こんにちは、Yuta Kuwamuraです。法人営業を9年経験したあと、いまは企業向けに生成AIの研修と導入支援をしています。
2026年10月は、AIエージェントにまつわる話題が続きました。
・10月20日:デジタル庁が、政府職員向けのAI環境でAIエージェントを使うための基準(源内基準)を公表
・10月21日:Webのシステムでよく使われるPHPに、緊急の修正版が公開
・10月23日:Meta社のAIエージェント「Muse」が日本で提供開始
AIエージェントとは、目標を伝えると、自分で手順を考えて作業を進めるAIのことです。質問に答えるだけのAIと違い、メールを送る、予約を入れる、ファイルを書き換えるといった「操作」まで任せられるのが特徴です。
便利な一方で、任せられる範囲が広がるほど、「AIに何を見せて、何をさせてよいか」を先に決めておく必要が出てきます。この記事では、3つの話題をつなげて、AIエージェントを使い始める前に見直したいことを整理します。
① Muse:何ができて、どこに注意するか
公式に案内されている機能
Museは、Meta社が提供する個人向けのAIエージェントです。米国では2026年9月8日に発表され、日本では10月23日に提供が始まりました。スマートフォンのアプリとWebで使えます。
公式の発表では、次のような特徴が案内されています。
・目標を伝えると、計画を立てて作業を進める
・メールの送信、予約、フォームの入力などを代わりに行う
・アプリを閉じても作業を続ける
・メールの送信や購入の前には、利用者に承認を求める
・過去の会話を覚えている
・利用者ごとに切り分けられた環境で動き、学習への利用は断ることができる
料金は「基本機能の多くは無料で、サブスクリプション(月額などの定額制)もある」とされていますが、日本での金額は発表に書かれていません。
「連絡漏れを防げる」は公式の機能か
普段の連絡にFacebookを使うことが多い方にとって、「連絡の見落としを防げるのでは」という期待は自然だと思います。ただ、Facebookでの連絡漏れを防ぐ機能は、Meta社の公式の発表では確認できませんでした。
また、法人で使ってよいかどうかも、日本の発表には書かれていません。仕事で使う前に、次の3点を確かめておくと安心です。
・使いたい機能が、公式に案内されている機能か
・会社の情報(顧客名、取引条件、社内の資料など)を入れてよいか。社内のルールに照らして判断する
・送信や購入の前の承認を、自分がきちんと確認できる設定になっているか
「他の使い方がイメージできない」方へ
公式の使い方の例には、メールの送信や旅行の予約、料金の請求額の見直し、保存したレシピからの買い物リスト作りなど、暮らしに近いものが並んでいます。一方、利用者のレビューやデモを紹介した記事には、仕事にも応用できそうな使い方が出てきています。以下には、利用者本人の体験談のほか、デモをまとめた記事や、企業がMeta社に伝えた内容を紹介した記事も含まれます。いずれも、第三者が再現を確かめたものではありません。
・連絡の履歴の確認:国内の利用者が、SNSのメッセージについて「○○さんと最後に連絡したのはいつか」と尋ね、答えが返ってきたと報告しています。ただし、メッセージとの連携は公式の案内の一覧には載っておらず、その方の手元で動いた事例です
・見落としたメールの拾い出し:海外のレビューでは、メールをつないで使ったところ、見落としていた重要なメールを見つけ、本人が返信したか、相手から何が返ってきたかも追えたとしています
・相手への連絡文の下書き:取引の相手に送る文面を下書きさせ、1通ごとに送る前の承認を求めたデモがあります
・相見積の取り寄せ:海外の記者が引っ越し業者4社への見積依頼を任せたところ、約2分後に2社から電話が来たと報告しています
・価格や出品の定期チェック:ネットオークションを1日2回確認させ、商品の状態や新着順などの条件を調整したところ、毎晩30分ほどかけていた検索の手間を減らせたという報告があります
・口コミの分析:米国の小規模企業が、8万7,000件の顧客レビューを分析させ、強み・弱み・機会・脅威を整理したと紹介されています
反対に、外部のサイトのエラーや、AIによるアクセスの制限、認証の失敗などで、買い物や予約、決済が途中で止まった例も複数あります。手作業より時間がかかったという報告もあります。何年も前に閉店した店を候補に挙げたり、確かめていない電話番号を作って示したりした例も報告されています。
これらを自社の仕事に置き換えるなら、取引先からの連絡の見落とし確認、問い合わせへの返信の下書き、外注先への相見積の依頼、競合の価格の定期チェックなどが、試してみる候補として考えられます。その場合も、結果の確認と、送信・発注・決済の前の人による承認は欠かせません。
まずは会社の情報を含まない作業で試し、どこまで任せられるかを見極めるのがよいと思います。
② 源内基準から、民間企業がまねできること
源内(げんない)とは、デジタル庁が用意している政府職員向けの生成AI環境で、約18万人が対象とされています。2026年10月20日、デジタル庁は源内でAIエージェントを使える環境の提供を始めると発表し、あわせて「源内基準」と呼ばれる、ガバナンス・セキュリティ・セーフティ(安全性)に関する基準を公表しました。
公式ページでは、この基準を、地方公共団体や民間事業者も参考にできる「モデルケース」と位置づけています。基準の主な内容は次のとおりです。
・立場ごとに責任を分ける:利用者・管理者・開発者が、それぞれ何に責任を持つかを決める
・重要な処理の前に人が承認する:ファイルの更新や削除、データの登録などは、AIが進める前に利用者が確認する。AIの回答を確かめずに公文書へ写さない
・扱える情報の上限を決める:管理者が、使ってよい業務や情報の範囲を決める。最も機密性の高い区分の情報などは、入力だけでなく添付や保存も含めて扱わない
・高度な機能は申請制にする:高度なAIエージェントを作る環境(源内工房)は、申請を受けて管理者が権限を与える
・記録を残す:源内工房では、外部への書き込みの通信を止め、通信先・量・日時や操作を記録する
あわせて、外部の資料に悪意のある指示が紛れ込み、AIがそれに従ってしまう「プロンプトインジェクション」への注意も挙げられています。
中小企業でここまでの仕組みを一度に整えるのは難しいかもしれません。それでも、「誰が責任者か」「どの操作の前に人が確認するか」「どの情報は入れないか」の3つを決めるだけでも、AIエージェントを試す土台になります。
③ 「AIのセキュリティ」より「データマネジメント」
データマネジメントとは
AIの導入を考えると、「AIそのものは安全か」に目が向きがちです。もちろん大切な観点ですが、私はそれより先に、データマネジメントを見直すべきだと考えています。
データマネジメントとは、データを安全に、かつ役立つ状態で使い続けられるように管理することです。範囲は広いのですが、この記事ではその中でも「誰がどの情報を見られるか(権限)」と「情報をどこに置き、どう設定するか(置き場所)」に絞ってお話しします。
直近の漏えい事例は、AIではなく「権限」と「置き場所」の問題
ここ数か月に公表された個人情報の漏えい・漏えいのおそれの事例を3つ振り返ります。いずれも公式の発表にもとづく内容です。
生命保険協会は、2026年7月29日に第一報を、9月14日に調査結果を公表しました。ゲストユーザーに、他の利用者の個人情報を見られる権限が誤って付与されており、2021年7月から2026年7月までの間、延べ3万7,929件(重複を除くと2万7,407件)が対象になりました。個人情報が実際に取得されたとは特定されていないとしています。原因として、運用開始時の確認と定期的な点検が十分でなかったことを挙げています。
ベネフィット・ワンは、2026年9月30日に公表しました。アンケート結果をダウンロードする機能で、他社の従業員の情報が表示される状態になっており、2,322の企業・団体、1万3,460人分が対象でした。2025年6月の改修での条件設定の不備が原因とされています。
アイスタイルは、2026年9月16日に公表しました。外部のファイル転送サービスの公開設定の不備で、1万997人分の情報が、URLを知っていれば取得できる状態に約20分間なっていました。第三者が実際に取得した事実は確認されていないとしています。
3件とも、AIが原因ではありません。公表された原因は、アクセス権限の設定、データを取り出す条件の設定、外部サービスの公開設定の不備です。言い換えると、「誰に見る権限を与えていたか」と「どこに置き、どう設定していたか」の問題です。どの組織でも起こり得ることで、だからこそ、点検の仕組みを持っておくことが大切だと感じます。
AIエージェントは、与えられた権限の範囲で動く
AIエージェントは、使う人や管理者が与えた権限の範囲で、情報を読み、操作します。言い換えると、データの管理が甘い状態でAIエージェントをつなぐと、本来は見えてはいけない情報まで、AIが参照したり処理したりしてしまうおそれがあります。
人であれば「この資料は自分が見てよいものだろうか」とためらう場面でも、AIエージェントが同じように立ち止まるとは限りません。AIの安全性を議論する前に、AIに渡す権限の元になっているデータの扱いを見直したほうがよいと考えるのは、このためです。
今日からできる見直し
・共有フォルダの権限の棚卸し:誰がどのフォルダを見られるか、編集できるかを一覧にし、必要以上に広い権限がないかを確かめる
・退職者・異動者のアカウント:使われていないアカウントや、前の部署の権限が残っていないかを確かめる
・外部への公開設定:ファイル共有や転送のサービスで、「リンクを知っている人は誰でも見られる」設定が残っていないかを確かめる
・AIに渡してよい情報の線引き:顧客情報、取引条件、人事情報など、AIに入れない情報と、条件付きで入れてよい情報を決める
どれも、AIを使うかどうかに関係なく役に立つ見直しです。
④ PHPの脆弱性と、いま確認すること
何が起きたか
PHPとは、Webサイトや業務システムを作るときによく使われるプログラミング言語です。脆弱性とは、システムの弱点のことで、悪用されると情報を抜き取られたり、システムを乗っ取られたりするおそれがあります。
2026年10月21日、PHPの開発元は、2つの脆弱性(CVE-2026-109618、CVE-2026-109619)を修正する緊急の修正版を公開しました。CVEは、脆弱性ごとに付けられる世界共通の番号です。深刻度を表す指標(CVSS)では9.2で、最も重い区分(Critical)とされています。ログインせずに外部からプログラムを動かされることにつながり得る内容で、Webからのアクセスを処理する環境が広く対象です。情報処理推進機構(IPA)も、10月22日に注意喚起を出しています。
・修正版:8.5.12、8.4.27、8.3.36、8.2.35(これより前の、サポート対象のバージョンが影響を受けます)
・PHP 8.1以前:通常の公式サポートは終わっています。今回は一部の古いバージョン向けにも最小限の修正が公開されていますが、使えるかどうかを提供元に確かめたうえで、サポート中のバージョンへ移行するのが基本です
・PHP 8.2:2026年12月31日に公式のサポートが終わります
すぐに更新できない場合の一時的な回避策も、公式に案内されています。ただし完全な対策ではないため、更新までのつなぎと考えてください。また、10月23日には別の脆弱性(CVE-2026-115560)の情報も出ており、詳細は次回の定期の修正版で公開される予定です。
自社・委託先に聞くための質問
技術に詳しくない方でも、次の質問をそのまま社内の担当者や、Webサイト・システムの委託先に聞いてみてください。
・自社のWebサイトや業務システムに、PHPを使っていますか
・使っている場合、バージョンはいくつですか
・修正版に更新しましたか。まだの場合、更新の予定はいつですか
・8.1以前を使っている場合、今回の修正への対応と、移行の計画はどうなっていますか
AIエージェントを業務システムとつなぐなら、つなぐ先のシステムが最新の状態に保たれていることも前提になります。
まとめ
・AIエージェントは「操作」まで任せられる。だからこそ、何を見せて何をさせるかを先に決める
・Museのような新しいサービスは、公式の機能か、会社の情報を入れてよいか、承認の設定はどうかを確かめてから仕事で使う
・源内基準の「責任を分ける」「重要な処理の前に人が承認する」「扱える情報の上限を決める」「高度な機能は申請制にして記録を残す」は、民間企業でも参考にできる
・取り上げた3件の漏えいは、どれも権限と置き場所の問題。AIより先に、データの扱いと、つなぐ先のシステムの状態を見直す
全部を一度に進める必要はありません。まずは、共有フォルダの権限を一覧にするところから始めてみてください。
どこまで任せるかを整理したい方へ
AIエージェントを試してみたいけれど、どこまで任せてよいのか、どの情報なら渡してよいのかが分からない。そうしたご相談をいただくことがあります。
ココナラで「営業・事務のAI活用を30分で診断します」(2,000円)を出品しています。ココナラ上での30分の通話で今の業務や使い方を伺い、AIエージェントを使い始める前に、任せる範囲と渡してよい情報を一緒に整理します。
詳しくは、この記事の下に載せているサービス、またはプロフィールの出品サービス一覧をご覧ください。
※この記事の情報は2026年10月26日時点のものです。