「AIで効率化」が失敗する会社は業務の棚卸しを飛ばしている

「AIで効率化」が失敗する会社は業務の棚卸しを飛ばしている

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ビジネス・マーケティング
こんにちは、Yuta Kuwamuraです。法人営業を9年経験したあと、いまは企業向けに生成AIの研修と導入支援をしています。

「AIで業務を効率化しよう、と号令はかかった。でも、何がどれだけ楽になったのか誰も説明できない」
導入支援の相談で、よく聞く声です。

ツールを契約し、研修も一度やった。それでも、半年たって振り返ると「なんとなく使っている人がいる」以上のことが言えない。そうしたご相談も少なくありません。

ツールの性能や、社員の使い方の問題に見えます。ですが話を聞いていくと、多くの場合、その手前にある「業務の棚卸し」が飛ばされています。
ここでいう棚卸しとは、今の仕事を工程単位で書き出し、1回にかかる時間と月の回数を把握することです。在庫を数えるように、仕事の中身を数えるイメージです。

棚卸しを飛ばした会社でよく起きている3つのことを、順にお伝えします。

① 業務を「営業」「経理」のような大きな単位で見ている


こうなっている会社の様子

「営業部でAIを使おう」「経理の効率化にAIを」と、部署や職種の単位で話が進んでいる状態です。

ところが、AIが手伝えるのは「営業」という仕事全体ではありません。その中の、もっと細かい作業の一部です。
大きな単位のまま考えると、「営業はお客様との関係が大事だから、AIは向かない」「経理は正確さが命だから無理」と、部署ごとまとめて対象外にしてしまいがちです。逆に、「営業全部をAIで楽にする」という、つかみどころのない目標になることもあります。

例えば、営業の「見積作成」を工程に分けてみます。

・お客様の条件を確認する
・似た過去案件を探す
・金額を計算する
・見積に添える送付文を書く

こうして並べると、AIが手伝いやすいのは「送付文を書く」や「過去案件の内容を要約する」あたりだと見えてきます。条件の確認や金額の最終判断は、人が持つべき工程です。
「見積作成にAIを使う」と言うと大げさに聞こえますが、実際に任せるのはその一部です。一部だと分かれば、試すハードルも下がります。

事務の「請求書の発行」でも同じです。

・先月分の取引内容を集める
・請求金額を確定させる
・請求書を作って発行する
・請求書に添える案内文を書く
・入金を確認し、未入金の相手に連絡する

このうち、金額の確定や入金の確認は人の仕事です。一方で、案内文や未入金の相手への連絡文の下書きは、AIが手伝いやすい工程です。
大きな単位では「経理はAIに向かない」と見えていたものが、工程に分けると「ここだけは任せられる」に変わります。

最初の一手

自分の担当業務から1つ選び、4〜6個の工程に書き出してみてください。

書き出すときのコツは、「動詞で終わる短い文」にすることです。

・悪い例:見積関係
・よい例:過去の見積を検索する/送付文を書く

「〜関係」「〜対応」のような書き方だと、中身が見えません。誰が読んでも同じ作業を思い浮かべられる粒度が目安です。
最初はきれいに分けようとしなくて構いません。思いつくまま書き出し、あとで並べ替えれば十分です。

また、書き出すのは「その業務を実際にやっている人」が向いています。管理する立場の人が想像で書くと、細かい手間や、ひそかにやっている確認作業が抜けやすくなります。担当者に5分だけ聞いてみるだけでも、書き出しの中身が変わります。

② 作業時間と頻度を測っていない


こうなっている会社の様子

「議事録づくりが大変」「問い合わせへの返信に追われている」という感覚はあるものの、それが月に何時間なのかは誰も知らない状態です。

数字がないと、2つのことが決まりません。
1つは優先順位です。どの業務から手をつけるかを、声の大きい人の困りごとや、目新しさで選ぶことになります。
もう1つは効果です。AIを使い始めたあとに「楽になった気がする」としか言えず、続けるか、広げるかの判断ができません。

上司や経営層に説明するときも、感覚だけでは通りにくいものです。

最初の一手

①で書き出した工程ごとに、「1回あたりの時間」と「月の回数」を書き添えてください。掛け算すると、月の合計時間が出ます。

例えば、次のような書き方です。

・見積の送付文を書く:1回15分 × 月20回 = 月300分(5時間)
・会議メモを議事録に整える:1回30分 × 月8回 = 月240分(4時間)
・過去案件を探す:1回10分 × 月20回 = 月200分(約3時間)

時間は、ストップウォッチで厳密に測る必要はありません。「だいたい15分くらい」で十分です。気になる場合は、1週間だけ実際に記録してみると精度が上がります。

こうして並べると、「1回は短いけれど回数が多い作業」が、思っていたより時間を取っていることに気づく場合があります。
また、仮に送付文の下書きをAIに任せて1回15分が5分になれば、月に約3時間分の手が空く計算になります。もちろん実際にどれだけ縮むかは、試してみないと分かりません。だからこそ、始める前の数字を残しておくことが大事です。前後を比べられるようになります。

ここで注意したいのは、数字を「目標」や「約束」にしないことです。最初の書き出しは、あくまで今の状態を知るためのものです。「月5時間減らす」と先に決めてしまうと、試しにくくなります。まずは現状を数字で残すことだけを目的にしてください。

③ AIに向く工程と向かない工程を分けずに進めている


こうなっている会社の様子

「とりあえず全部AIでやってみよう」と、工程を区別せずに試している状態です。

すると、AIが苦手な工程でつまずきます。
例えば、最新の価格や在庫、法令の改正内容をAIに答えさせて、古い情報や事実と違う内容が混ざる。お客様への回答をそのまま送りかけて、ヒヤッとする。こうした経験が1〜2回あると、「AIは信用できない」という空気になり、向いている工程まで使われなくなってしまいます。

逆に、慎重になりすぎて「間違えたら困るから」と全部を人に戻してしまう会社もあります。どちらも、線引きがないことが原因です。

AIは、文章を整えることや、たくさんの情報を短くまとめることは得意です。一方で、答えた内容が正しいかを自分で保証することはできません。また、社内の事情やお客様との経緯など、伝えていないことは知りません。この性質を前提に、工程を分けて考える必要があります。

最初の一手

①②で書き出した工程に、「AIに任せられそうか」を3段階で書き添えてください。

線引きの目安は次のとおりです。

・人が持つ工程:判断が要るもの(値引きするか、受けるか断るか)/責任が伴うもの(お客様への最終回答、社外への発信)/最新の事実確認が要るもの(価格、在庫、法令、相手の状況)
・AIに任せやすい工程:下書き(返信文、送付文、報告書のたたき台)/整理(バラバラのメモを項目ごとにまとめる)/要約(長い資料や議事録の要点を抜き出す)
・組み合わせる工程:AIが下書きし、人が確認して仕上げる

大事なのは、「AIに任せやすい」工程でも、最後に人が目を通す前提にしておくことです。AIは下書き係、仕上げと責任は人、という役割分担にしておくと、つまずいても全体が止まりにくくなります。

迷う工程は、いったん「組み合わせる」に入れておいて構いません。実際に試してみて、手直しがほとんど要らなければ「任せやすい」に、手直しのほうが時間がかかるなら「人が持つ」に移します。線引きは一度決めて終わりではなく、試しながら見直していくものです。

書き出しの形をまとめると


①〜③をまとめると、1つの工程につき、次の4項目を書き出すことになります。

・工程名(動詞で終わる短い文)
・1回の時間
・月の回数
・AIに任せられそうか(任せやすい/組み合わせる/人が持つ)

例えば、見積作成ならこうなります。

・お客様の条件を確認する:20分/月20回/人が持つ
・似た過去案件を探す:10分/月20回/組み合わせる
・金額を計算する:15分/月20回/人が持つ
・送付文を書く:15分/月20回/任せやすい

紙でも、手元の表計算ソフトでも構いません。1業務あたり15分ほどで書けるはずです。
これが1枚あると、「どこから試すか」は「時間が長く、任せやすい工程」から選べばよいことになります。

まとめ


3つのことに対する最初の一手を並べると、次のとおりです。

1. 業務を、動詞で終わる4〜6個の工程に書き出す
2. 工程ごとに、1回の時間と月の回数を書き添える
3. 工程ごとに、AIに任せられそうかを3段階で分ける

ツール選びや研修は、この棚卸しのあとのほうが効きやすくなります。どの工程を楽にしたいのかが決まっていれば、ツールは「その工程に合うか」で比べられますし、研修も「その工程の練習」にできるからです。

全部の業務を一度に書き出す必要はありません。まずは自分の担当業務を1つ選んで、今日15分だけ書き出してみてください。

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