社員がChatGPTに顧客情報を入れる前に。情報漏えいを防ぐ社内ルール5つ

社員がChatGPTに顧客情報を入れる前に。情報漏えいを防ぐ社内ルール5つ

記事
ビジネス・マーケティング
こんにちは、Yuta Kuwamuraです。法人営業を9年経験したあと、いまは企業向けに生成AIの研修と導入支援をしています。

2026年7〜10月に公表された、個人情報の漏えい・漏えいのおそれの事例

まず、直近3か月に公表された事例を振り返ります。いずれも各社・各団体の公式発表にもとづく内容で、件数や状況は公表時点のものです。

アクセス権限・公開設定の誤り
生命保険協会は2026年9月、契約照会のシステムで、ログインしていない利用者にも他人の個人情報を見られる権限が誤って付与されていたと公表しました。約5年にわたり、2万7,407人分(延べ3万7,929件)の情報が外部から見られる状態でした。原因として、運用開始時の確認と、その後の定期的な点検が十分でなかったことを挙げています。

ベネフィット・ワンは2026年9月、アンケート結果をダウンロードする機能の条件設定の不備で、2,322の企業・団体、1万3,460人分の従業員情報が、他社の担当者のダウンロードデータに含まれ得る状態だったと公表しました。不具合は社内で把握されていたものの、解消の作業が適切に行われていなかったとしています。実際にダウンロードしたのは1社1人で、データの削除が確認されています。

アイスタイル(アットコスメ)は2026年9月、社内でのファイルの受け渡しに外部のファイル転送サービスを使った際、公開設定の不備で、1万997人分の個人情報を含むファイルが約20分間、外部からアクセスできる状態だったと公表しました。

アカウントの不正利用
三井不動産は2026年9月、資格情報(IDやパスワードなど)が不正に利用され、役職員など最大1万9,000件、社外の関係者最大3万6,000件の個人情報が閲覧された可能性があると公表しました。

生成AIへの入力
RIZAPは2026年9月、特定保健指導の業務で、社員が疾患情報などを含む1万9,996人分のデータを、業務での利用を許可していない外部の生成AIサービスにアップロードしたと公表しました。データは削除され、学習には使われていないと説明しています。同社は、許可していない生成AIを業務に使わないよう、全社に改めて周知したとしています。

各社・各団体は、公表時点で、対象となった個人情報の不正利用や、それに伴う二次被害は確認されていないと説明しています。それでも多くの事例で、「誰に、どの情報への、どこまでのアクセスを認め、それを点検していたか」が関わっています。5件のうち3件は、権限や公開範囲の設定の誤りでした。

生成AIの導入も同じです。「社員がAIに何を入れるか」だけを決めても、その前提となる権限が整っていなければ、漏えいは防ぎきれません。また、社内のデータを見られることと、そのデータを外部のAIに入れてよいことは別の話です。この記事では、土台に「誰がどのデータを見てよいか」という権限を置き、そのうえで「どの情報を、どのAIに入れてよいか」を決めるという順番で、社内ルールをまとめました。

ありがちな「悪気のない」使い方


社内では、次のような使い方が始まっていないでしょうか。

・顧客名簿をExcelからそのまま貼り付けて、お礼メールを一括で作る
・取引先名と金額が入った見積書を貼って「説明文を整えて」と頼む
・担当者名や予算が書かれた商談メモを貼って、議事録にまとめる

どれも本人に悪気はなく、文章の下書きや要約は、AIが役に立ちやすい作業です。ただし、入れている情報の中身と量、使っている環境、その人がその情報を扱ってよい立場かが決まっていないと、漏えいにつながります。

かといって一律に禁止すると、会社の目が届かない個人のスマホなどで使われてしまうおそれがあります。入れてはいけない情報は決めたうえで、「この環境で、この条件なら使ってよい」という線を示すことが大切です。

まず知っておきたいこと:入力した情報の扱われ方


ここでは、2026年10月17日時点(執筆日)の各社公式ページで確認できた範囲に絞ってお伝えします。仕様は変わることがあるため、使う前に最新の公式情報も確かめてください。

個人向けプランは「学習に使うかどうか」を設定で選べる

ChatGPTの個人向けプラン(Free・Plus・Proなど)では、会話の内容がモデルの学習(AIの性能向上のための訓練)に使われる場合があります。「設定」→「データコントロール」→「すべての人のためにモデルを改善する」をオフにすると、それ以降の新しい会話は学習に使われないと案内されています。

Claudeの個人向けプラン(Free・Pro・Max)でも、学習への利用を利用者が設定できます。場所は「設定」→「プライバシー」の「AIモデルの改善を支援する」です。ただし、安全性の審査の対象になった会話などは、設定にかかわらず安全性向上の目的で使われる場合があるとされています。

注意したいのは、回答への高評価・低評価のボタンです。どちらのサービスでも、評価を送ると、それに関連する会話が学習に使われる場合があると案内されています。

また、初期の状態はプランや時期によって異なる場合があります。自分の設定画面で、いまオフになっているかを確認してください。

法人向けプランは初期設定で学習に使われない(ただし「漏えいしない」とは別)

OpenAIは、ChatGPT BusinessやChatGPT Enterprise、APIの入出力を、初期設定ではモデルの学習に使わないとしています。Anthropicも、Claude for Work(TeamプランやEnterpriseプラン)やAPIの入出力を、初期設定では学習に使わないとしています。

ただ、「学習に使われない」は「どこにも保存されない」「漏えいしない」という意味ではありません。会話は提供事業者のもとで一定期間保存される場合がありますし、アカウントの乗っ取りや共有機能の操作ミスで外に出るリスクも残ります。法人向けでも、評価を送った会話の扱いには例外があるため、評価ボタンの使い方は社内で決めておきましょう。

社内のファイルとつなぐと、権限の甘さが表に出やすくなる

法人向けのAIには、社内のファイル置き場(Google ドライブやSharePointなど)とつないで、社内の資料をもとに答えさせる機能があります。たとえばMicrosoftは、自社のAI(Microsoft 365 Copilot)が、使う人がもともと閲覧できる範囲の資料を参照すると説明しています。ただし、参照できる範囲は、サービスやつなぎ方、設定によって異なります。

これは裏を返すと、権限が広すぎる資料は、AIに検索・要約されて、本来見る必要のない人への回答に含まれるおそれがあるということです。たとえば「全社員が見られる」設定のまま放置されていた人事評価や給与の表は、これまでは探そうと思って検索しない限り、目に触れることはほとんどありませんでした。AIに「○○部の評価は?」と聞くだけで、出てきてしまうことがあります。

国の注意喚起

個人情報保護委員会は2023年6月の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」で、事業者が個人情報を含むプロンプト(AIへの指示文)を入力する場合は、特定した利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確認するよう求めました。

あわせて、本人の同意なく個人データを入力し、それが回答の生成以外の目的で扱われる場合は、法律に違反する可能性があるとしています。そのため、提供事業者が機械学習に使わないことなどを十分に確認するよう示しています。

情報漏えいを防ぐ社内ルール5つ


ルール1:まず「誰がどのデータを見てよいか」を整える


なぜ必要か:AIに入れる情報の線引きは、「その人がもともと扱ってよい情報か」が決まっていないと引けません。冒頭の事例のように、権限の誤設定や、渡したまま見直していない権限は、それだけで漏えいの入り口になります。社内のファイルとAIをつなぐと、その影響はさらに大きくなります。

どうするか:

・データに重要度のラベルを付ける(例:「公開」「社内」「部外秘」「極秘」の4段階)
・部署・役職ごとに、どのフォルダを見られるかを決め直す
・重要なフォルダごとに責任者を1人決め、閲覧の追加・削除はその人が判断する
・「リンクを知っている全員」「全社員」で共有されたままのファイルを洗い出して、必要な人だけに絞る
・退職者や異動した人、契約が終わった委託先のアカウント・権限を、その都度外す

いきなり全部は難しいので、まずは人事・給与・顧客名簿・契約書など「漏れたら困る上位のフォルダ」から始めるのが現実的です。

ルール2:会社として使うAIの環境を決める


なぜ必要か:社員がそれぞれ個人のアカウントで使うと、どんな設定で何を入力しているのかを、会社が把握しにくくなります。退職したときに、やり取りの記録を引き継ぎにくいという問題もあります。

どうするか:業務で使うサービスとプランを会社として決め、決めたもの以外(無料の要約・翻訳サイトやブラウザの拡張機能など)は業務で使わないことも決めます。

顧客情報などを扱う場合は、法人向けプランなど会社が管理できる環境を検討し、管理者が次の点を確認します。

・学習への利用と、その例外(評価ボタンなど)
・会話の保存期間と削除の方法
・社内のファイルとつなぐ範囲(ルール1で整えた権限を前提にし、AI側の接続用アカウントに、使う人より広い権限を与えない)
・誰がいつ使ったかを確認できる記録(利用ログ)
・二段階認証(ログイン時にスマホなどでも確認する仕組み)をオンにする
・チャットの共有リンクを社外に公開できない設定にする

個人向けプランで運用する場合は、会社のメールアドレスで作ったアカウントを使い、学習の設定をオフにすることと、回答の評価ボタンを押さないことをルールにします。

ルール3:「環境」と「情報」の2つで線を引く


なぜ必要か:「顧客情報は入れない」と一律に決めると、AIが役に立つ仕事の多くに使えなくなり、会社の目が届かない使い方につながるおそれがあります。一方で、同じ顧客名簿でも、個人のアカウントに入れるのと、会社が管理する環境で権限のある担当者が必要な範囲だけ使うのとでは、管理できる範囲も残るリスクも変わります。

どうするか:「どの環境なら」「どの条件で」入れてよいかを表にします。記事の最後にたたき台を載せましたので、自社向けに書き換えてお使いください。

個人向けプランを使う場合は、「株式会社〇〇」を「A社」、「山田様」を「担当者B」のように、名前を置き換えてから入れます。ただし、役職・地域・案件の内容などの組み合わせで相手が分かってしまうこともあるため、置き換えだけで安全とは考えないでください。元の名前と記号の対応表は手元だけで管理し、AIには入れないようにします。

ルール4:AIの出力をそのまま社外に出さない


なぜ必要か:生成AIの回答には、もっともらしい誤りが混ざることがあります。金額や日付、商品仕様の誤りがそのまま顧客に届くと、信頼を損ねます。

どうするか:社外に出す前に「数字・固有名詞・日付を原本と照合する」「送信前にもう一人が読む」の2点を手順に入れます。特に見積や契約に関わる文面は、担当者以外の確認を通すのがおすすめです。

ルール5:相談先と、見直しの時期を決める


なぜ必要か:ルールにない状況は、使い始めると次々に出てきます。また、各社のプランや設定は変わることがあり、社内の異動や退職で権限もずれていきます。

どうするか:「迷ったら総務の〇〇さんに聞く」と、相談先を1人決めておきます。誤って入力してしまったときの報告先も同じ人にしておきます。

報告を受けた人がすることも決めておきます。たとえば「該当のチャットを削除する」「学習の設定がオフだったかを確認する」「含まれていた情報の種類を記録する」の3つです。報告した人を責めない、と最初に伝えておくことも大切です。

半年に1回など見直しの時期を決め、各社のプランや設定の変更と、ルール1の権限がずれていないかをあわせて確認します。

付録:AIに入れてよい情報の線引き表(たたき台)


すべての行に共通する条件

・ルール1の権限が整っていて、その情報をもともと扱ってよい人が使う
・会社が認めた用途で、その作業に必要な範囲だけを入れる(名簿なら必要な列だけ、資料なら該当ページだけ)
・ルール2で会社が承認した環境を使う
・区分が重なるときは、より厳しい区分を優先する
・貼り付けだけでなく、ファイルのアップロードや画面のスクリーンショットも「入力」に含む

「条件付き○」は、上の共通条件に加えて、各行の条件を満たしたときだけ入れてよい、という意味です。

■ 公開済みの情報、一般的な質問
個人向けプラン(学習オフ):○
会社が承認した法人向けの環境:○

■ 商談メモ、見積の説明文、メールの下書き、社内マニュアル
個人向けプラン(学習オフ):名前を置き換え、秘密情報を除けば○(金額は取引先が分からない形にする)
会社が承認した法人向けの環境:○

■ 顧客名簿・連絡先
個人向けプラン(学習オフ):×
会社が承認した法人向けの環境:条件付き○(特定した利用目的の達成に必要な範囲内に限る。提供事業者が回答の生成以外に使わないことを、契約や規約で確認する)

■ 取引先から預かった資料
個人向けプラン(学習オフ):×
会社が承認した法人向けの環境:条件付き○(秘密保持契約で外部サービスへの預け入れが認められているか確認する。契約に書いていなければ、取引先に一言確認してから使う)

■ 設計図・ソースコードなどの技術情報
個人向けプラン(学習オフ):×
会社が承認した法人向けの環境:条件付き○(開発や製造の責任者が認めた範囲で使う。他社からライセンスを受けたものは契約を確認する。特許出願前の内容は×)

■ 未発表の決算・人事・M&A情報
個人向けプラン(学習オフ):×
会社が承認した法人向けの環境:条件付き○(経営者が案件ごとに認めたときだけ。M&A情報は相手先との秘密保持契約も確認する)

■ 個人の病歴・健康診断結果など
個人向けプラン(学習オフ):×
会社が承認した法人向けの環境:原則×(法律上の要配慮個人情報にあたることが多く、慎重な扱いが求められるため。このたたき台では入れない扱いにしています)

■ パスワード・ログイン情報、マイナンバー、カード番号
個人向けプラン(学習オフ):×
会社が承認した法人向けの環境:×(汎用の生成AIには入れない)

まとめ


ポイントは次の5つです。

1. まず「誰がどのデータを見てよいか」を整える
2. 会社として使うAIの環境を決める
3. 「環境」と「情報」の2つで線を引く
4. 出力を社外に出す前に確認する
5. 相談先と見直しの時期を決める

順番が大切です。権限と環境が整っていれば、顧客情報を含む仕事にも、条件を決めてAIを使えます。逆に、権限が整っていないままAIを社内のファイルとつなぐのは、漏えいの入り口を自分で広げることになりかねません。

自社のルールづくりを相談したい方へ


線引きは、業種や扱う情報、いまの権限の状態によって変わります。

ココナラで「営業・事務のAI活用を30分で診断します」(2,000円)を出品しています。ココナラ上での30分の通話で今の使い方を伺い、どこから権限と線引きを整えるとよいかをお伝えします。

ルールを決めたあと、営業・事務の定型作業をAIに任せられる形にしたい方には、「営業・事務専用のAIアシスタントを作ります」(20,000円)もご用意しています。

詳しくは、この記事の下に載せているサービス、またはプロフィールの出品サービス一覧をご覧ください。

サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す