自分のお店の良さは、お客様が求めていることと合っていますか?
技術にも、サービスにも、自信はある。
お客様に喜んでもらえるように、毎日いろいろな工夫もしている。
それなのに、なぜか新しいお客様が増えない。
そんなふうに感じることはないでしょうか。
・技術やサービスには自信があるのに、集客につながらない
・紹介文を書こうとすると、「丁寧な接客」「安心できるお店」以外の言葉が思いつかない
・近くのお店と比べられると、結局は価格でしか違いを説明できない
・SNSやホームページで、何を伝えればいいのかわからない
どれも、お店の良さが足りないから起きているとは限りません。
原因のひとつとして考えられるのが、「店主が伝えたいこと」と「お客様が知りたいこと」のずれです。
店主が伝えたいのは、技術のこと、使っている商品のこと、内装のこだわり。一方で、初めて来るお客様が予約の前に知りたいのは、「どのくらい時間がかかるのか」「いくらかかるのか」「無理にすすめられたりしないか」かもしれません。どちらが正しいという話ではなく、見ている場所が少しずれているのです。
だから大切なのは、自店の良さを新しく増やす前に、お客様が何を求めているのかを先に整理すること。そのうえで、今やっている工夫と見比べてみる。それだけで、「やっているのに、伝えていなかったこと」が見つかることがあります。
この記事では、バリュープロポジション・キャンバスを使って、自分のお店のお客様とサービスを実際に書き出し、価値のズレを見つけて、発信やサービスの改善を1つ決めるための実践編としてまとめました。
バリュープロポジション・キャンバスとは
「バリュープロポジション」は、直訳すると「価値の提案」。ここでは、お客様があなたのお店を選ぶ理由と考えます。
バリュープロポジション・キャンバス(以下、VPC)は、その理由を、紙の左右に分けて整理する方法です。右側にお客様のこと、左側に自分の店のことを書き、対応している項目どうしを線で結びます。 お客様が求めていることと、お店が提供していることが、どのくらい重なっているかを確かめるための図だと思ってください。
右側(円):お客様のこと
やりたいこと・片づけたいこと
お客様が、お店を利用して実現したいこと。「肩こりを楽にしたい」のような目に見える結果だけでなく、「家族に機嫌よく接したい」といった気持ちや、「職場できちんとして見られたい」といった人からの見られ方も含みます
困っていること・嫌なこと
やりたいことの途中で、お客様が困っていること、避けたいこと
うれしいこと・こうなりたいこと
こうだったらうれしい、こうなれたらいい、とお客様が感じていること
左側(四角):自分の店のこと
提供している商品・サービス
メニュー、コース、カウンセリングなど
お客様の困りごとを減らす工夫
右側の「困っていること」を小さくしている取り組み
お客様のうれしさを増やす工夫
右側の「うれしいこと」を大きくしている取り組み
右と左がしっかり対応していれば、選ばれる理由がはっきりしている状態。対応していない部分は、改善のヒントになります。
VPCは、2014年の書籍『Value Proposition Design』(邦訳『バリュー・プロポジション・デザイン』)で発表された図です。ビジネスモデル・キャンバスでいえば、「顧客」と「価値提案」の2つの枠を、さらに詳しく掘り下げたものにあたります。事業全体を見渡すのがビジネスモデル・キャンバスなら、VPCは「このお客様に、うちは何を届けているのか」に絞って虫眼鏡で見るイメージです。
1人で営む整体院の記入例、7つの手順、よくある失敗、書いた後の使い道は、こちらの動画で詳しく解説しています。ご覧いただくと、ぐっとわかりやすくなります。
【初心者向け】バリュープロポジションキャンバスとは?顧客ニーズと自社の強みを整理する方法
<実践イメージ>個人サロンの「選ばれる理由」を見つける
ここでは、手順に沿って、お客様のことを書き出すところから、ズレを見つけて一文にまとめるところまで、ひととおりの流れを見てみます。
※ここで紹介するのは、考え方を伝えるための架空の説明例です。実在の店舗やお客様、調査の結果ではありません。お客様の言葉も、「こう聞いたとしたら」という想定で、この記事のために作ったものです。
たとえば、オーナーが1人で営む個人サロンがあるとします。最近、近くに似たメニューのお店がいくつかでき、ホームページの紹介文を見直したいと考えています。
お客様を1人に絞る
まず、具体的なお客様を1人思い浮かべます。「40代の女性」のような広いくくりではなく、顔が浮かぶ常連さんを1人です。
ここでは、月に1回ほど通ってくださる常連のMさんを選びました。
40代、会社員。家では小学生の子どもの世話もしている
仕事や家事で忙しく、定期的なケアを受けたいと考えている
ほかに、学生さんや、60代のご夫婦のお客様もいるかもしれません。でも、ここでは混ぜません。客層が違えば、求めていることも違うからです。必要なら、別の紙に分けて書きます。
右側:お客様のことを先に書く
左側(お店のこと)より先に、右側を仕上げます。お店のことから書くと、「うちはこれが得意だから、お客様もこれを求めているはず」と、都合よく埋めてしまいやすいからです。
やりたいこと・片づけたいこと
忙しい日常の中で、自分をケアする時間を持ちたい(気持ち)
疲れを感じにくい生活を送りたい(目に見える結果)
困っていること・嫌なこと
長時間のメニューは、予定に組み込みにくい
初めてのお店では、施術内容や料金がわからず不安
強引な勧誘を受けたくない
うれしいこと・こうなりたいこと
短時間でも気分転換できる
自分の悩みに合わせて相談できる
安心して通える
「やりたいこと」は、最初は目に見える結果の側に偏りがちです。気持ちの側を1つは書いておくのがポイントです。また、この例では「人からの見られ方」の側がまだ空欄です。たとえば「職場で疲れた顔だと思われたくない」といった言葉をMさんから聞けたら、ここに書き足します。
次に、書いた項目の中から、Mさんにとって重要度が高そうなもの上位3つに印をつけます。ここでは仮に、次の3つを選びました。
長時間のメニューは、予定に組み込みにくい
初めてのお店では、施術内容や料金がわからず不安
強引な勧誘を受けたくない
左側:自分の店のことを書く
次に、お店のことを書きます。新しいアイデアではなく、今すでにやっていることを書き出します。
提供している商品・サービス
30分・60分の施術メニュー
初回カウンセリング
お客様の困りごとを減らす工夫
料金と所要時間を事前に明示
勧誘なしの方針
LINEでの予約受付
お客様のうれしさを増やす工夫
一人ひとりに合わせた施術内容の相談
自宅でできる簡単なセルフケアの案内
このオーナーさんは、ほかに「施術で使うオイルの種類」に強いこだわりがあり、Instagramの投稿もオイルの紹介が中心だったとします。こだわりも、ここでは消さずにメモしておきます。
線で結んで、3つに仕分ける
右側の上位3つと、左側の工夫を線で結びます。あわせて、その工夫をホームページやSNSで外に伝えているかも確認します。
結んだ結果を、元記事の3つに仕分けます。
① すでに対応しているが、発信できていないもの
「勧誘なし」は、お客様の不安を減らす工夫です。でも、ホームページにもInstagramにも書いていなかったと仮定します
② お客様のニーズに、まだ十分対応できていないもの
料金と時間は載せているものの、「当日、どんな流れで進むのか」は、初めての方にはわからないままでした
③ 店主はこだわっているが、今回のお客様の重要なニーズとは結びついていないもの
オイルへのこだわりは、Mさんの上位3つのどれとも線がつながりませんでした
ここで注目したいのは①です。「勧誘なし」は、新しいサービスを増やさなくても、すでにやっていることです。この場合の改善案は、サービスを足すことではなく、今ある工夫を伝えることになります。ホームページの料金表の下に「回数券などの勧誘はしていません」と一行添えるだけでも、Mさんのような方の不安には応えられるかもしれません。
③も、悪いことではありません。今回のお客様が選ぶ一番の理由ではなさそう、というだけです。別の客層では大切な理由になっている可能性もあります。
「選ばれる理由」を一文にまとめる
最後に、型に当てはめます。
(誰)が、(何を理由に)、(どうなれる)お店
誰が:仕事や家事で忙しい40代の方が
何を理由に:30分から選べるメニューと、勧誘なしの安心感で
どうなれる:自分のための時間を、無理なく続けられる
一文にすると、こうなります。
仕事や家事で忙しい40代の方が、30分から選べるメニューと勧誘なしの安心感で、自分のための時間を無理なく続けられるサロン
最初に浮かんだ「丁寧な接客」「安心できるお店」と比べてみてください。誰に、何を理由に選ばれているのかが、具体的な言葉になりました。
ただし、この一文はあくまで顧客価値の仮説です。Mさんについて書いた言葉には、オーナーさんの推測も混ざっていますし、「勧誘なし」を書いたからといって、それが実際に予約の決め手になるかは、まだわかりません。
お客様のニーズと工夫に線が引けることと、実際に予約や来店につながることは、別のことです。
次に来たお客様に確かめながら、書き直していきます。
まずは、右側の円だけでも書いてみる
ここまで読んで、「うちでもやってみようかな」と思った方は、今日、常連さんの顔を1人思い浮かべて、右側のお客様のことだけ書いてみてください。お店のことは、そのあとで大丈夫です。お客様の側から書き始めるだけで、いつもとは違うものが見えてきます。
ワークシートのご紹介
動画を見て「なるほど」と思っても、いざ自分のお店で書こうとすると、「お客様のことを書いているつもりが、お店の自慢になってしまう」「線を結んでみたけれど、何を直せばいいのかわからない」と、手が止まってしまうことがあります。
そこで、お客様を1人に絞るところから、右側・左側の書き出し、線で結んで3つに仕分ける作業、選ばれる理由の一文、使い道の比較、お客様への確かめ方と今週やることまで、順番に書き込めるPDFワークシートをつくりました。
【お店が選ばれる理由を見つける|バリュープロポジション・キャンバス実践ワーク】
同じ7つの手順で、目安は1時間ほど。用意するものは、ペンと、あれば付箋です。
【ワークシートの構成(A4縦・全8ページ)】
1ページ:このワークの学習目標、バリュープロポジション・キャンバスとは(右の円・左の四角の図)、書くときのポイント3つ
2ページ:ワークの使い方(7つの手順と該当ページ)、書く前に知っておきたい、よくある失敗4つ/WORK 1 いまの「うちの良さ」を書いておく
3ページ:WORK 2 右の円:お客様のことを先に書く(手順1〜3)
4ページ:WORK 3 左の四角:自分の店のことを書く(手順4)
5ページ:WORK 4 線で結んで、3つに仕分ける(手順5)
6ページ:業種別の記入例(整体院/美容室/パーソナルジム)
7ページ:WORK 5 一文にまとめて、使い道に優先順位をつける(手順6)
8ページ:WORK 6 お客様に確かめて、今週やることを決める(手順7)
対象のお客様を1人決める
2ページでは、まず今のお店の紹介文をそのまま書き写し、自分が自信を持っていること・こだわっていることを書いておきます。ここで書いたものは、あとで一文や仕分けと見比べるためのものです。
3ページの最初で、お客様を1人に絞り、呼び名、どんな人か、どのくらい通っているかを書きます。客層が複数あるときは、このページをコピーして紙を分ける前提になっています。
お客様のやりたいこと・困りごと・うれしいことを整理する
同じ3ページで、「やりたいこと・片づけたいこと」「困っていること・嫌なこと」「うれしいこと・こうなりたいこと」を、お客様の言葉(言われたまま)で書き込みます。「やりたいこと」には、目に見える結果か、気持ち(人からの見られ方を含む)かに○をつける欄があり、気持ちの側も1つは書くようになっています。
重要度の高い項目を選ぶ
3ページの各項目の横に「上位3つ」の欄があり、お客様にとって重要なものに○をつけます。
自店の商品・サービス・工夫を整理する
4ページでは、「提供しているもの」「お客様の『困った』を減らす工夫」「お客様の『うれしい』を増やす工夫」を書き出します。それぞれに「外に伝えている?(HP・紹介文・POP)」の欄があり、次のページでの仕分けにつながります。思い出しやすいように、予約のしかた、待つ人への配慮、最初の説明、しないこと、施術中の確認、次回への引きつぎ、と場面ごとに分けたヒントもついています。
左右の対応関係を確認し、ズレを見つける
5ページでは、上位3つなどのお客様のことと、それに応えている店の工夫を並べて結び、「伝えている?」と仕分け(①か②)を記入します(5行分)。そのうえで、①対応しているのに外に伝えていないもの、②まだ応えられていないもの、③こだわっているが困りごとに結びつかないもの、の3つに分けて、次にやることを書きます。
自店が選ばれる理由を一文にまとめる
7ページでは、「誰が」「何を理由に」「どうなれる」の3つの欄を埋めてから、一文にまとめます。1回目と書き直しの2回分の欄があり、2ページで書き写した今の紹介文と見比べられます。
改善策を1つ選ぶ
同じ7ページで、一文の使い道を「紹介文・プロフィール」「メニュー表・店頭のPOP」「接客のひと言」「新メニュー・値上げの検討」の4つで比べます。「上位3つにつながるか」「今の人手で無理がないか」「今週から始められるか」に○をつけ、最初にやるものに◎をつけて1つ選びます。
8ページでは、会計のときの聞き方や口コミの読み返しでキャンバスの内容を確かめる記録表(3行)と、最初にやること・書き加える工夫・接客のひと言・見直すこだわり・お客様に確かめることを日付つきで書く実行計画、次に見直すタイミングのチェック欄があります。
【記入例について】
6ページには、整体院・美容室・トレーナー1人のパーソナルジムの3つの記入例を載せています。整体院は元記事に出てくる例、美容室とパーソナルジムはこのワークシート独自の例で、いずれも架空の例であり、実在の店舗・お客様の事例ではありません。
【こんな方におすすめです】
・開業準備中〜開業3年目くらいの、個人サロン・パーソナルジムなど小さなお店のオーナーさん
・1〜5人ほどでお店を運営している方
・自店の良さが、お客様に伝わっていないと感じている方
・ほかのお店との違いを、うまく説明できない方
・ホームページやSNSの紹介文に悩んでいる方
・メニューやサービスが、お客様のニーズに合っているか確かめたい方
・価格以外の理由で選ばれるお店を目指したい方
専門的なマーケティングの知識がなくても取り組めるように、問いと記入例はできるだけやさしい言葉で書いています。
なお、このワークシートは、お客様が求めていることと自店の工夫を整理し、ズレを見つけるための道具です。集客や売上などの成果を保証するものではありません。書き上げたキャンバスも一文も、あくまで仮説です。だからこそ、最後のページで「お客様に確かめる」ところまでを1つの流れにしています。
印刷して、ペンで書き込むのがおすすめです。
このワークシートで取り組めるのは、
具体的なお客様を1人決めて、やりたいこと・困っていること・うれしいことを、お客様の言葉で書き出す
その中から、重要度の高いものを3つ選ぶ
自店の商品・サービス・工夫を書き出し、外に伝えているかを確かめる
左右を線で結び、「伝えていない」「まだ応えられていない」「結びつかない」の3つに仕分ける
自店が選ばれる理由を一文にまとめる
使い道を比べて改善策を1つ選び、お客様に確かめながら今週から始める
ことです。理論を読むだけでなく、自分のお店を題材に、紙1枚・1時間ほどで実際に書いてみる。そのための教材として、手元に置いていただけたらうれしいです。