社会不安障害の症状が時々顔を出すわたしにとって、美容院は覚悟が必要な場所です。
今回は、そんなわたしが以前体験した、意味不明で可笑しな「パリジャン事件」について書きたいと思います。
★地方の静寂に、原宿の風が吹く
その美容師さんは、原宿の有名店でバリバリやってたっていう輝かしい経歴を持って、地元に帰ってきた人でした。
元パリコレモデルさんも担当してたっていう本物のプロ。
ハサミの動きも洗練されてて、イケメンで、とにかく仕事が早い。
でも正直、いつも仕上がりが「最高!」って思えるわけじゃなかったんです(笑)。
それでも通っていたのは、技術のわりに安くて、やっぱり近所のどのお店よりも上手かったから。
「緊張するけど、ここなら間違いないかな」っていう、消去法に近い信頼でした。
でも、常連になっても緊張は消えません。
首にタオルを巻かれ、髪を濡らされて、一番隠したい顔のラインが丸出しになったとき、
「都会の最先端を見てきた彼の目に、わたしはどう映っているんだろう。。」
いつもそんなどうでもいい自意識が顔を出し、わたしはそっとスマホに視線を落とします。
「あ。。こんな感じで短くしてください。。。」
少しだけ写真を見せて、あとは彼の感性にすべてを委ねる。それがいつものスタイルでした。
★爆誕した、二人のコメディアン
ハサミがリズムを刻む音を聞きながら、わたしは静かに完成を待ちます。
やがてドライヤーの音が止まり、「いかがですか?」と促されるまま、メガネを装着して鏡を見つめました。
。。。。
そこにいたのは、スマホで見せたモデルさんじゃありません。
整いすぎた前髪に、パキッと切り揃えられたサイド。
鏡の中にいたのは、雨上がりにひょっこり現れた「一粒のキノコ」でした。 角度を変えれば「ホトちゃん」だし、別の角度から見れば「日村さん」。
日本のバラエティ界を支えるマッシュヘアの二大巨頭が、今、わたしの頭の上で奇跡のコラボを果たしていたんです。
「またかよ。。。」
以前も他の店で変なマッシュにされたトラウマがあり、絶望と笑いで震えるわたしに、彼は満足げに言い放ちました。
「パリジャンみたい☆いい感じ♪」
。。。パリジャン。
それって「パリの男性」のことだよね?
彼はあえて、女性のわたしをそう呼びました。
「メンズっぽさを混ぜるのが、今の最先端でおしゃれなんだよ」という彼の、原宿仕込みの美学。
それが「お茶の間でおなじみの髪型」と強引に結びついて、わたしの頭に降臨してしまった瞬間でした。
★パリか、お茶の間か
「めっちゃパリジャンだわ」と自画自賛する彼。
きっと彼の目には、わたしが「中性的な魅力のパリ住人」に見えていたんでしょう。
でも、鏡に映るわたしはどう見ても、パリの街角よりフジテレビのスタジオの方が似合うビジュアルです。
「ジェンダーレスなパリジャン」っていう響きと、目の前の「安心感のあるマッシュヘア」。このギャップに、頭の中はパニック。
「。。。はい、ありがとうございます。いい感じです(わら)」
顔を引きつらせながら、精一杯の「やさしい嘘」をつきました。
これが、社会不安障害を抱えるわたしの精一杯のサバイバル術。
心の中で「メルシー。。。(泣)」と呟きながら、逃げるように会計を済ませました。
★そして、これからのわたし
あれから月日が流れて、髪もすっかり伸びました。
今では「あの時、彼なりに一生懸命、わたしの中に『パリ』を見つけようとしてくれたんだな」なんて、微笑ましく思えたりもします。
最近は、美容院に行くのが怖いのと、ショートじゃなくなって「まあ自分で切ってもバレないか」という甘い考えで、セルフカットばかり。
でも、鏡と格闘して切った髪は、やっぱりどこか「なんか変」なんですよね。 切った翌日に、「あれ? もしかして自分で切った?(笑)」なんて言われる始末です。
自分で切るたびに、あのプロの鮮やかなハサミさばきを思い出します。
あの日みたいに、有無を言わさず「キノコ」にされるのは怖いけど、あの原宿の魔法使いが、今のこの長い髪をどう料理して、どんな変化球の「パリジャン」をなげつけてくるのか。
そう考えると、ちょっとだけ、またあの椅子に座ってみたくなったりして。
次に切ってもらうときは、圧倒されて固まるんじゃなくて、「それも面白いかも」って笑えるくらいになっていたい。
そして、変な髪形にされてもそれが似合ってしまうような人物になっていたいな。