デザインを知ると、毎日が少しだけ豊かになるーー第25回 光と高さが天へ導く「ゴシックの装飾」

デザインを知ると、毎日が少しだけ豊かになるーー第25回 光と高さが天へ導く「ゴシックの装飾」

記事
デザイン・イラスト

第25回 光と高さが天へ導く「ゴシックの装飾」

前回ご紹介したロマネスクでは、教会の壁や入口に彫刻が組み込まれ、建築そのものが物語を伝えるようになりました。その流れを受けながら、12世紀頃のフランスを中心に誕生し、ヨーロッパ各地へ広がっていったのが「ゴシック」です。

重厚な石の壁に囲まれたロマネスクの教会から、空へ向かって伸びる高い塔と、色鮮やかな光に満たされたゴシックの大聖堂へ。建築の変化とともに、装飾のあり方も大きく変わっていきました。

横から縦へ、建築が空を目指す

ロマネスク建築には、厚い壁や半円アーチなどによる重厚で安定した印象があります。それに対してゴシック建築を特徴づけるのは、強い「垂直性」です。

尖頭アーチ、リブ・ヴォールト、フライング・バットレスなどの建築技術によって、高く大きな教会をつくることが可能になりました。柱や窓、尖塔など、さまざまな要素が上へ上へと伸びていきます。

その姿は、見る人の視線まで自然に上へ導きます。建築の形そのものによって、天上の世界を感じさせようとしたとも考えられるでしょう。

石の壁が「光の壁」へ変わる

ゴシック建築の発達によって、壁には大きな窓を設けられるようになりました。そこで重要な役割を果たしたのが「ステンドグラス」です。

赤、青、黄、緑などの色ガラスを組み合わせ、聖書の物語や聖人、植物、幾何学文様などを表現します。太陽の光がガラスを通り抜けると、教会内部には色彩を帯びた光が広がりました。

ここで面白いのは、装飾そのものが光を受けるのではなく、「光そのものが装飾になる」ことです。時間や天候によって光の入り方が変われば、室内の表情も変化します。

ビザンチン美術では黄金のモザイクが光を反射して神聖な空間をつくりました。それに対してゴシックでは、光を色ガラスに通すことで空間そのものを染めていきます。同じ「光」を使いながら、まったく異なる表現が生まれたのです。

巨大な花のような「バラ窓」

ゴシック建築を象徴する装飾の一つが「バラ窓」です。

教会の正面や翼廊などに設けられた大きな円形のステンドグラスで、中心から放射状に広がる構造が、花びらを開いたバラのように見えることからこの名で呼ばれています。

円の中には幾何学的な構造が規則正しく配置され、その間を色鮮やかなガラスが埋めていきます。自然の花をそのまま描くのではなく、円、対称、反復という幾何学的な秩序によって、巨大な花のような造形をつくり出しているのです。

これまで世界の文様で何度も登場した「自然の形を整理し、規則性を与える」という方法が、ここでは建築そのもののスケールにまで拡大されています。

自然をよく見ることから生まれた装飾

ゴシックの時代には、植物や人物などを以前より自然に観察しようとする表現も発達していきました。

教会の柱頭や入口を見ると、葉や花などが石の中から伸びているような彫刻があります。初期には様式化された植物表現も多く見られますが、時代が進むにつれて、実際の植物を観察したような自然な形も増えていきました。

人物表現にも変化が現れます。ロマネスクでは建築の形に合わせて身体が引き伸ばされることもありましたが、ゴシックでは次第に身体の動きや表情、人間らしさが感じられるようになっていきます。

こうした自然や人間への関心は、その後のヨーロッパ美術の変化へとつながっていきます。

建築だけではないゴシックのデザイン

ゴシックというと大聖堂を思い浮かべますが、この時代に発達したのは建築だけではありません。

金属工芸、織物、装飾写本、タイル、家具、ステンドグラスなど、さまざまな分野で豊かな装飾が生み出されました。建築から小さな工芸品まで、共通する造形や装飾の考え方が広がっていったのです。

これは現代でいう「デザインシステム」にも少し似ています。一つの考え方が建築だけに使われるのではなく、文字や家具、室内装飾、工芸品などにも展開されることで、その時代を象徴する統一された世界観が生まれていきます。

そして、再びウィリアム・モリスへ

ここでも、私たちが第4回で出会ったウィリアム・モリスにつながります。

19世紀のイギリスでは、中世ゴシックの建築や工芸を再評価する「ゴシック・リヴァイヴァル」が広がっていました。モリスも中世の建築や手仕事を深く愛し、その思想から大きな影響を受けています。

ただし、アーツ・アンド・クラフツ運動を単純に「ゴシック様式を復活させる運動」と考えるよりも、モリスたちが中世のものづくりに見いだした価値を、産業化した19世紀の社会に取り戻そうとした運動と考える方が分かりやすいでしょう。

職人が素材と向き合い、自らの手で美しいものをつくること。建築、家具、壁紙、本などを別々のものではなく、暮らしを形づくる一つの環境として考えること。モリスが中世から学んだものは、単なる装飾の形だけではなく、「ものをつくる姿勢」そのものだったのです。

おわりに

ゴシックの大聖堂に入ると、視線は高い天井へ導かれ、巨大なステンドグラスから差し込む色彩の光に包まれます。そこでは建築、彫刻、文様、色、そして光までが一つになっています。

これまで見てきた装飾は、石や布、紙など「物の表面」に施されるものが中心でした。しかしゴシックでは、そこに「光」という形のないものまで加わりました。

形をつくる。色を選ぶ。素材を組み合わせる。そして、人がその空間に入ったときに何を感じるのかまで考える。

そう考えると、ゴシックの大聖堂は単なる巨大な建築ではありません。人間の視覚や感情まで含めて設計された、一つの壮大なデザインだったのです。

【参考資料】
図案や作品画像を含む、より詳しい参考資料については、私が別途まとめている記事でもご紹介しています。
ココナラの仕様上、この場で具体的なURLは記載できませんが、検索エンジンで「増田恵一デザインブログ」などと検索すると、関連する記事が見つかりやすくなります。
サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す