羽生結弦がV奪還、葛藤を謙信に重ね達した新境地

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全日本フィギュアスケート選手権で優勝し、笑顔で場内を1周する羽生(代表撮影)
<フィギュアスケート:全日本選手権>◇第2日◇26日◇長野市ビッグハット◇男子フリー(FS)
羽生結弦(26=ANA)が5年ぶりに日本一の座を奪還した。2月の4大陸選手権(韓国)以来10カ月ぶりの実戦で、新フリー曲の大河ドラマ「天と地と」を初披露。新型コロナ禍の葛藤を上杉謙信に重ねて215・83点をマークし、首位発進した前日ショートプログラム(SP)との合計319・36点とした。
国際スケート連盟(ISU)非公認ながら今季世界最高300点超えとフリーの自己ベストを達成した。来年3月の世界選手権(ストックホルム)代表にも決まった。
羽生に武神が宿った。冒頭の4回転ループで先陣を切ると、4回転サルコー、後半の4回転トーループ2本まで7種のジャンプに全成功。特にサルコーは驚異の出来栄え点(GOE)4・16の加点を稼いだ。水色に金ラメの和服衣装で5年ぶり5度目の天下取りを確信すると、人さし指を突き上げた。「初戦にしては心から良かったと思える点数」と勝ち名乗りを上げた。
コロナ禍の中、自ら振り付けた新プログラム。SPはロック曲で首位発進し、フリーは琵琶と琴の音に乗って出陣した。69年の大河ドラマ「天と地と」。主役の上杉謙信が武田信玄と相対した川中島の戦い。その古戦場から約8キロ北にあるビッグハットで「謙信公に影響を受けた。戦いの神様にも葛藤があり、最後は出家し、悟りの境地まで達した価値観が自分と似ているのかな」。第3波の中で「ちょっとでも活力になれば」と葛藤を大義が上回る。沈む世の中のため、そして自分のために戦っていた。
昨年はGPファイナルで米国のチェンに、全日本で宇野に敗れた。闘志が戻らず「戦えなくなっている。もう、やめようかな」。暗い世相に「好きなスケートをすることにも罪悪感があった。自分のやっていることが無駄に思え、1人だけ暗闇の底に落ちる感覚だった」。前人未到のクワッドアクセル(4回転半)完成どころか、最も得意な3回転半まで跳べなくなった。「戦うのに疲れた」。そんな時に思った。「謙信公の考えに触れ、自分のために動いてもいいのかな」と。
それが世界選手権への思いだった。もう1度、天下統一へ。「暗い中、自分自身がつかみ取りたい光に手を伸ばした」と立ち直る。冒頭の両腕を十字にするポーズには「天と地と羽生結弦。天と地の間に、俺がいるぞ」と存在を示したい。
暗闇から抜けた時、新境地に達した。「大人になれた。ジャンプ跳べたぜ、やっほーい、イエーイ、じゃないと考えたら徐々に跳べるようになってきて、今日もシームレスに(継ぎ目なく)跳べた」。だから昨季の借りを返せた。5週3戦の過密日程で「調整すらできない」ほど疲弊していたが「昨年と違って体力がある」。コロナ禍の唯一の好材料だった。コーチ不在で孤独も、独り立ち。負けて「弱っちい」と自責した日から1年後、ISU非公認ながら今季世界最高の300点超え。19年スケートカナダの212・99点を上回る215・83点のフリー自己ベストもマーク。まだ戦える。軍神と化して、また頂に降臨した。【木下淳】
◆世界選手権の代表選考 シングルは男女ともに3枠。1人目は全日本優勝者。2人目は全日本2、3位、グランプリ(GP)シリーズで表彰台に上がった上位2人、今大会終了時点の世界ランク上位3人のいずれかを満たす選手から選考。3人目は2人目の選考基準に該当しながら漏れた選手を含め、今大会終了時点での世界ランク上位3人、GPシリーズのベストスコア上位3人から、総合的に判断して選考する。
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