それは、冬の気配が街の隅々に染み込む頃のことでした。
いつもより重く、湿った空気の夜。
私はある女性からの依頼を受け、深夜にひとり、静かにキャンドルを灯していました。
彼女の願いはひとつ──
「もうこの世にはいない、かつての恋人とつながりたいんです。
でも、本当に彼がいたのかさえ、自信がなくなっていて……」
名前も、顔も、最後の言葉も。
すべてが“夢だったのでは”と思うほど、記憶が薄れてきていたといいます。
けれど、彼女の魂の奥底には、まだ「約束の灯火」のような何かが、かすかに揺れていました。
私は深く息を吸い、彼女の波動をそっと心の中に広げました。
ふと、胸のあたりにぬくもりのような感触が届いてくる。
それは、ふいに吹く春の風のように、やさしく切ない“気配”でした。
──彼は、まだそこにいる。
それが直感ではなく、“響き”として確かに伝わってきた瞬間、
言葉ではない言葉が、心の底から浮かびあがってきました。
「ずっと、ここにいた。
忘れられても、名前を呼ばれなくても──
君を見ていた。君の時間を、遠くから祝福していた。」
私は涙が止まりませんでした。
彼女の代わりに、彼の言葉を受け取る通路となっていた私は、
彼の魂に満ちた深い深い愛の振動に触れてしまったからです。
そして彼は、こう続けました。
「あのとき言えなかったことがある。
怖かったんだ。
君の愛を、受け取ってしまえば…もう戻れない気がして。」
彼は、この世での人生に深い葛藤を抱えながらも、
彼女の愛だけはずっと“聖域”として心に残していた。
だからこそ、自分の未熟さがそれを壊してしまうのではと、
最後の瞬間まで「伝える」ことを選べなかった──
彼の魂は、ようやくいま、時を超えてそれを悔いていた。
チャネリングの最後に、彼はひとつの映像を私に見せてくれました。
──満開の木蓮(もくれん)の下で、彼女が本を読んでいる。
──その横に座る青年の姿。
──何も言わず、ただそっと手を添えていた。
「次の春。
彼女が、ふと木蓮の香りを感じたなら──
そのとき、そっと僕のことを思い出してくれればいい。
もう、それだけでいいんだ。」
チャネリングが終わる頃、
私は彼女に静かにその言葉を伝えました。
彼女はしばらく、何も言いませんでした。
でも最後に、ぽつりと、こう言ったのです。
「……彼、本当に木蓮が好きだった。
春にしか見えない白い花って、
私にだけ教えてくれたんです──」
失われた愛は、本当に失われたわけではない。
言葉が届かなかったあのとき、
想いは、魂の奥深くに未送信のままの手紙のように残っていた。
チャネリングとは、
その手紙を、そっと開いて読んであげることなのかもしれない。
時間を超えて
記憶を超えて
生と死すら超えて──
魂が、ほんとうに伝えたかった「最後のひとこと」に、光を当てる行為。
それが私、遥彼方の「愛のチャネリング」です。