は、正直もう正確には覚えていません。フォルダの中には、最後まで見終えていない動画教材がいくつも残っています。
形は資格でも講座でも、根っこは同じだと思います。何かを「取得」した瞬間だけ、前に進んだ気になれる。実際には、同じ場所をぐるぐる回っているだけなのに、です。
この記事では、なぜ定年後の不安が強い人ほど資格に手が伸びやすいのか、そしてその先で何が起きるのかを、僕自身の遠回りも交えながら書きます。資格そのものを否定する話ではありません。順番の話です。
この記事で扱う範囲
今日扱うのは、資格を取るべきか取らないべきかという二択ではありません。資格を取る「タイミング」の話です。
先に動いてから、足りない部分を資格で埋めるのか。それとも、動く前に、資格で自分を安心させるのか。この順番ひとつで、同じ資格でも意味がまったく変わってきます。
流れとしては、まず不安が資格という形を取りやすい理由を見て、次に50代特有の事情を確認し、資格が実際に機能する場面としない場面を分けたうえで、資格を悪者にしすぎないための注意点も添えます。最後に、今日から使えるチェックを紹介します。
なぜ不安は「資格」という形を取りやすいのか
理由は、資格には明確なゴールがあるからです。
合格すれば結果が出る。テキストのページ数だけ、進捗が目に見える。模試の点数が上がれば、成長している実感も得られる。これほど分かりやすい「前進の証拠」は、他にはなかなかありません。
そして何より、勉強している間は失敗が確定しません。行動して結果が出ないことより、勉強を続けている方が、精神的にはるかに安全です。定年という締切が近づくほど、この「安全な場所」に留まりたくなる気持ちは強くなります。
僕自身、講座やツールを買い続けた期間、常に「準備している」という感覚だけはありました。次のノウハウを学べば、今度こそうまくいくかもしれない。そう思いながら、実際には一歩も動いていない時間が積み重なっていきました。
不安なときほど、人は「何かを学ぶこと」に逃げ込みやすくなります。学ぶこと自体は前向きな行為に見えるので、周りからも、自分自身からも、責められにくいという事情もあります。お金を使っていても、「自己投資」という言葉があるぶん、後ろめたさも感じにくいものです。
50代がこの罠に特にはまりやすい理由
同じ「学びへの逃げ込み」でも、50代には特有の重さがあります。
1つ目は、周囲の目です。年下の同僚や、独立して活躍している知人と比べて、「何もしていない自分」を見せたくないという気持ちが働きます。資格の勉強は、少なくとも「頑張っている自分」を周囲にも自分にも示せる、分かりやすい手段です。
2つ目は、失敗の受け止め方が変わることです。20代なら「いい経験になった」で済むことも、50代では「またやり直しか」という重さを伴います。この感覚があるほど、失敗しない選択肢である勉強に流れやすくなります。
3つ目は、時間の感覚です。20代の遠回りと、50代の遠回りでは、残りの時間に対する比率がまったく違います。10年という時間は、20代なら取り返せますが、50代にとっては人生の一部そのものです。僕自身、この時間の重みに気づいたのは、定年という具体的な期限が視界に入ってきてからでした。それまでは、「まだ時間はある」というどこか根拠のない感覚が、次から次へと新しい教材に手を出す言い訳になっていました。
資格取得後によくある3つのパターン
資格を取ったあと、実際にどうなるかを見てみると、大きく3つのパターンに分かれます。
1つ目は、資格を取って満足し、そのまま使わずに終わるパターンです。合格した達成感で気持ちが一区切りついてしまい、次の行動に移る前に熱が冷めてしまいます。
2つ目は、資格を取ったものの、使い方が分からず、結局また別の資格を探し始めるパターンです。「この資格だけでは足りないのでは」という不安が、次の資格への入り口になります。1つ取ると、また新しい不安が生まれ、その不安を埋めるために次の資格を探す。この連鎖が、ノウハウコレクターと同じ構造です。
3つ目は、資格を取ったことで、逆に動けなくなるパターンです。「この資格を活かせる形でなければ動いてはいけない」という思い込みが生まれ、身動きが取れなくなります。せっかく取った資格を無駄にしたくないという気持ちが、かえって選択肢を狭めてしまうのです。
僕が10年かけて経験したのも、これに近いものでした。新しい教材を買うたびに「今度こそ土台ができた」と思うのに、次の行動には結びつかない。むしろ、選択肢が増えるほど、何から手をつけていいか分からなくなっていきました。買った教材の数だけ、「これも学んだ、あれも学んだ」という記録は増えていくのに、実際に人の役に立てた経験はほとんど増えていない。この矛盾に気づいたときは、正直かなりこたえました。
資格が力を発揮するのは「動いたあと」
資格そのものが無駄なわけではありません。順番を間違えると、力を発揮しないだけです。
資格が本当に生きるのは、先に小さく動いてみて、具体的な壁にぶつかったときです。「ここが説明できずに、相手からの信頼を得られなかった」「ここの知識がないと、次に進めなかった」という壁は、実際にやってみないと見えてきません。
壁が見えてから取る資格は、使う場面がはっきりしています。何のために取るのかが明確なので、勉強にも実感がこもりますし、学んだ内容もすぐに実務に結びつきます。
一方、壁が見える前に取る資格は、取得したあとに使い道を探すことになります。せっかく時間をかけて取ったのに、どこで使えばいいか分からず、結局、履歴書の1行として眠ってしまう。
僕の場合、講座やツールを先に買い続けた10年で、実際に「これがないと前に進めない」という壁に当たったことは、正直なところほとんどありませんでした。壁にぶつかる前に、いつも次の教材を探しに行っていたからです。壁を経験していないのだから、何を学べば壁を越えられるのかも、分かりようがなかったのだと思います。
資格を「悪者」にしすぎないために
ここまで資格に対して厳しめのことを書いてきましたが、資格が悪いわけではないことは、あらためて伝えておきたいところです。
士業のように、資格そのものが仕事の前提条件になる分野もあります。すでに実務を始めていて、信頼を証明する手段として資格が必要になる場面もあります。こうした場合は、先に動いていなくても、資格を取ること自体が合理的な選択です。
問題になるのは、資格が「動くこと」の代わりになってしまうときだけです。この記事で伝えたいのは、資格をやめることではなく、今から取ろうとしている資格が、自分にとってどちらの意味を持っているのかを、一度立ち止まって確認することです。
資格の前に確認したい3つの質問
資格の勉強を始める前に、次の3つを自分に問いかけてみてください。
1つ目は、その資格がなくても、今すぐ試せることはないかということです。文章を書く仕事に興味があるなら、資格を待たずに1本書いてみる。相談に乗る仕事に興味があるなら、身近な人の相談に無料で乗ってみる。多くの場合、資格がなくても最初の一歩は踏み出せます。
2つ目は、資格を取ったあと、誰に対してどう使う予定か、具体的に言葉にできるかということです。「なんとなく役に立ちそうだから」ではなく、「この資格を持って、こういう人に、こういう形で関わりたい」と言えるかどうかを確かめてください。言葉にできないなら、それは今すぐ必要な資格ではないのかもしれません。
3つ目は、資格がなくて実際に困った場面が、これまでにあったかということです。想像上の不安ではなく、実際に起きた出来事があるかどうかを振り返ってみてください。
この3つに具体的に答えられないなら、その資格はおそらく「安心のための資格」です。逆に、はっきりと答えが出るなら、その資格は「壁を越えるための資格」であり、取る価値があります。
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資格を取る前のセルフチェック
・その資格がなくても、今すぐ試せることはないか
・資格を取ったあと、誰にどう使う予定か、具体的に言えるか
・資格がなくて実際に困った場面が、これまでにあったか
・今、この資格の勉強は「動くこと」の代わりになっていないか
▲ここまで
もし、この4つに詰まってしまったら、今日やることは資格の情報を集めることではありません。今、興味を持っている分野で、資格を使わずにできる小さな行動を1つだけ、書き出してみてください。それだけで十分です。
まとめ
定年後の不安が強い人ほど、資格という分かりやすいゴールに向かいやすくなります。勉強している間は失敗が確定しないので、居心地がいいからです。50代という年齢が持つ、周囲の目、失敗への重さ、時間の限られ方が、この傾向をさらに強めます。
ただ、資格が本当に力を発揮するのは、先に動いて具体的な壁にぶつかったあとです。順番が逆になると、資格を取っても使う場面が見つからず、また次の資格や講座を探すことになります。僕自身、その繰り返しに10年を費やしました。
大事なのは、資格を取らないことではありません。動く前に、資格で自分を安心させていないかを、一度確かめてみることです。
とはいえ、それが「壁を越えるための資格」なのか「安心のための資格」なのか、一人では判断がつきにくいこともあると思います。そんなときは、次のようなサービスもご活用いただけます。
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