言葉を持たない息子が、私に教えてくれたこと
私には、息子と呼んでもいいほど大切な存在がいる。
白と黒の毛並みをした、ハチワレの猫。
ずいぶん前から一緒に暮らしている、私の大切な家族だ。
普段は猫らしく、気ままに過ごしている。
甘えたいときには甘え、そうでないときには知らん顔。
けれど、そんな彼には不思議な一面がある。
時々、一階から母の声が聞こえてくる。
「なんで何もしないのに、シャーって言うんだい!」
母が、私の息子に向かって言っているのだ。
一度や二度ではない。
もうずいぶん前から、母と鉢合わせしたときや、母が近くに来たときに、彼は威嚇するらしい。
母の言うとおり、何もされていないのかもしれない。
少なくとも、私が知る限り、彼が母から何かをされたという話はない。
それなのに、なぜ。 母が嫌いなんだ?
猫には、人間にはわからない何かを感じ取る力があるのだろうか。
母の声なのか、態度なのか、それとも私には気づけない何かなのか。
理由はわからない。
ただ、彼が母に対して警戒心を持っていることだけは、その態度から伝わってくる。
そして私は、時々思う。
もしかしたら、この子は私を守ろうとしているのではないか、と。
もちろん、猫は言葉を話せない。
本当の気持ちを聞くこともできない。
それでも、そう思わずにはいられない出来事だ。
一ヶ月ぶりに帰った、私の部屋
私は今年、手術のために一ヶ月ほど入院していた。
退院して、ようやく家に帰った日。
二階にある自分の部屋へ向かった。
すると、部屋の奥から彼が出てきた。
いつものように駆け寄ってくるのではなく、どこか警戒するような、不審そうな足取りだった。
その姿を見た瞬間、胸が締めつけられた。
この子は、私がいない一ヶ月間、どんな気持ちで過ごしていたのだろう。
階段を上がってくる足音が聞こえるたびに、耳を澄ませていたのではないだろうか。
今度こそ、私が帰ってきたのだろうか。
それとも、また違う誰かなのだろうか。
そんなふうに、何度も確かめていたのかもしれない。
「テツ」
名前を呼んだ。
すると彼は、ようやく私だとわかったように近づいてきた。
そして、安心したように体をすり寄せてきた。
ああ、待っていてくれたんだ。
そう思ったら、胸がいっぱいになった。
一ヶ月という時間が、彼にとってどれほど長かったのか。
私は病院で毎日を数えていたけれど、彼には私がいつ帰ってくるのか、知るすべもなかった。
ただ待つことしかできなかったのだ。
言葉がなくても、伝わるもの
人間は言葉を使う。
好きだと言うこともできる。
嫌いだと言うこともできる。
けれど、言葉と心が必ずしも同じとは限らない。
一方、動物は言葉を持たない。
その代わり、表情やしぐさ、態度で気持ちを伝えてくる。
私の息子は、母に向かって「シャー」と威嚇する。
それが何を意味しているのか、私には正確にはわからない。
けれど、私に向ける態度はまったく違う。
肩に乗り、膝の上で眠り、顔をすり寄せ、何度も手を舐めてくる。
夜になれば、私の隣で眠る。
トイレに行けば、出てくるまで待っている。
七キロもある大きな体で、まるで小さな子どものように甘えてくる。
私が思っていた以上に、この子は私を必要としているのかもしれない。
そして、私もまた、この子に支えられている。
母との関係に心を痛める日々の中で、何も言わずにそばにいてくれる存在。
私を責めることも、否定することもない。
ただ、私のそばにいることを選んでくれる。
それだけで、どれほど救われているだろう。
私の小さな戦士へ
母に威嚇する彼を見るたびに、私は不思議な気持ちになる。
私が母との間に感じている距離を、この子も何かの形で感じ取っているのだろうか。
それとも、単に母が苦手なのだろうか。
本当のところは、わからない。
けれど、私には彼が小さな戦士に見えることがある。
言葉を持たず、何も説明できないまま、自分の気持ちを精いっぱい表している。
小さな体ではないけれど、その存在は、私にとってかけがえのない小さな戦士なのだ。
今、その戦士は私の膝の上で眠っている。
さっきまで私の手を何度も舐めていたのに、安心しきった顔で目を閉じている。
そのぬくもりを感じながら、思う。
もう、誰かと戦わなくてもいいんだよ。
ただ、こうしてそばにいてくれるだけでいい。
あなたが私を守ってくれているように感じることがあるけれど、私もあなたを守っていきたい。
一ヶ月も待たせてしまったね。
帰ってきた私を迎えてくれて、ありがとう。
私の大切なハチワレの息子。
癒してくれて、寄り添ってくれて、ありがとう。
**あなたが安心して眠れる場所を、これからも私が守っていくからね。**
そして、あなたがそばにいてくれる限り、私にも安心できる場所がある。
それが、何よりもうれしい。
*紫雲の月*