「社内のスタッフの提案には、あれこれ理由をつけて却下する」
「なのに、外部のコンサルタントが持ってきた同じ提案には、すんなりハンコを押してしまう」
もし、経営者としてそんな身に覚えがあるとしたら
少しだけ、胸に手を当てて考えてみてほしい
なぜ、自分たちは身内の言葉を信じられず、外からやってきた「専門家」の言葉にはノールックで従ってしまうのか
もしかしたら、あなたの会社でも、月60万円の「高性能な伝書ハト」を飼っているだけなのかもしれない
1. 月60万円のフィルターと、ある「実験」
少し前の話
自分が関わっていたビジネスの現場で、あるマーケティングコンサルタントを入れることになった
一般的なコンサルで、マーケティング中心のさまざまな施策を提案してくるタイプの会社
代表からの提案だった
個人的には、そのコンサルは不要だと思っていた
だけど、ある一つの機能が欲しくて、代表には「いいですね、やってみたいです」と伝えた
ひと月の費用は、60万円
おそらく中級クラスの価格帯だと思うが、中小企業にとってはかなりの出費のはず
個人的には最終的な決定をするあらゆることは経営者が下すと思っている
※そうではない企業ももちろんあるし、その場合はこのルールには沿わない
だから、会社のお金をどう使おうと、サラリーマンが口を挟むことではないと思っている
自分がその提案に乗ったのは、借りたかったからではなかった
個人的な、ある「実験」をしたかったから
そのコンサルタントの仕事の進め方は、いい意味で本当に典型的だった
最初に、エクセルのシート10ページ分くらいの膨大な質問票に記入させられる
その後に、1〜2時間ほどの面談
最初に言っておくけれど、このプロセス自体は必要なものだとは思う
だけど、自分にとっては、これは「儀式」に近いものだと思っている
10ページもの資料を必死に書いたのだから、なにか凄い提案をしてくれるはず
2時間も熱心に面談をしたのだから、きっと自分たちのことを深く理解してくれたはず
ここには、実益というよりも、もっと大きな別の成果がある
それは「信頼」と「安心」の醸成
心理学で言う、サンクコスト効果とハロー効果のブースト
これだけのコストと時間をかけているのだから、きっと大丈夫
ここまでの準備をしたのだから、この提案は間違いない
クライアント側にそう思わせるための、壮大な演出のようなもの
そして、自分がやりたかった実験は、と言うと
「過去に自分が社内で提案して却下された(あるいは流された)施策と全く同じ内容を、そのコンサルタント経由で代表に提案させたら、どうなるか」
結果は、予想していたとは少し悲しい結果ですが
すべて、ほぼノールックで承認された
追加のコストがかかるものであっても、経営者はすんなりと承認のハンコを押した
自分としては、その施策を実行すれば確実に効果が出ると分かっていたから、手段はどうであれ結果が欲しかった。というより、単純に仕事に飽きていたので違ったことがしたかった、というのもあった。
実際、SNSの数値は伸び、客数も売上も目に見えて向上した
(外部要因も大きく働いたので、コンサルタントにとってはラッキーだったと思うけれど)
だけど、ここで考えなければならないのは、施策の成否ではない
なぜ、社内の人間が同じことを提案したときは動かなかった経営者が、外部の「月60万円のフィルター」を通した瞬間、従順に動いたのかということ
2. でっちあげられた確証と、現場の沈黙
こういうことは、本当に多くの組織で起きていると思う
本当に本当に多いと思う
社内の意見は聞けないのに、外部の専門家の意見はすんなり耳に入ってくる
事前の大げさな下準備や、高いコンサルフィーという「フィルター」があるから、経営者の目にはその提案が実力以上に過大評価されて映る
社内から出た意見は、経営者から見ると「余計なコスト」に見えてしまう
あるいは、その効果が100%保証されていないと、ハンコを押すのが怖い
「お前の言っていることは分かるけど、これだけのコストを払って効果が出る確証が持てない」
そうやって、社内の提案は潰されていく
だけど、どんな施策であっても、最初から100%の結果が分かっているものなんて存在しない
初めてやることで結果が最初から保証されているなら、世界中の全員がやっているはず
かけたコストに対して、どれくらいのリターンが返ってくるかなんて、誰にもわからない
それでも、返ってくるだろうという仮説を立てて、その仮説を補強するための根拠を集める
他社の実績や、他社の事例
それでも、社内の人間が持ってきた根拠では、経営者のGOサインは出ない
「コストをかけずに、その効果を出してくれ」
そんな魔法のような注文を現場に投げる
そんな都合の良い魔法なんて、この世には存在しない
いや、なんなら、今世の中に出回っている一般的なマーケティング施策は、どれをやってもそれなりに結果は出ると思う
その実行者が、ちゃんと実行しさえすれば
それまでゼロだったもの、動かさなかったもの、変化のなかった場所に、新しくエネルギーを投下するのだから
よほど的外れなものでなければ、公式LINEを始めるのも、SNSの広告を打つのも、キャンペーンをやるのも、ちゃんとやれば絶対にプラスの変化は生まれる
では、なぜ多くのコンサルティングやプロジェクトが失敗するのか
その理由は、極めてシンプルだと思う
経営者とコンサルが、現場の頭越しに勝手に決めた施策が、上から降ってくるから
ただでさえ日々の業務で手いっぱいの現場のスタッフに、さらに重たいタスクが乗っかる
現場は疲弊し、当然、実行ができなくなる
すると、今度は「なぜ実行できないのか」と追及され、社内の人間が責められるようになる
「これをやれば結果が出る仕組みなんだから、なぜやらないのか? やる気がないのか?」
そんなふうに責められても、現場の本音はこうだと思う
「やる気なんて、あるわけない」
「やりたくない」
「今やっていることで、もう精一杯だから」
経営者とコンサルがどれだけ美しい絵を描いても、動くのは結局、現場の人間
現場が動かなければ、どんな秘伝のタレもただの絵に描いた餅になってしまう
3. 高性能な伝書ハトの役目
たまに、「自分たちが現場に入って実行までやります」というコンサルタントもいる
これ自体は、コンサルティングが機能不全になる一番の理由なので最初につぶしにくる。
「自分たちもサポートします」
「わからないことがあったらすぐに連絡ください」
「どこで躓いてますか?」
などなど…
だけど、これはこれでで現場にとっては別の迷惑になることが多い
その会社の人間関係、ツールの使い方、部署ごとの力関係、暗黙のルール
それらをいちいち、外部のコンサルタントに説明して教育しなければならない。最初のエクセルのシートに記載はするが、それが本当の意味でつかわれることはない。AIエージェントのMDファイルのように前提として機能はしない。知識としては入ってるが、それを読み解く「Skills」がインストールされていないので、引き出せない。
なので、「この説明にかける時間があるなら、自分でやった方が早い」と現場は辟易する
コンサルの本質的な価値は、効果的な施策を打つことではないのかもしれない
彼らの本当の役割は、経営者に届かなかった「社内の声」を、月60万円という高いフィルターをまとって届けることかもしれない
「高性能な伝書ハト」
そう考えると、辻褄が合う
だけど、現場から見れば、そんなハトが連れてくる仕事は、ただの面倒な仕事でしかない
現場が本当に欲しがっているのは、新しいマーケティング施策ではなく、十分な人手と、納得のいく給料だけだから(これはこれで、そういう現場の思い込みだととも思ってはいる。きっと、現場が本当に欲しいのは別のところにあると思う。)
もし、あなたの会社に、ちゃんと熱量を持ったスタッフがいるのなら
そして、そのスタッフが何かを提案してきたのなら
経営者は、その提案を「いったん全部」やらせてみるべきだと思う
リスクがどうとか、コストがどうとか
そんなことは、実はめちゃくちゃ些細なこと
もちろん、予算の限界はあると思う
だから、その「限界をどこに設定するか」だけを事前にすり合わせておいて、あとはスタッフを信頼して動かしてみる
経営者が思っている以上に、現場のスタッフは会社の改善策やアイデアを握っている
なんなら、いや、当たり前だけど、それはその会社の人間が一番わかっているし、もっている。
ただ、それらは根拠のない「愚痴」として処理される。
ただ、それられは「効果の確証は?」と詰められる火種にしかならない
そして、「言っても無駄だ」という諦めの空気や風土が、社内に蔓延していく
それは、組織のコミュニケーションの軋みであり、別の根深い問題だと思う
4. 自分が「人」に対して、コンサル的な関わりではなく、コーチになった理由
ここまで話していてなんですが
自分がコンサルタントという立場ではなく、コーチという「あり方」を選んだ理由は、まさにここにある
昔、趣味として本業のマーケティング・広報として、いろんな人にコンサル的な解決策やアイデア、具体的な施策を伝えていた時期があった
「こうすれば上手くいきますよ」と、具体的な答えを教えていた
だけど、誰も実行しなかった。
比率でいうと0.1:9.9くらい。100人いたら1人ちゃんと行動する人がいるくらいの感じ。でもその一人はちゃんと結果だしてましたね(たぶん、その人は僕が言っても言わなくても自分で調べて結果的には成果だしてたと思いますが)
まぁ、確かに無料でやっていたし、会話のなかのアドバイスだったのでそもそもが機能するための下地がつくられていなかったとは思いますが、
それでも…
どれだけ素晴らしい秘伝のタレを渡しても、相手が自分で「やりたい」と心から思わなければ、体は動かない
どれだけ正しい答えを外から与えても、人は動かないという事実に、自分はうんざりした
だから、外から答えを与えるコンサル的なかかわりをやめて、相手の心の内側から「やりたい」を引き出すコーチングを学び始めた
コーチングは、世間で言われるほど万能な魔法ではない