9時台のロングが12pips取れて、その日は終わり。
数字だけ見れば悪くない日です。それなのに、私は少し落ち込んでいました。
頭の中に「平均24.9pips」という数字があったからです。今日はそこに届かなかった、と。
でも記録を見返して、考えが変わりました。その平均に届いた日は、10日のうち3日しかなかったのです。
届かないほうが普通でした。手法ではなく、目標の置き方がずれていただけでした。
では、少しずつ解説していきます。
1.期待値とは、1回あたりの平均のこと
期待値というのは、1回のトレードで平均していくら増えるか(減るか)という数字のことです。
計算は単純です。
勝率 × 平均利益 − 負ける確率 × 平均損失。
これだけになります。
勝率でも、連勝記録でもありません。1回あたりに何が残るかを見る数字です。
2.私の9時台の記録では、10日中7日が平均に届きませんでした
では、実際の数字で説明していきます。
7月20日から8月5日までの11営業日、ドル円の9時台の記録です。ロングが成立したのは10日。
1. 合計 248.8pips
2. 平均 24.9pips
3. 中央値 12.8pips
中央値とは、成績を小さい順に並べたときの真ん中の値のことです。
平均は24.9、真ん中は12.8。ほぼ2倍の開きがあります。
平均の24.9pipsに届かなかった日は、10日のうち7日でした。
つまり、「平均24.9pips」を1日の目標にすると、10日のうち7日は未達で終わるということです。
理由は最大値です。最小3.4pips、最大97.8pips。28.8倍の差があり、この1日が平均を押し上げていました。
私1人の、しかも11営業日の記録なので母数は小さいです。ただ、この形は私に限った話ではありませんでした。
3.勝率70%の手法でも、資産は減ることがあります
ここが最も重要になります。
同じ100回で、2つの手法を比べてみます。損切り幅を1として、利益をその何倍取るかで計算します。
手法A。勝率70%、平均利益は損切り幅の0.4倍。
0.7 × 0.4 − 0.3 × 1 = −0.02
100回で −2.0。勝率7割なのにマイナスです。
手法B。勝率40%、平均利益は損切り幅の2倍。
0.4 × 2 − 0.6 × 1 = +0.2
100回で +20.0。
つまり、勝率が3割低いほうが、100回後には22.0ぶんの差をつけて勝っています。
勝率は期待値の半分でしかありません。もう半分は「1回の勝ちと負けの大きさ」です。
4.平均が中央値より大きくなるのは、相場では普通です
私の記録の話をしましたが、これは個人の偏りではありません。
アメリカの大学で金融を研究するベッセンバインダー氏が、1926年から2016年までの米国株、約2万6千銘柄を調べています。
分かったことは3つです。
1. 7銘柄のうち4銘柄は、生涯のリターンが1か月物の米国債を下回っていた
2. 途中で上場廃止になった9,187銘柄の、生涯リターンの中央値はマイナス91.95%
3. 市場全体の資産の増え方は、上位4%の銘柄だけでほぼ説明できてしまう
これは株の研究であって、FXの研究ではありません。そこは分けて考える必要があります。
ただ、共通しているのは形です。少数の大当たりが平均を引き上げ、多数派は平均より下にいる。 相場の成績は、こういう歪んだ散らばり方をしやすいという話になります。
だから計画は平均ではなく、中央値で立てるほうが安全になります。私も月の想定は中央値で置くようにしています。
5.10回や20回では、期待値は測れません
では、何回やれば自分の期待値が分かるのか。
計算すると、想像よりずっと多いです。
勝率60%の手法を10回試したとき、5勝以下(勝率50%以下)で終わる確率は36.7%あります。3回に1回以上は「勝率5割の手法だ」と見えてしまう計算です。
勝率を誤差プラスマイナス5%の範囲で測ろうとすると、必要な試行はおよそ380回になります。
私の11営業日の記録も同じです。平均24.9pipsの信頼できる幅を計算すると、7.2pipsから42.6pipsまで開きます。この回数では、まだ何も確定していません。
ちなみに、少ない回数を信じてしまうのは知識の問題ではないようです。
心理学者のトベルスキー氏とカーネマン氏が1971年に発表した研究では、専門の心理学者84人に質問をしています。少ない標本で出た結果が再び出る確率を、専門家たちは平均0.85と見積もりました。計算上の値は0.48程度でした。
訓練を受けた専門家でも、小さいサンプルを過大評価します。だから初心者が10回で手法を捨てるのは、意志や知識の問題ではありません。人間の標準装備です。
野球で例えるなら、4打席ノーヒットだったからバットを変える、みたいなことをしています。次はストレート?カーブ?と迷う前に、まず打席数が足りていない。
そして、期待値がプラスの手法(先ほどの手法B)でも、100回のうちどこかで5連敗が起きる確率は97.6%です。ほぼ必ず来ます。連敗は手法が壊れた合図ではなく、含まれている前提という感じです。
6.私の負けパターン
ここでは最後に、私がやってしまったルール外の負けパターンをお伝えします。
1. 平均に届かない日にロットを上げる 「今日は12pipsしか取れていないから、次で埋めよう」。この発想が一番危険でした。
2. 10回試して勝てなかった手法を捨てる 380回どころか10回です。捨てた理由が期待値ではなく、気分でした。
3. 大勝ちした日の翌日、同じ値幅を狙う 97.8pipsの翌日に、15pipsで決済するのが我慢できなくなる。当たり日は続きません。
4. 連敗の3回目でルールを変える 5連敗はほぼ必ず来ると分かった今は、連敗そのものでは何も変えないようにしています。
数えるのは回数ではなく、遵守率でした。ここは改めて気付いた点です。
7.まとめ
覚えて帰っていただきたいのは3行です。
1. 期待値は「勝率 × 平均利益 − 負ける確率 × 平均損失」。勝率だけでは何も分からない
2. 目標は平均ではなく中央値で置く。平均には少数の大当たりが混ざっている
3. 10回や20回では判定できない。連敗は前提であって、異常ではない
今日やることは一つだけです。
直近10回のトレードを並べて、平均と中央値の両方を出してみてください。
電卓で十分です。並べて真ん中を見るだけでOKです。
その2つが離れているほど、あなたの成績は「たまに来る大きい1回」に支えられています。それが分かるだけで、次に狙う場所が変わります。
以上が、期待値の見方になります。ここまでご覧いただき、誠にありがとうございました。
ここに書いたことは、すべて無料で学べる範囲の内容です。
ただ、実際にやると次の壁が出てきます。
期待値は「同じ条件で繰り返す」ことが前提です。ところが、その条件のほうが毎回ずれます。
1. 時間足を切り替えているうちに、狙っていた場面が終わっている
2. 疲れた日は日足を飛ばし、含み損があると都合のいい時間足だけ見る
3. 昨日レンジと判断したチャートを、今日は上昇トレンドと見てしまう
条件が毎回変わっているなら、集めた100回は100種類の別々のデータです。それでは期待値になりません。
これも意志の問題ではないと思っています。毎回同じ基準で確認し続けること自体が、単純に重い作業だからです。
その前工程について、noteにまとめています。
note:環境認識に、毎日何分使っていますか
判断を任せるものではありません。その前の確認作業を引き受けるだけです。使っても負けるときは負けます。
急いで見る必要はありません。まずは直近10回を並べるところから始めてください。