縁を結ぶことを生業とし、縁を切ることもまた、私の道です。
神道霊視師として六年。これまでに一千四百を超える方の縁を、龍闕の水鏡にて視てまいりました。
私は霊感の家筋に生まれた者ではございません。
祖父は古い社に仕える者でしたが、私自身はごく普通の家庭で育ち、東京で十年以上、会社員として働いておりました。
三十代のなかば、ある朝の満員電車で、向かいに座った男女のあいだに、薄い水の流れのようなものが、私の目にだけ視えました。
その日を境に、すれ違う人ひとりひとりの縁の筋が、はっきりと視えるようになってしまったのです。
道を歩けば、人の縁の重さに圧されて足が止まる。
電車に乗れば、数十人分の縁の筋が一斉に視界に入り、息ができない。
私は壊れたのだと思い、働くこともできなくなりました。
ある夜、限界を感じた私は、押入れの奥から祖父の遺品の桐箱を引っ張り出しました。
龍鱗の文様の入った、古い箱です。
「これ以上視えるなら、いっそ視ぬほうがましだ」
そう呟いた瞬間、私は祖父の社のことを、不意に思い出したのです。
翌朝、始発で社へ向かい、龍闕と呼ばれる奥で三日三晩、座り続けました。
三日目の夜。
朔の月の下、龍闕の水面に、九つの頭を持つ龍が浮かびました。
「お前の縁は、お前が動かすのだ。他者の縁もまた、お前が整える者となる」
龍はそう告げ、私の中で暴れていた縁の筋の濁流が、すっと静まりました。
そこから三年。
一年目は視たものを龍鱗のかたちに書き写し、
二年目は意味を読み解き、
三年目の満月の夜、
八体の龍王が現れて「縁に苦しむ者の道を整えよ」と告げてくださいました。
血筋でも才能でもなく、龍闕に通い続けた六年の積み重ねが、今の私を支えております。
「三年離れていた人から、鑑定の翌週に連絡が入りました」
「悪縁が切れてから半年で、職場の人間関係が一変しました」
「動くべき時と、退くべき時が、はっきりとわかるようになりました」
片想い、復縁、不倫・複雑恋愛、夫婦の縁、職場の人間関係、悪縁の断ち切り。
事情の重さも、関係の複雑さも、私は問いません。
最後に申し上げます。
縁を結ぶ龍も、縁を切る龍も、龍闕では同じ場所におります。
祈れば結ばれると信じてこられたお想いを、私は否定いたしません。
ですが、念じるだけでは動かぬ縁があることも、お伝えしておかねばなりません。
縁には筋がございます。
筋を視ぬまま念じても、何も起きないのです。
あなたの縁が動かぬのは、あなたが悪いからではありません。
ただ、筋が視えていないだけのこと。龍闕の伝に一度、目を通されてみてください。
九頭龍司 玄