居酒屋夜話|同じ醤油が二本

居酒屋夜話|同じ醤油が二本

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氷が溶けるまで


うちに来る客の中に、
焼酎ば頑んで
一口も飲まん人がおる。

氷が溶けて、
グラスの外に水がたまって、
コースターがふやけるまで。

そういう晩は、たいてい
話ば聞くことになる。

スマホば伏せて置く人は、
だいたいそうたい。

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まだ好きなんです


去年の秋やった。

三十くらいの男が、
その飲み方ばしとった。

一時間ぐらい黙っとって、
やっと口ば開いた。

まだ好きなんです。

それだけ言うて、また黙る。

別れたとが半年前で、
向こうにはもう別の人がおる。

そこまでは聞いた。

そのあとが続かんかった。

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どこが好きやったとね


おいは一つだけ聞いた。

どこが好きやったとね。

男は、えっと、と言うたきり、
けっこう長いこと止まった。

やっと出てきたとは、
その人の話やなかった。

二人で通いよったラーメン屋の名前。
車の中の、柔軟剤の匀い。
去年の冬に貸してもろうた手袋。

全部、場所と物たい。

その人がどういう人やったかは、
最後まで一つも出てこんかった。

おいはそれば
責めるつもりで聞いたとやなか。

ほんとに知りたかっただけたい。

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醤油が二本


笑えん話でな。

おいも同じことばしとった。

離婚したあと、
しばらく一人で飯ば作りよった。

ある日、買い物に行って、
醤油ば一本買うた。

帰って冷蔵庫ば開けたら、
同じ醤油が二本入っとった。

その醤油、
おいの好きな味やなかとたい。

前の嫁が使いよったやつばい。

おいはそれば、
何ヶ月も買い足しよったことになる。

味の好みが移っとったわけやなか。

冷蔵庫の同じ場所に
同じ物が入っとらんと、
落ち着かんかっただけたい。

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並びの方たい


そこでちょっとだけ分かった。

おいが戻ってきてほしかったとは、
たぶん人やなかった。

毎日の並びの方たい。

朝起きて、
台所に誰かおる音がして、
冷蔵庫の中がいつも通りで、

そういう並びが崩れたとが
おさまらんかっただけばい。

これに気づいたけん
立ち直ったとか、
そういう話でもなか。

気づいたあとも、
その醤油はしばらく捨てられんかった。

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その店まだありますか


あの男は、
そのあと三十分ぐらいおって、
焼酎ば半分だけ飲んで帰った。

分かりました、とも、
そうかもしれません、とも
言わんかった。

会計の時に一つだけ聞いてきた。

その店まだありますか。

ラーメン屋のことたい。

あるよ、と答えた。

そしたら、じゃあ、と言うて
暖簾ばくぐって出て行った。

それきり来とらん。

あの店に行ったかどうかも、
おいは知らん。

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戻る日は出さん


恋愛の相談でいちばん多かとは、
だいたいこれたい。

いつ戻ってきますか。

おいはその日ば出さん。

出せんとやのうて、出さん。

暦は、
人の気持ちば動かす道具やなか。

そぎゃん便利なもんやったら、
うちの店はもっと繁盛しとる。

暦で決められるとは、
自分が次に動く日だけたい。

だけん、そういう相談の時は、
先に同じことば聞く。

その人の何が好きやったとね。

そこで場所と物しか出てこん人には、
まだ日は出さん。

出したところで、
待つ日にしかならんけん。

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今夜の一杯


あんたにも
忘れられん相手がおるとしたら、

その人の口癖ば
一つ思い出してみんね。

すっと出てきたなら、
ちゃんとその人のことが好きやったとたい。

出てこんかったら、
惜しかとは相手やのうて、
あん頃の自分の毎日かもしれん。

どっちでも悪いことやなか。

ばってん、
次に動く日はだいぶ変わってくる🌙

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この店の鑑定について


おいは九星気学と暦で、
あんたの動く日と方角ば読んどる。
品書きは三つだけたい。

まずは行き先と日取りだけ知りたか人へ。


ひと月まるごと、動く日と避ける日ば並べたとがこっち。


半年先まで、流れごと一枚の地図にしたとが本命たい。


どれにするか迷うたら、
いちばん上のからでよか。

出すとは待つ日やのうて、
あんたが動く日の方ばい。

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