居酒屋夜話|先に読まれとった

居酒屋夜話|先に読まれとった

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占い

暦の背表紙


カウンターの端に置いとる暦は、
背表紙が剥がれかけとる。

布のテープで
一度貼り直した跡があって、
そのテープももう茶色うなっとる。

貼ったとはおいやなか。

ページの端が
黒うなっとる箇所がいくつかある。

指で何べんもめくった跡たい。

それもおいやなか。

この暦は、
もともとおいのもんやなかけん。

閉店後に、たまに開く。

毎日やなか。
月に二回か、三回。

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一年、開かんかった


じいさんが死んだあと、
荷物の中から出てきた。

誰も要らんと言うたけん、
おいが引き取って、
店の端に立てた。

しばらく開かんかった。

読む気にならんかったとやなか。

開いたら何かが終わる気がして、
そのままにしとった。

一年ぐらい、そうしとった。

ある晩、
客が全員帰ったあとに、
なんとなく手が伸びた。

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後ろのほうの白か紙


暦の後ろのほうに、
何も刷っとらん紙が何枚かある。

そこに書き込みがあった。

日付が一行。

おいの生まれた日たい。

その下に、鉛筆で薄う、
おいの星の名前が書いてある。

字は雑たい。
急いで書いたごたる。

そのまた下に、
書いた日が入っとった。

おいはそこで手が止まった。

公園のベンチで
あの爺さんが隣に座るより、
だいぶ前の日付やった。

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うちの隅におった客


前に、
潰した店の帳簿の話ば書いた。

あの頃の客ば、
おいはほとんど覚えとらん。

じいさんも、その一人たい。

カウンターの隅で
黙って飲みよったらしか。

らしか、というのは、
あとで人に聞いた話やけんたい。
おいの記憶には残っとらん。

顔も知らんかった相手が、
おいの生まれた日ば、
何年も前から紙に書き留めとった。

こっちは一人も覚えとらんで、
向こうは一行書いとった。

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動くな


じいさんに最初に言われた言葉は、
今でも覚えとる。

こよみ、お前は動くな。

それだけたい。

こっちは自己破産した直後で、
何でもよかけん動きたかった。

金もなか。
信用もなか。
居場所もなか。

そういう時ほど、人は動きたがる。

なんでですか、て聞いた。

そしたら、こう言うた。

お前の星は今、土の中におる。
芽が出る前に掘り返したら枯れる。

意味は分からんかった。

ばってん、
言い返す材料も持っとらんかった。

初対面の爺さんが
なんでおいの何ば知っとるとか、
とは思うた。

思うたばってん、聞かんかった。

聞いたら、
動かんで済む理由が
無うなる気がしたけんたい。

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気味の悪か話たい


暦の書き込みば見た晩に、
やっと順番が分かった。

じいさんはあの日、
おいの星ば読んでから
公園に来とったことになる。

たまたま隣に座ったとやなか。

日ば選んで来とった。

こう書くと
よか話に聞こえるかもしれん。

おいは最初、気味が悪かった。

何年も前から調べられとって、
座る日まで決められとった、
ということやけんな。

なんでおいやったか。

それは聞かんまま終わった。

聞こうと思うた時には、
もうおらんかった。

今も分からん。

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偶然の顔ばして来る


これは鑑定の話でもある。

暦で日ば決めて誰かに会いに行くと、
相手にはまず分からん。

向こうから見たら、
たまたま隣に座った爺さんたい。

見立てが効いとる時ほど、
当てたようには見えん。

派手なことは何も起きんけんな。

客に日取りば渡す時も同じたい。

うまく回った人はだいたい、
今回はたまたま調子がよかった、
と言う。

おいはそれでよかと思うとる。

そもそも、おいがあの三年
動かんかったとが正しかったかも、
ほんとうは分からんとたい。

比べる相手がおらんけん。

動かんかった、
という事実があるだけばい。

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今夜の一杯


近ごろ人から誘われた日ば、
ちょっと思い出してみんね。

なんでもなか日に見えて、
向こうは何日か前から
その日ば決めとったかもしれん。

言う日ば選ぶとは、
別に占いに限った話やなか。

たいていの人が、
なんとなくやっとることたい。

ばってん、選ばれた側には
まず分からん。

分からんまま
なんとなく助かっとる、
ということが、たぶんようある。

おいはこの暦ば、
確かめられんまま持っとる🌙

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この店の鑑定について


おいは九星気学と暦で、
あんたの動く日と方角ば読んどる。
品書きは三つだけたい。

まずは行き先と日取りだけ知りたか人へ。


ひと月まるごと、動く日と避ける日ば並べたとがこっち。


半年先まで、流れごと一枚の地図にしたとが本命たい。


どれにするか迷うたら、
いちばん上のからでよか。

効いても、たぶん
派手なことは起きんばい。

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