【詩】希う

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月が空にあってはいけません
月が空にあってはいけません
うつくしいあの人が甦ってしまうでしょう?
あの人の白い手は細工物で、すぐ壊れてしまうので 触れることはなりません
黝い湖のまんなかで あの人は、ずっとピアノをひいています
薄桃色した毛細血管が 乳白色の鍵盤を、さくら色に染めているところです
やわらかい指の腹がおさえられて、つぶれているのが とてもかわいらしいのです
湖面では水たちが、あの人のきゅっとしたくるぶしを どうにか測ってやろうとしています、けれども、それは大変な仕事なのです
指球で水面を揺らしては、月と小波とを遊ばせるのに あの人は夢中になっていますから
……ほら、みてください
たった今、あの人の白い小指の骨が 黒い鍵盤を伝いました
音が震えています
あの人の小指が、ひじが、肩が……全身の骨が 響いています
分かりますか?
この音楽は ちいさなちいさな骨たちがあつまって奏でているのです
ああでも あのちいさな骨たちは、愛らしすぎる
きっとすぐに砕けてしまうでしょう
震えて 震えて ひび割れて
あの人の身体すべてが 砂と塵になるのです
真白な砂は風にふかれて 銀河の星となりましょう
星たちは夜を流れて やがて水平線のかなた
どこかの岸辺へ 星の砂として流れ着くのでしょう
もしそうなってしまったら
わたしは、あの人の骨をひろいに 海岸へ行くでしょう
世界中に散らばって 静かに眠るあの人を
ひろいあつめにゆきましょう



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