死神のカードを見た瞬間、その方は「よかった」と言いました。
私は少し驚いて、顔を上げました。
怖がられることの多いカードです。名前だけで身構える方もいます。それなのに、向かいに座っていた方は、さっきより明らかにほっとしていました。
「もう、終わっていいんですね」
その日のご相談は、仕事を辞めるかどうか、でした。
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その方は、今の仕事が嫌いなわけではありませんでした。
慣れているし、頼りにもされている。自分が担当した仕事がうまくいけば、うれしい。職場に、好きな人もいる。
でも、日曜日の夕方になると、急に口数が減ってしまう。
買い物をしていても、明日の仕事を考えている。寝る前には、何か忘れていないか確認したくなって、仕事の連絡を開いてしまう。
「辞めたら、迷惑をかけると思うんです」
そう話してくださいました。
私は、辞めたいと思っていることを、職場の誰かに伝えたか伺いました。
まだ、とのことでした。
理由を聞くと、「今、忙しい時期なので」。
では、少し落ち着くのはいつ頃なのか。
その方は考え込んだあと、小さく笑いました。
「それが、毎月、忙しいんですよね」
私も、つられて笑いました。
今月が終われば、と待っているうちに、来月の忙しさが始まる。そういう職場は、確かにあります。
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霊視で受け取ったのは、今の場所から離れたい気持ちと、それを口にしたあとの周囲の反応を気にする感覚でした。
新しい仕事への期待よりも、「辞めると言ったら、どんな顔をされるだろう」という心配が強く残っていました。
カードを広げると、死神が出ました。
私はこのカードを、区切りや変化として読むことがあります。その日の鑑定でも、続けてきたことを終え、次へ進む流れを感じていました。
お伝えしようとしたところで、先に「よかった」と言われたのです。
「そのカードを見て、何を思われましたか」
そう伺うと、その方は言いました。
「私、辞めたいって言っていい理由を、探していたのかもしれません」
会社の悪いところを説明できれば、辞めてもいい。
誰が聞いても納得するほど大変なら、辞めてもいい。
でも、そこまでひどい職場ではないから、自分が我慢するべきなのだと思っていたそうです。
「いい人もいるんです。だから、辞めたいと思うのが申し訳なくて」
その言葉は、よく分かりました。
お世話になった人がいる場所を離れるときには、感謝していることまで否定するような気持ちになることがあります。
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ただ、あのカードが出たからといって、その場で退職を決めていただいたわけではありません。
次の仕事のことも、生活のこともあります。鑑定では、離れる場合の流れに加えて、準備に使う時間や、今の職場で確かめておきたいこともお伝えしました。
途中で、その方が手帖に何かを書き始めました。
「何を書かれたんですか」
「上司に話すことです。まだ退職届は出せないけど、相談はできるかなと思って」
来月も再来月も、黙って同じように働いていると思っていた方が、自分から話す予定を考え始めていました。
その変化が、私はうれしかったです。
鑑定の終わりに、その方はもう一度、死神のカードを見ました。
「最初、この絵が出てきたら怖いだろうなと思っていたんです。でも、今日は、これが出てよかったです」
カードを片づけながら、私は、最初の「よかった」を思い返しました。
その一言がなければ、私はもう少し長く、カードの説明をしていたかもしれません。
けれど、その方には、先に話したいことがあったのでしょう。
占い師をしていても、相手の言葉を聞いて初めて分かることがあります。あの日は、カードを説明する手を止めて、聞けてよかったと思っています。