こんにちは。英語講師のmasaです。
前回は、AIが英語長文の展開をどこまで読み解けるかをご紹介しました。
今回は、和文英訳です。
今回取り上げるのは、佐藤昭弘氏の『自然な英語が書ける! 上級を目指すライティング・トレーニング』(NHK出版)です。
佐藤氏は、アメリカの新聞社などで記者として活躍し、NHKの語学テキストで英作文添削講座「Writers’ Workshop」を担当してきた方です。
本書は、その講座をもとに、自然な英文を書くためのコツや学習法をまとめたものです。(NHK出版の書籍紹介)
私は、佐藤氏の英文を、英語を書くうえでお手本にしたいと思っています。
日本語の内容が、無理のない英語で、しかも情景が浮かぶように表現されているからです。
ただ、読んで感心することと、自分でも書けることの間には、かなり距離があります。
「この日本語から、どうしてこの動詞を思いつくのか」
「日本語にある言葉が、英訳では見当たらないのはなぜか」
「日本語と英語では、情景の見せ方がどう違うのか」
本書にも添削や解説はありますが、さらに細かく聞いてみたいところがありました。
そこで、その疑問をChatGPT(pro6)にぶつけてみました。
お願いしたのは、日本語の原文と佐藤氏の参考訳を照らし合わせて、どのような発想でその英語になるのかを説明してもらうことです。
単語や文法の説明に加えて、日本語の意味をどう捉え、何に注目すると、この英文にたどり着くのか。
その道筋を知りたいと思いました。
では、見ていきましょう。
以下の和文と参考訳は、同書からの引用です。
和文
夕刻に降り始めた雨は、バス停で降りるころには土砂降りになっていた。
大きな雨粒が激しい勢いでアスファルトに当たり、白いしぶきを上げている。
真壁修は、歩道わきにそびえる欅のもとへ駆け寄り、肌の荒れた太い幹に身を寄せて空を仰いだ。
佐藤氏の参考訳
The rain that had started in the evening was bucketing down by the time Osamu Makabe got off the bus.
Big raindrops were pounding the street, kicking up white splashes.
Makabe ran to the foot of a Japanese zelkova tree towering beside the sidewalk, stood close to its fat, rough-barked trunk and looked up at the sky.
AIの解説をもとに、一文ずつ見ていきます。
①第一文
最初の文では、「なった」をどう扱うかに注目します。
【和文】
夕刻に降り始めた雨は、バス停で降りるころには土砂降りになっていた。
【佐藤氏の参考訳】
The rain that had started in the evening was bucketing down by the time Osamu Makabe got off the bus.
まず見ていただきたいのは、「土砂降りになっていた」に当たる部分です。
was bucketing down
bucketは「バケツ」ですが、bucket downで「雨が激しく降る」という意味になります。
日本語でいう「バケツをひっくり返したような雨」を思い浮かべると、感じをつかみやすいと思います。
ここで面白いのは、「土砂降りになっていた」(変化)を、「激しく降っていた」(過去進行形)に組み替えていることです。
日本語は、雨が土砂降りへ変わったことを述べています。
それに対してwas bucketing downは、真壁がバスを降りたその瞬間、目の前で続いている雨の勢いを描いています。
読者に見せたいのは、バスから降りた真壁を迎える激しい雨。
そのために、変化の結果として目の前にある情景を、動詞で示していると読めます。
「なるを英訳するとbecome」とだけ覚えていると、なかなか出てこない発想です。
また、「降り始めた」はhad startedと簡潔に表されています。
英語では、rainを「雨という出来事」として捉えられるので、the rain startedだけで「雨が降り始めた」という意味になります。
「降る」に当たる動詞を、別に足す必要はないんです。
そうすると、文の前半で雨が始まった時点を簡潔に示し、後半のwas bucketing downで、物語のその場面の雨の勢いをしっかり描けます。
時制にも役割があります。
had startedは、バスを降りたときより前に起きた「雨の始まり」。
was bucketing downは、バスを降りたときに進行していた「雨の様子」です。
そして、「バスを降りるころには」に当たるby the timeが、降車の時点を目印にしています。
夕刻に始まった雨が、その時点ではもう激しく降っている。
文全体で、この時間の流れを示しています。
私は、この説明を読んで、「なる」という一語の訳し方だけを考えていても、答えにはたどり着かないのだと感じました。
もう一つ、主語にも注目してみてください。
天候の話なので、学校で習った天候のitを思い浮かべる方もいるかもしれません。
参考訳では、日本語の「夕刻に降り始めた雨」をThe rain that had started in the eveningというまとまりにして、主語にしています。
これにより、「夕刻に始まった、その一続きの雨」を取り上げ、その雨が今どう降っているのかを描けます。
雨そのものが、文の中心に置かれているわけです。
さらに、日本語では三文目まで出てこない「真壁修」が、英訳では一文目に移されています。
by the time Osamu Makabe got off the bus
最初から誰がバスを降りるのかを明らかにすることで、雨の描写が真壁の登場場面につながっています。
三文目では、すでに紹介した人物なのでMakabeと姓だけで受けています。
日本語の「バス停で降りる」も、英語ではgot off the busです。
どこで降りたかをそのままなぞる代わりに、何から降りたのかを明示しています。
単語を置き換えるだけでなく、情報を出す順番や、書くべき情報まで調整している。
AIは、そこにも目を向けていました。
②第二文
二つ目の文では、雨の勢いを動詞にまとめています。
和文
大きな雨粒が激しい勢いでアスファルトに当たり、白いしぶきを上げている。
佐藤氏の参考訳
Big raindrops were pounding the street, kicking up white splashes.
注目したいのは、「激しい勢いで当たる」がpoundingにまとまっているところです。
日本語では、「当たる」という動作に、「激しい勢いで」という説明を添えています。
参考訳のpoundには、それだけで「強く、繰り返し打ちつける」という意味があります。雨粒が路面を何度もたたく、その強さまで動詞一つで伝えています。
これは、自分で英作文をするときにも使える考え方です。
「激しく」「強く」といった言葉を後から足す前に、その動きや勢いを含んだ動詞を選べないか。
AIは、poundの訳語と一緒に、こうした選び方を説明してくれます。
続くkicking up white splashesも、動きがよく見える表現です。
kick upは、衝撃や動きによって、ほこりや水しぶきなどを上へ跳ね上げることを表します。ここでは、雨粒が路面をたたき、その勢いで白いしぶきが跳ね上がっています。
文のつなげ方にも注目してみてください。
日本語では「当たり、白いしぶきを上げている」と続いています。
参考訳では、were pounding the streetを文の中心に置き、コンマの後にkicking up white splashesを添えています。
この文では、雨粒が打ちつける動きに、その結果として起こるしぶきが結びついています。路面への衝突から、しぶきが上がるところまで、一続きの出来事として読めます。
文法の名前でいえば分詞構文ですが、それがどんな情景を伝えているかまで説明してもらうと、この形を使う意味が見えてきます。
「アスファルト」がthe streetになっている点も、私は面白いと思いました。
asphaltも英語で使える言葉です。路面の材質や質感を描きたいなら、その言葉を選ぶ意味があります。
ここでthe streetとすると、目が向くのは真壁の前にある道路です。
次の文に出てくるthe sidewalkとともに、真壁がいる場所の様子が見えてきます。
日本語にある語の辞書的な訳だけでなく、その語が場面の中で何を指しているのかを考えているわけです。
時制も、日本語の「上げている」をそのまま現在形にはしていません。
were poundingと過去進行形にすることで、過去の物語の中で、目の前に続いている雨粒の動きを描いています。
③第三文
三つ目の文では、「身を寄せる」を姿勢として描いています。
和文
真壁修は、歩道わきにそびえる欅のもとへ駆け寄り、肌の荒れた太い幹に身を寄せて空を仰いだ。
佐藤氏の参考訳
Makabe ran to the foot of a Japanese zelkova tree towering beside the sidewalk, stood close to its fat, rough-barked trunk and looked up at the sky.
日本語の「駆け寄り、身を寄せて、空を仰いだ」に対応して、参考訳の動作の中心は次の三つになっています。
ran ... stood ... looked ...
木のもとへ走る。幹の近くに立つ。空を見上げる。
このうち、私が特に気になったのは、「身を寄せて」がstood close toになっているところです。
日本語の「身を寄せる」からは、体を近づける動きを思い浮かべます。
参考訳では、その結果として「幹のすぐそばに立った」という姿勢を描いています。
前半のran to the foot of...で、木のところまで走ってきたことは、すでに書かれています。
そのあと、どこに身を置いて空を見上げたのかを、stood close toで示しているのです。
ここで、stood close toは、幹のすぐそばにいることを表し、体が触れているかまでは言い切っていません。
日本語の「身を寄せる」には、幹にもたれたり、体を押しつけたりする姿を想像する余地もあります。ただ、参考訳はそこまで具体的な接触を加えず、幹の近くに身を置いたことを伝えています。
「身を寄せる」の訳を決めるには、その言葉だけを見ていても足りない。
人物がそこまでに何をして、今どんな姿勢にあるのかまで考える必要がある。AIの解説から、そういうことが見えてきます。
木の描き方にも工夫があります。
a Japanese zelkova tree towering beside the sidewalk
zelkovaという種類名を知らない読者でも、treeがあるので、木の話だとわかります。
toweringは、高くそびえる様子を表す言葉です。
真壁が駆け寄るthe footが木の下の場所を示し、toweringが上への高さを示すので、大きな木と、その足元にいる人物を思い浮かべられます。
幹の描写は、fat, rough-barked trunkです。
fatは幹の太さや量感を、
rough-barkedは樹皮の粗さを表しています。
日本語の「肌」をそのままskinとするのではなく、木の表面に当たるbarkを使っています。
最後の「空を仰いだ」も、looked up at the skyという、よく知っている言葉の組み合わせです。
難しい単語を並べなくても、走る、立つ、見上げるという動きを順に置けば、人物の行動がはっきり見える。この文は、そのお手本になると思います。
このように見てみると、
AIの解説は、個々の語句を説明したうえで、段落全体がどのように読者へ伝わるかまで見ていました。
私が驚いたのは、日本語から英語への道筋を説明できることです。
参考訳だけを読んだときは、「自然な英語だな」「この表現は覚えておこう」で終わっていたところがありました。
でも、日本語の原文と照らし合わせて、一つひとつの表現がどう組み替えられているのかを説明してもらうと、考えるべきことが見えてきます。
変化を直接述べるか、その結果の情景を見せるか。
勢いを別の言葉で足すか、動詞そのものに含ませるか。
人物の移動を描くか、移動したあとの姿勢を描くか。
誰の話なのかを、どの時点で読者に知らせるか。
こうした選択を、自分でも検討できるようになります。
もちろん、佐藤氏が実際にどんな順序で考え、どんな意図で一語一語を選んだのかを、AIが知っているわけではありません。
それでも、原文と参考訳から、そこに至る発想の道筋をここまで具体的に説明できることには驚きました。
「この表現でもいいのでは?」
「どうして、こちらの動詞を選ぶの?」
気になったところを、その場で聞き返せるのも助かります。
一度の解説でわからなくても、自分が納得できるところまで質問を重ねられます。
今回紹介したのは、完成した参考訳をもとにした解説です。
私がAIに価値を感じたのは、その英文をお手本として学ぶために、自分の理解が届いていない部分を一緒に考えてくれるところでした。
英語講師として自信を持っていても、こういう説明を読むと、私自身も勉強になります。
良い英文に出会ったときに、「自分には書けない」で終わらせず、どう考えればそこに近づけるのかを聞いてみる。AIは、そのための心強い相談相手になると感じています。
引用元:佐藤昭弘『自然な英語が書ける! 上級を目指すライティング・トレーニング』NHK出版。