「豪華客船のスイート」から招待状が届いた、濃い味が欲しくなるあなたへ。
すべてを委ねて感覚をリセットする旅に出る前に、まず駅のロッカーに置いていきたい荷物がひとつあります。
## 旅に出る前に、まず置いていくもの
それは、「物足りなさを感じたら、とりあえず調味料や薬味を足す」という習慣です。
味がぼんやりしていると、パッと味を足してすぐに満足感を得たくなる気持ちはよく分かります。ですが、その「足してごまかす選択」の積み重ねが、感覚をさらに強い刺激に慣れさせ、本来の感度をどんどん鈍らせてしまっているのです。
## なぜ「足し算」が感覚をさらに鈍らせるのか
私たちの舌にある味覚センサー(味蕾)や、脳が満足感を感じるシステムは、常に強い刺激(塩分、糖分、辛味など)にさらされ続けると、「これ以上過剰に反応しないようにしよう」と自ら感度を下げるバリアを張ります。生理学や神経科学で「感覚順応」や「受容体のダウンレギュレーション」と呼ばれる防衛反応です。
このバリアが張られると、味覚の基準(閾値)そのものがグッと上がってしまいます。すると、以前と同じ満足感を得るために、より多くの醤油、より強いスパイスといった「さらに強い刺激」が必要になっていきます。
物足りなさをその都度「足し算」で埋めていく行動は、感覚のバリアをどんどん分厚くし、「ちょっとやそっとの味や喜びでは何も感じられない」という悪循環から抜け出しにくくしてしまうのです。
## 荷物確認、一緒にしてみませんか
「足してごまかす習慣」の他にも、あなたの旅行カバンを重くしているものがあるかもしれません。
食事の風味にゆっくり向き合う時間の少なさ、限界まで頑張りすぎている自覚のなさ、何もしない休息への後ろめたさ——。人によって、隠し持っている荷物はさまざまです。
あなた専用の「旅のしおり(ロードマップ)」を作りながら、専属コンダクターの私と一緒に荷物を確認してみませんか。
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― Dóna Salus ―
【今回のキーワード】
「感覚順応」
【参考】
論文タイトル:The addition of sweetness reduces aversion to high salt concentrations in patients with chronic kidney disease(慢性腎不全患者では、甘味添加が高濃度の塩分に対する忌避反応を軽減する)
掲載誌: Scientific Reports(2025年)
内容:通常、人間は海水レベルの濃い塩分(約3.4%)に対しては「塩辛すぎる」として強い嫌悪感(忌避反応)を示します。しかし、その濃い塩味に甘味を加えると、塩辛さを嫌う反応が大幅に減少することが判明しました。
つまり、照り焼きや濃い煮付けのような「甘辛い・甘じょっぱい」味付けは、脳の「味が濃すぎる」という警告を打ち消してしまい、さらに味が濃いものを限界を超えて食べ続けられる状態を作ってしまいます。
論文タイトル:An adaptive network model for pain and pleasure through spicy food and its desensitization(辛い食べ物を通じた痛みと快楽、およびその脱感作(感覚鈍麻)に関する適応型ネットワークモデル)
掲載誌: Cognitive Systems Research(2021年)
内容:辛い食べ物への欲求は単なる味の好みではなく、脳の「痛み」と「報酬」のシステムが複雑に絡み合った神経科学的なプロセスです。この論文は、辛い食べ物による一時的な痛みが、どのようにして長期的な快楽や耐性の獲得へと変化していくのかを、計算モデルを用いて理論的に裏付けた画期的な研究として評価されています。