クラリネットを始めると、一度は言われる言葉があります。
「もっと良い音で吹こう」「良い音を目指して」「音色をもっときれいに」
……でも、ここで初心者が思うのは、
「……良い音って、結局どんな音?」
ではないでしょうか?
「明るい音? 暗い音?」「大きい音?」「柔らかい音?」「プロみたいな音?」
実は、「良い音」に絶対的な正解があるわけではありません。
クラリネットの音色には、息の使い方、アンブシュア、舌や口腔内の使い方、リードやマウスピースなど、さまざまな要素が関係しています。International Clarinet Association(ICA)の教育記事でも、良い音を作る要素として息やアンブシュア、ボイシング、音域ごとの均一性などが挙げられています。
では、初心者は何を目指せばいいのでしょうか?
今回は、「良い音」を初心者にも分かる言葉に置き換えて考えてみます。
まず結論。「良い音」=「きれいな音」だけではない
私が初心者の方に説明するなら、
良い音とは、「自分が出したい音を、安定してコントロールできる音」
と考えると分かりやすいと思います。
例えば、
小さな音が出せる
大きな音が出せる
音が途中で揺れない
音の立ち上がりが安定している
音程が安定している
低音から高音まで音色が極端に変わらない
必要なときに明るく、必要なときに柔らかくできる
こうしたことができる音です。
つまり、
「最初からプロみたいな音を出す」
ことよりも、
「自分の音をコントロールできるようになる」
ことが、初心者にとって大切です。
「良い音」は人によって違う
ここは非常に重要です。
クラリネット奏者の「理想の音」は、全員が同じではありません。
例えば、
Aさん
「柔らかくて丸い音が好き」
Bさん
「明るくてキラッとした音が好き」
Cさん
「太くて深い音が好き」
Dさん
「遠くまでスッと飛ぶ音が好き」
どれもクラリネットの魅力になり得ます。
実際、ICAの過去の教育記事でも、クラリネットの「美しい音」を表現する言葉として、depth(深さ)、stability(安定性)、focus(焦点)、clarity(明瞭さ)、ringとdarknessの適切なバランスなど、複数の要素が挙げられています。また、最終的な音色は奏者自身の個性とも結びつくとされています。
だから、
「この音色じゃないとダメ」
と最初から決める必要はありません。
では「良い音」を5つに分解してみよう
初心者の方には、「良い音」という曖昧な言葉を、そのまま覚えるよりも、
①響き②安定③芯④音色⑤コントロール
に分けて考えるのがおすすめです。
① ちゃんと「響いている」音
まず大切なのが、
音がきちんと振動している感覚。
クラリネットは、息を入れればそのまま音になる楽器ではありません。
息のエネルギーがリードを振動させ、その振動が楽器内部の空気を振動させることで音になります。(UNSW Sites)
だから、
「息をたくさん入れれば良い音になる」
という単純な話ではありません。
息が弱すぎれば、音が息っぽくなったり、響きが不足したりします。
逆に、必要以上に力んで吹いても、良い方向に進むとは限りません。
クラリネットの実験研究でも、吹く圧力とリードにかかる唇の力によって、音量だけでなく音のスペクトルも変化することが確認されています。
② 「音が安定している」
初心者のうちは、
「音が出た!」
だけで嬉しいですよね。
でも、次の段階では、
「その音を安定して出せるか?」
が重要になってきます。
例えばロングトーンで、
「ピーーーー……」
と吹いている途中に、
音程が上がる
音量が小さくなる
音が揺れる
息が足りなくなる
音色が変わる
ということがあります。
これを少しずつ減らしていきます。
良い音を作る練習=難しい曲を吹く
ではありません。
むしろ、
何も難しいことをしていないときに、どれだけ安定した音を出せるか。
ここが基礎になります。
③ 「芯」がある
クラリネットの指導でよく出てくる言葉が、
「音に芯を作って」
です。
でも、初心者には、
「芯って何!?」
ですよね。
簡単に言えば、
音の中心がぼやけず、しっかり存在している感じ
と考えてみてください。
例えば、
芯が弱い音
「フワーー……」
芯のある音
「スッーー」
もちろん、これは文字では正確に表現できません(笑)。
でも実際に吹き比べると、
「あ、この音は中心があるな」
と感じることがあります。
ただし、
芯がある=硬い音
ではありません。
柔らかい音にも芯は作れます。
④ 「音色」がきれい
ここでようやく、みんながイメージする
「きれいな音」
が出てきます。
クラリネットには、
明るい
暗い
柔らかい
太い
細い
温かい
クリア
深い
など、さまざまな音色があります。
ここで面白いのが、
「明るい=良い」でも「暗い=良い」でもない
ということ。
曲によって求められる音色は変わります。
例えば、
明るく華やかな場面
少し明るく、輪郭のある音。
静かで歌うような場面
柔らかく、温かい音。
吹奏楽のユニゾン
周りの楽器と混ざる音。
ソロ
少し個性のある音。
というように、場面によって求められる音は変わります。
⑤ 「音色を変えられる」
実は、ここがかなり重要です。
「私は柔らかい音しか出せません」
というより、
「柔らかい音も、明るい音も出せます」
という方が、音楽では使いやすい。
つまり、
良い音=一つの音色を固定すること
ではなく、
必要に応じて音色を変えられること
でもあります。
クラリネットは音域が広く、さまざまな表現ができる楽器です。ICAも、クラリネットの音色には豊かな倍音や活気があり、息の使い方が音色だけでなくフレージング、ダイナミクス、アーティキュレーションにも関係すると説明しています。
「大きな音=良い音」ではありません
前回の記事、
「先輩に『もっと音を出して』と言われたらどうする?」
ともつながる話です。
初心者の頃は、
大きい音=上手小さい音=下手
と思ってしまいがち。
でも、これは違います。
例えば、
ppで美しく吹く
ことも技術です。
そして、
fで音を崩さずに吹く
ことも技術です。
さらに、
ppからfまで滑らかに変化させる
ことも技術。
だから目指したいのは、
「大きな音が出る人」ではなく、「必要な音量をコントロールできる人」
です。
「良い音」を作るのは、実は息だけじゃない
ここも初心者が誤解しやすいポイントです。
「良い音を出したい!」
↓
「もっと息を入れよう!」
↓
「もっとお腹に力を入れよう!」
となりがち。
もちろん息は重要です。
ICAの教育記事でも、安定した息の流れが音色作りの重要な要素として説明されています。
しかし、音は息だけで決まりません。
例えば、
アンブシュア
舌の位置
口の中の形
リード
マウスピース
リガチャー
楽器
音域
息の圧力
など、さまざまな要素が関係しています。
だから、
「音が悪い=息が足りない」
と決めつけるのは早いです。
じゃあ、初心者は何を練習すればいい?
ここからは実践です。
まず「ロングトーン」
やっぱり基本はこれ。
例えば、
8拍伸ばす
だけでも構いません。
ただし、ただ長く伸ばすだけではなく、
チェックすること
音の出だしはきれい?
音量は安定している?
音程は動いていない?
最後まで響いている?
音色は変わっていない?
を確認します。
次に「小さい音」を練習する
意外とおすすめなのが、
小さい音で吹く練習。
例えば、
pp → p → mp
くらいまで。
小さな音で吹くと、
息のコントロール
アンブシュア
リードの反応
音程
などを意識しやすくなります。
もちろん、無理に極端なppにする必要はありません。
「小さくしても音が痩せない」
ところを探してみましょう。
そして「大きくする」
次は、
pp → p → mp → mf → f
と少しずつ大きくします。
ここで大切なのは、
音量が大きくなっても、音色を壊さないこと。
「大きくなったけど音が割れた」
ではなく、
「同じ音の芯を保ったまま、大きくなった」
を目指します。
クラリネットでは、吹く圧力や唇の力の組み合わせによって音量や倍音の構成が変化するため、単純に「強く吹けばよい」というものではありません。(PubMed)
録音してみると「自分の良い音」が分かる
これはかなりおすすめです。
スマホで自分の音を録音してみてください。
そして、
「上手に吹けたか?」
ではなく、
① 音は安定している?
② 音が細くなっていない?
③ 音が硬くなっていない?
④ 音程は安定している?
⑤ 自分が好きな音色?
という視点で聴きます。
そして可能なら、
「自分が好きなプロ奏者の音」
も聴いてみる。
ICAの教育記事でも、良い演奏を実際に聴くことがクラリネット奏者としての成長につながるという考え方が紹介されています。
「好きな音」を見つけることから始めてもいい
初心者の方には、
「良い音を作らなきゃ」
と考えるより、
「私はどんなクラリネットの音が好きなんだろう?」
と考えてみてほしいです。
YouTubeなどでプロの演奏を聴いて、
「この人の音好きだな」
と思う奏者を何人か見つける。
そして、
何が好きなのか?
を考えてみます。
例えば、
「柔らかいから好き」
「低音が太いから好き」
「高音まで音色が変わらないから好き」
「音が遠くまで飛ぶ感じが好き」
など。
これが、
自分の「音のイメージ」
になります。
ただし「○○さんと同じ音」にしなくていい
ここも大切です。
憧れの奏者を見つけるのは良いこと。
でも、
「あの人と同じ音を出さなきゃ!」
と考えすぎる必要はありません。
身体の形も、口の形も、歯並びも、肺活量も、楽器も、リードも違います。
だから最終的には、
自分の身体と楽器で、自分が納得できる音
を探していくことになります。
「良い音」を追求することは、
誰かの音をコピーすることではなく、自分の音を育てていくこと
でもあります。
合奏では「一人で良い音」だけでは足りない
ここは、前回の記事ともつながります。
一人で吹いたとき、
「めちゃくちゃ良い音!」
でも、
合奏に入ると、
「なんか自分だけ目立つ……」
ということがあります。
これは、
良い音=いつでも前に出る音
ではないからです。
合奏では、
音量
音色
音程
アタック
フレーズ
を周りと合わせる必要があります。
つまり、
ソロで良い音
と
合奏で良い音
は、少し違うことがあります。
合奏では、周囲と混ざりながらも、自分の役割を果たせる音が必要です。
「良い音」はゴールではなく、道具
ここまで読んで、
「結局、良い音って何?」
と思った方へ。
私は、
良い音は、それ自体がゴールではなく、音楽を表現するための道具
だと思っています。
悲しい音楽なら、少し暗い音。
楽しい音楽なら、明るい音。
遠くに届けたいなら、芯のある音。
優しく歌いたいなら、柔らかい音。
合奏で溶け込みたいなら、周囲とブレンドする音。
つまり、
「いつでも同じ音を出す」ことが良い音ではない。
初心者が目指したい「良い音」5か条
最後に、初心者向けにまとめてみます。
🎵 ① 安定している
音がフラフラしない。
🎵 ② 響きがある
息っぽいだけの音にならない。
🎵 ③ 芯がある
音の中心がぼやけない。
🎵 ④ 音色をコントロールできる
明るくも柔らかくもできる。
🎵 ⑤ 周りと合わせられる
一人で良い音ではなく、合奏の中でも機能する。
そして何より、
⑥ 自分が「この音、好きだな」と思える
これも大切にしてほしいです。
まとめ
「良い音って結局どんな音?」
と聞かれたら、私はこう答えます。
「良い音には一つの正解があるわけじゃない。でも、自分が出したい音を、安定して、自由にコントロールできる音は、良い音に近づいていると思う。」
クラリネットの音色は、
息・アンブシュア・口の中・リード・マウスピース・楽器・身体の使い方
など、さまざまな要素から生まれます。
だから、
「良い音を出そう!」
と闇雲に吹くより、
「私はどんな音が好き?」
↓
「その音に近づけるには何を変えればいい?」
↓
「その音を小さく・大きく・高く・低くしても保てる?」
と、一つずつ考えてみてください。
そうすると、「良い音」という曖昧だった言葉が、少しずつ具体的になってきます。
そして最終的には、
「良い音を出す」から「音で表現する」へ。
そこまで行くと、クラリネットはもっと面白くなります。🎵
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