「テレビから『時報』が消えた驚くべき理由」

「テレビから『時報』が消えた驚くべき理由」

記事
コラム
最近、大変興味深い話を聞いたので、ちょっと書き留めておきたくなった。一昔前にはテレビ放送に「時報」というものが存在した。それがいつの間にか、姿を消していたことに皆さんはお気付きだっただろうか?

一体何故、テレビの時報は消えてしまったのか?今回はそこをざっくりと語って行きたい。


目次
1.テレビから時報が消えた本当の理由
2.テレビ時報の輝かしい歴史とその精密な仕組み
3.民放から時報が消えた理由
4.テレビ全体から時報が消えた理由
5.何故「約2秒分を逆算して早めに鳴らすこと」ができないのか?
6.実は今も生きている「見えない裏側の時報」
7.緊急地震速報の「2秒遅延」をどう解決したのか
8.まとめ テレビ局が時報を放送するのを辞めた「誠実な理由」


1.テレビから時報が消えた本当の理由
「時報ってスマホが普及したから不要になったんだろ?」という方がいるかもしれない。しかし、それは真実ではない。テレビから時報が消えた最大の理由は、「テレビ局がテレビで正確な時刻を伝えられなくなったため」である。これは単に技術が時代遅れになったからではなく、地上デジタル放送(地デジ)という新技術への移行に伴う必然的な結果であった。

2.テレビ時報の輝かしい歴史とその精密な仕組み
日本初のテレビCMは、1953年に日本テレビが放送した精工舎(現セイコー)の「時報CM」であった。当時、時報はテレビ放送の看板コンテンツであり、視聴者に深く愛される存在だった。

時報のお馴染みの「ピッ・ピッ・ピッ・ポーン」という音は別に適当に鳴らしていた訳ではない。最初の「ピッ」は440Hz(ラ)であり、最後の「ポーン」は880Hz(1オクターブ上のラ)である。更にここには「0.1秒鳴って0.9秒黙る」という0.1秒単位の精密な設計がなされていた。最後の「ポーン」の鳴り始めがちょうど正時に鳴るように、極めて正確且つ緻密な仕掛けが施されていたのである。

3.民放から時報が消えた理由
民放局から時報が消えた理由は技術的な問題よりも「視聴率競争による番組編成の変化」によるものが大きい。「フライングスタート」と呼ばれる「毎時54分か55分」といった中途半端な時刻に番組を開始する手法が定着した結果、番組表から「00分ちょうど」という「ぴったりの区切り」というもの自体がなくなってしまったためだ。この話は今日の話題の本筋ではないので、多くは語らないでおこう。

4.テレビ全体から時報が消えた理由
テレビというもの全体から時報が消えた理由については、全くの技術的な話になる。アナログ放送時代は、撮影した映像をそのまま、まるで手渡しするように届けていたため、遅延というものはほぼゼロであった。しかし、地デジの場合は些か状況が違う。地デジ放送のデータ量は大変膨大なため、以下の処理が必要になる。

1.圧縮・展開処理 :映像を小さく圧縮して送り、家庭のテレビで元の映像に戻す処理(約1秒)
2.伝送処理    :車の移動やビルの陰などによる電波の欠損を防ぐため、データを細かく分割し、時間をずらして送る処理(約1秒)

このことにより、デジタルテレビには必ず「約2秒の遅れ」が生じている。つまり、現在のテレビは常に「約2秒前の過去」を映しているのだ。

5.何故「約2秒分を逆算して早めに鳴らすこと」ができないのか?
ここで、「2秒遅れるのなら、最初から2秒早く時報を送ればぴったり合うんじゃね?」と考える方もいるだろう。だが、地デジという仕組みにおいては、それは不可能なことなのである。その理由として、「実際の遅延時間が何秒になるか、誰にも予測できない」ということがある。

放送局の機材や経由する局の数により、圧縮に掛かる時間が異なる上、家庭にある「テレビの機種」や「画質設定」によっても画面に出るまでに0.1秒単位のズレが生じる。その結果、「台所のテレビとリビングのテレビ」の間でさえ時報のタイミングがズレてしまうという現象が起きるため、全国一律で正確な時報を届けることは物理的に不可能になったのだ。

6.実は今も生きている「見えない裏側の時報」
実際に耳で聴こえる音としての時報は消えたが、実は時刻データ(TOT)として、現在でも5秒に1回のペースでテレビに正確な時間が送られ続けている。このデータは映像のような圧縮処理を行わず、受信機(テレビ等)に届いた時点で「現在の時刻」とぴったり合うように計算して送られ続けている。私たちがテレビ本体の時計を合わせなくても正確な時間が表示され、録画予約が1秒も狂わず成功するのは、この「見えない時報」が今も裏で働き続けているおかげである。

7.緊急地震速報の「2秒遅延」をどう解決したのか
前述の「テレビが2秒遅れる」という事実は、一刻を争う緊急地震速報においては生命に関わる事態になることが予想されるため、問題視され、国会でもそのことについて議論が行われた。これに対し、2010年から「文字データや音を鳴らす合図だけを、映像のルートとは別のルートで先に送る」という仕組みが導入され、最大2.5秒の短縮に成功した。

しかし、この仕組みを使っても「届き次第すぐに鳴らす」か「テレビの内蔵時計(最大±0.5秒の誤差が出る)に合わせて鳴らす」ということしかできなかったため、0.1秒単位の精度が求められる時報を「ぴったりちょうどの時刻」に鳴らすことは、どの手段を使っても不可能であった。

8.まとめ テレビ局が時報を放送するのを辞めた「誠実な理由」
テレビ局は地デジ化という時代の変化によって、放送する時報が「全国何処でも正確な時間である」と確信を持って断言することができなくなった。これまで0.1秒単位の正確で緻密な音の設計をして来たからこそ、ズレが生じる不正確な時報を放送して噓をつくことより、「潔く黙ること」を選んだのだ。

私たちが長年、慣れ親しんだ時報が消滅した裏には、それまでずっと正確で時刻を伝え続けて来たテレビ局の「正確さに対する誠実な決断」があったのだ。

私たちが何気なく過ごしている、この日常においても、何かを徹底的に追求し、私たちの生活を支える人たちがいる。そういった周囲の人たちや、私たちを取り巻く環境に感謝して日々を生きることが大切だろう。







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