私が、T自動車の大学校で働いていた頃の話です。
私の職場に、Sさんという契約社員だか嘱託だか、まぁ細かいことは忘れましたが、ボイラーマンのおじさんがいました。
Sさんは、定年退職するまでは、あの有名家電メーカーP社に勤めていた方で、かなり偉いところ(部長)まで行っていた人です。
そんな偉い人がボイラーマンとして雇われたのはいいものの、
やっぱりP社の部長の癖が抜けなくて、
本来ならボイラー室にいるべきところ、席もないのに本部事務局に常駐(笑)しておりまして、
「P社ではこう考える!」
という話が大好きでした。
T自動車のやり方についても、
「P社ではそんなことでは通用しない!」
「P社ならこうする!」
と、よくT自動車の幹部を相手取って言っていました。(今は、嘱託のボイラーマンなんですけどね)
Sさんが、あまりにもうるさいから、ボイラー室のI係長(Sさんの上司)が呼びつけられて、
「Sさんには仕事なんかさせなくていいから、ボイラー室に監禁しとけ!」
という命令が下されたほどでした(笑)。
で、
その後Sさんの「ありがたい?」お話を、I係長が聞き続けるはめになりました。
そんなSさんが、ある日、総務のIさんという女の子に、
「俺の名刺を作ってくれ」
と言ってきました。
本来、Sさんは名刺を持つような立場ではなかったのですが、Iさんは気を使って、肩書きなしの名刺を作ってくれました。
ところが、Sさんはその名刺を大量にばらまき始めました。
どこで配ったのかというと。
P社時代から行きつけだったクラブや飲み屋です(笑)。
ママやら、お姉ちゃんやら、そこに来ているお客さんやらに、
「俺、T自動車に、常務役員としてスカウトされたんだ!」
と名刺を配りまくったらしい。
そして、わずか数週間で名刺を使い果たしました。
それで、総務に、
「また名刺を作ってくれ」
とやって来たそうです。
総務のIさんいわく、
「これって、学長や営業担当の名刺の使用量をはるかに超えてるわ」
とか言っておりました。
しばらくすると、職場にハガキや封筒が届くようになりました。
宛名を見ると、どの郵便物にも、
「T自動車〇〇大学 総務担当常務役員 S様」
と書いてあります…。
職場では、
「Sの奴、いつの間に常務になったんだ(笑)」
と話題になりました。
もちろん、常務になんかなっていません。
Sさんが、クラブや飲み屋で
「俺はT自動車の常務役員だ!」
と言うから、そんな郵便が届くのです。
まぁ、Sさんにとっては、
P社の元部長様
↓
T自動車の常務役員
ですから、
Sさん本人にしたら「大出世」かもしれませんけど、実際にはボイラー室に監禁されてるんですけどね。
そして、ある日のこと。
Sさんが、県議会議員と、防災用品会社の社長さんを連れてきました。
Sさんは、
「この方たちを応接室に通してくれ」
と言ったそうです。
しかし、嘱託でボイラーマンのSさんが使えるような応接室はありません。
仕方がないので、案内された場所は……
やはりSさんが監禁?されてる薄暗いボイラー室でした。
そこに、
①県議
②防災用品会社の社長
③私(課長補佐)
④I係長
⑤Sさん
が集まり、防災用品の営業が始まりました。
県議と社長さんは、おそらく、
「T自動車の常務役員に営業に来た」
と思っていたはずですし、S常務役員がひとこと言えば、私やI係長はひれ伏して、「かなりでかい取引になる!」と思っていたことでしょう。
ところが、ここで総務の女の子がお茶を運んできました。
お茶を出した順番は、
①県議
②社長
③私
④I係長
⑤Sさん
でした。
そりゃまぁ、当然そうなりますわね(笑)
でも、県議と社長さんからすれば、
「あれ?常務が最後なの?」
と思ったに違いありません。
しばらくして、防災用品の営業が始まりました。
私は当時、防災担当もしていまして、
「いや、特に必要ありませんね」
同じく防災担当のI係長も、
「いやー、予算はありませんよ」
と言って断っちゃいました。
ところが、Sさんだけは真っ青になって焦り始めました。
そして、
「原さん、I係長。お願いですから、何でもいいし、いくらでもいいですから、何か買ってあげていただけませんでしょうか?」
と、ものすごく猫なで声でお願いしてきました。
S常務役員が部下(実際は上司ですけど)にすがってお願いしてるとは、実に奇妙な光景ですわね。
まぁ、そこまで言われると、私もI係長も、なんだか哀れになってきました。
そこで私とI係長で、
「じゃあ、これぐらいなら」
ということで、防災用の缶詰を5,000円分ほど買いました。
ところが、後日。
I係長が、
「防災倉庫は狭いし、片付いてないのに、わずかばかりの缶詰をどこに置こうか?」
と言うから、
私は、
「こんなの買ったの誰も知らんし、2人で食っちゃえ!」
ということで、
数日かけて食っときました。(笑)
ちなみに、Sさんの口から、
松下幸之助
という名前だけは、一度も聞いたことがありません。
あれだけ、
「P社ではこう考える!」
と言っていたのに(笑)。
T自動車の部長さんやI係長も、
「そういえばSさん、松下幸之助の話だけはしないですよね?」
と言っていました。
PS.
T社の幹部にとっては厄介者のSさんでしたが、私みたいな身分の者には優しくて、気さくなおじさんでしたよ。
おしまい。